二次創作小説(新・総合)
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- 敵中横断二九六千光年
- 日時: 2019/04/20 12:00
- 名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)
個人リメイクによるオリジナルとは別の『ヤマト・イスカンダル編』。
古代進が最初は貨物輸送機のパイロットとして登場します。武装のない輸送機でサーシャを追うガミラスと遭遇、危機を切り抜けカプセルをヤマトに届けるという展開です。
この作では〈人類滅亡まで一年〉の定義を『最後のひとりが死ぬとき』でなく『すべての女が子を産めなくなるとき』及び『すべての子供が白血病に侵されるとき』であり、そのリミットが共にあと一年であるとします。ヤマトが九ヶ月で帰還できるならまだ生きている人のほとんどを救えるのですが、しかし一日遅れるごとに十万の子が病に倒れ、百万の女が出産不能になる設定です。ゆえにヤマトはこの作では、子を救うための船としてイスカンダルを目指します。
なお、同じ作品を二次小説サイト〈ハーメルン〉と〈2.novelist.〉にも投稿しています。
- Re: 暴動 ( No.14 )
- 日時: 2019/05/13 20:41
- 名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)
『新たなニュースです』
テレビ画面の中でキャスターが告げた。古代は携帯食セットの中にあったガムをモグモグと噛みながら、ベッドの上に転がって足を投げ出し画面を見ていた。さっきから報道される内容は冗談としか思えない。
『〈ヤマト〉発進のために必要なワット数の電気を供給する件について、政府は今後八時間の大掛かりな計画停電を行うことを発表しました。これは日本のみならず世界規模で行われるもので、具体的には地下都市内のモノレール・路面電車などの運行停止、農場で栽培中の植物への太陽灯照射の停止、野球・サッカー場などの照明の停止、自動車充電スタンドなどへの電力供給の停止などがこれに当たります。これは市民生活への影響を考慮して順次行うものとされ、二時間から四時間かけて完了する予定です。帰宅困難が見込まれる方は、すぐ近くの交通機関をご利用ください。また、在宅中の方は、外出をお控えください。決してパニックを起こさないよう冷静な対応をお願いします――』
「な、なんで?」と言った。「なんで船たった一隻動かすのにそんな話になるわけなの……?」
ニュースで言ってる〈ヤマト〉ってえのおれが今いるコレなんだろ! イヤだ! こんなとこにいるのはイヤだ! おれをこっから出してくれえ! パニックを起こして叫び出したい気持ちもしたが、心は不思議に冷静だった。と言うより、ここまで来ると、ただアッケにとられるだけだ。
冷静な対応ねえ……どうなんだろうかな、と思う。ニュースの画面では早速真っ暗にさせられたらしい競輪場の観客が『バカ野郎ーっ!』と叫んでいた。
そんなのだけならいいのだろうが、暴動が……と思うと案の定始まっているようだった。怒り狂った群集が街にあふれ出している。食料を求める暴動ならば古代もニュースでよく見ていたが、今日のはやや違うようだ。
『宇宙戦艦だとーっ! まだそんなもの造ってるのかーっ!』『降伏すれば滅亡だけは免れるはずだーっ!』
反戦の集団だった。古代が地上で基礎訓練を受けてた頃にも、軍の施設を連日取り巻いていたものだが、今や完全に暴徒の群れと化してるようだ。
火炎瓶に投石。弓を引いてる者までいる。平和主義的なところなどもはやカケラも見出せない。俄か装甲車に仕立てたトラックで地球防衛軍司令部に突撃をかけようとしている。
軍も力で対抗する以外ない。テレビ画面の中に繰り広げられるのはまさに地獄の光景だった。
今からでも降伏すれば命だけは取られぬのでは――市民の中にそう考える者が出るのは当然のことではあった。政府を倒せばガミラスと交渉の余地が生まれるはずだ――扇動する者達は、そう叫んで衆を煽っているらしい。
たとえ奴隷になってでも生きるべきだと叫ぶ者達。だがようすを見る限り、もし命が助かっても次は奴隷を解放せよとガミラスに向かって叫びそうだった。ガミラスは地球人を奴隷にするため来たのではないかと考える者は多くいるが、大方の学者はこれを否定しているという。たとえば、ロボットのアナライザー。あれは人間の奴隷である。文句を言わずに(言うやつもいるが)よく働いて、メシを食わせなくていい。ガミラスにもロボット作れるだろうのに、なんでえらい苦労をかけて地球人を奴隷にしなきゃいけないのか。
降伏は無意味。ガミラスは地球人を絶滅させに太陽系に来たのであり、講和は有り得ないだろう――それが現実の推論だった。地球がどれだけ呼びかけて侵略の意図をたずねても、やつらは決して答えない。ただ降伏か滅亡か、どちらかだけを選べと告げて、降伏すればどんな処遇が待つのかの説明さえしないのだ。
これはかつて地球において異教徒や異民族を滅ぼそうと本気でやった者達と同じだ――歴史学者らはそう言った。ガミラスはホロコーストをやりに来たのだと。
その考えを認めぬ者らが、いま津波となっている。火炎瓶が割れて炎が燃え広がり、催涙弾の煙が上がる。銃の発砲らしき光も画面に見えた。
『ここであらためまして再び、〈ヤマト計画〉について説明させていただきます』
とキャスター。〈再び〉どころかもう何回もされてる話がまた始まるようだった。
『政府の発表によりますと、防衛軍では波動エンジンの搭載を想定した宇宙軍艦の建造を数年前より極秘に進めていたとのことです。同サイズのガミラス艦にも勝ち得るものを目指して開発していたものが完成を見たとのことで、名称〈ヤマト〉を与えたうえでただちに発進させる決定が下りました。もはや一刻の猶予もならない地球の現状を打開すべく、起死回生の決意のもとにこの計画に臨むとのことです』
「はあ……」と古代は言った。「そうですか」
『そうです。なお、船に搭載される波動エンジンの開発には、外宇宙のある星からの技術供与がなされたとのことです。その星にガミラスの累が及ぶおそれもあるため、ここでその位置などを明かすことはできませんが、仮の名称を〈イスカンダル〉――これは古代インドにおいて〈アレキサンダー大王〉を指す言葉で、つまり〈天竺を目指す〉という意味合いだそうですが、計画では〈ヤマト〉をそのイスカンダルに旅立たせることになります。かさねて申し上げますが、ここでそのイスカンダルの位置座標や地球からの距離といった情報を明かすことはできません。しかし〈ヤマト〉には光の速さを超えて宇宙を航行する能力があり、それを用いれば一年以内に往復できる距離にある、とだけ説明されています。計画では九ヶ月での帰還を目指すとのことです。イスカンダルには放射能を除去するなんらかの装置があるとのことで、仮にこれを〈コスモクリーナー〉と呼びますが、これを持ち帰ることができればいま我々の生存を脅かしている地下都市内の生活・農業用水などをただちに浄化、同時に地表のあらゆる放射性物質を数年間で無害にできるとのことです。その原理や詳細はまだ不明だそうですが、いずれにしてもこれが人類が生き延びる最後のチャンスであるならば選択の余地はないものと政府は声明を発しました。〈ヤマト〉はじき発進の秒読み段階に入ります』
チクタク、チクタク……同じ話を何度聞いてもまるきり理解できなかった。これ、悪い冗談だよねえ。そうだよねえ。しかしなんだか、部屋がブルブル震え出してきたようだ。〈イスカンダル〉? 〈コスモクリーナー〉? おれ、夢でも見てるんちゃうか。夢ってなんかさ、見てる間は変にリアルに思えたりするよな。後から思い出してみると、支離滅裂なものなのに。
『波動エンジンの始動には莫大な外部電力が必要です。市民の皆様、どうか冷静にこの事態を受け入れるよう……』
うーん、と思った。やっぱりこれがいちばんよくわからないな。なんでそんなにたくさん電気が要るんだろう。
- Re: 天竺を目指す ( No.15 )
- 日時: 2019/05/22 20:57
- 名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)
再び〈ヤマト〉第一艦橋。島大介以下のクルーが、同じ放送を見やっている。
「〈イスカンダル〉っていうのはやっぱり言っちまったな。それがどこを指すのかはガミラスにはお見通しかもしれないのに」
「けど、今のでも言ったよね、『累が及ぶかもしれない』と。実のところどうなんだろう」
「ありゃあ本当の狙いは別さ。民衆に十四万光年も遠くにあるって教えたくないんだ。イスカンダルはガミラスにしてもおいそれと手出しはできない相手なんだろうってのが推測だ。でなきゃ地球に手を差し伸べられないだろう」
「だから少なくとも、ガミラスはイスカンダルの手前では〈ヤマト〉を待ち伏せできないだろうと」
「一応そういう見込みの元に計画立てているわけですよね」
「イスカンダルは〈天竺〉か。荒廃の地を救うため、経を求めて十四万八千里……まるっきり西遊記だよな。あれは本当は何里だったっけ」
「とにかく地球は一周が四万キロしかありません」
「マゼランまでの距離だって怪しいもんなんじゃないのか? 航海長、ちゃんと〈海〉を見てくれよな」
「ぼくは正直、真田技師長が副長になってくれるってのがうれしい。このドタン場でそれだけが唯一の救いだと思うよ」
「同感。しかし兼任なのかな」
「なんじゃないの? あの南雲二佐がまんま副長で行くんだったら、とてもとても……」
「まるっきり軍司令部のお目付け役だったもんね」
「死者の悪口を言うのは良くないですよ。特に縁起が」
「そうでした。けどさあ、あれって下士官の顔すらまともに覚えてなかっただろ。ここの斜めの床を踏まずに沖縄基地に入り浸っているからだ」
「だから悪口は良くないって……」
「もしかして沖田艦長、真田さんを副長に上げるために――」
「え? いやあ、それはない。〈コア〉が一緒に破壊されるおそれだってあったんだから」
「あ、そうか。けど、〈コア〉と一緒と言えば、例のパイロット。操舵長、彼を知ってるって言ってましたね」
「古代か? 訓練生のとき一緒だったよ」
「じゃあ島さんと同じクチ?」
「そうだな。あの頃、戦闘機乗りになりかけて、途中で抜かれた人間は、何かの理由ですぐ死なすのは惜しいとされたやつってことだ」
「おお、言うねえ」
「本当なんだからしょうがないだろ」
「じゃ、なんでそれが、〈がんもどき〉なんか飛ばしていたの?」
「おれに聞くなよ」
「その彼のせいで沖縄基地が……」
「よせよ」
「だって……」
「よせって」
「でもよ。これじゃ、人は秤に載せられたようなものじゃない。〈コア〉を取るか基地を取るかの選択で、〈コア〉が取られたのよ。そうでしょう? 何を犠牲にしたとしてもカプセルをここに届けなきゃならなかったから、あの基地は……」
「森! それ以上言うな!」
「何よ、本当のことでしょう! いいわ、彼のことはいい。けど一体、今日の地球のザマはなんなの? あたし達、なんのために戦ってきたの? 食料求めて暴動起こす人がいるのはわかるわ。けど、どう見ても今日のあれは違うじゃない! 一日くらい野球が見れないからってそれがなんなのよ!」
「森! たとえ本当でも言っていいことじゃない!」
「どうして? どうしてずっと命懸けで戦ってきた人間より、荷物運びのパイロットが大切なの? あたし達は死んでいい存在なわけ? だから船を動かす電気も、頭を下げて分けてもらわなきゃならないの? あたし達、人類を救いに行くのよね? なのに、どうして――」
後は言葉にならなかった。全員が黙り込んだ艦橋に森の泣き声が続いていた。
- Re: 来襲 ( No.16 )
- 日時: 2019/05/31 19:34
- 名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)
「コー・フク! コー・フク! コー・フク! コー・フク!」
「コー・フク! コー・フク! コー・フク! コー・フク!」
降伏降伏と叫ぶ暴徒がまわりを囲む地球防衛軍司令部。鎮圧は続いているが人の津波が治まる気配はなさそうだった。《NO MORE WAR》の札を掲げて後から後から湧いて押し寄せてくる。
「〈ヤマト〉なる船の発進をやめよーっ! いつまで無駄な抵抗を続けるーっ!」
「絶滅が確定してからでは遅ーいっ! 女が子を産めるうちに降伏をーっ!」
てんでんに声を涸らしてわめきたてる。この者達は狂人に他ならないが、子を持つ親が何割か含まれているに違いなかった。このままではあと一年で自分の子が白血病に侵される。自分より自分の子が先に死ぬ。それが確実であるという事実が彼らを狂わせるのだ。ゆえに、この者達に理を説くのは無駄だった。それどころか、降伏すればガミラスは青い地球を返してくれる。なぜなら〈彼ら〉は本当はいい宇宙人なのだから、悪いようにするはずがない、などいう考えさえ信じ込むようになっている。
しかし狂える者らの叫びは、中にいる者達にはまったく届いていなかった。より深い地下に置かれたぶ厚い扉の奥の防衛指揮所では、部屋の中央のプロジェクターが映し出す地球と月の立体映像に人の視線が集まっていた。十人からのオペレーターが忙しく手を動かしている。
ひとりが言った。「望遠で捉えました。映像出します」
ウインドウが開いて平面映像を出した。十字型のガミラス艦が宇宙にある。脚の足りないヒトデといった外観だ。
「四百メートル級の空母です」とオペレーター。
「信じ難いな。たった一隻でやって来たのか」
「こんなデカブツが、それも単艦……」
「無人機以外がここまで地球に近づいた例はありません」
「ガミラスと言えど短時間に易々と船を動かせはしないということではないでしょうか。〈ヤマト〉破壊にすぐ差し向けられるのがこのヒトデだけだったのかも……」
「その後は地球の船に捕まるか、沈められるのも覚悟と言うのか?」
「これだけデカい空母です。捕獲は難しいとは思いますが」
「とにかく、そうまでして〈ヤマト〉を沈めようとする……あの仮説はやはり正しかったのだろうか……」
並ぶ者達がガヤガヤと言う。うちひとりがオペレーターに尋ねた。「迎撃はできんのか?」
「月基地からスクランブルが出ています。しかし敵うものか……」
「拿捕など考えなくていい。今は〈ヤマト〉を無事に出すのが先決だ。〈ヤマト〉はまだ動けないのか?」
「急がせてはいるようですが……」
- Re: 始動準備 ( No.17 )
- 日時: 2019/06/09 08:24
- 名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)
「真田副長兼技師長。アナタノ仕事ヲ増ヤス代ワリニワタシヲ助手ニ付ケルトノ艦長ノオ言葉デス。ドウゾヨロシクオ願イシマス」
機関室にいる真田の元にアナライザーがやって来て言った。真田はこのポンコツを上から下まで眺めてから、
「お前、あの古代進についてきたやつか?」
「ソウデス」
「ふうん……まあよろしく頼む」
「ドントオ任セアレ」
「さて」
と人間のクルー達に向き直る。今は誰もが通常の船内服に作業用のヘルメットという姿だ。真田も頭にヘルメットを被っている。
「どうやら回転も上がってきたが、最終的な始動は火薬で行う。手順はみんな理解していると思うが」
徳川が言う。「ドカンとやってブルンと始動とは、まるで昔のプロペラ飛行機のエンジンだな」
「原始的ですが他に方法がなかったもので……使う火薬の量はケタ違いですがね。危険な作業でもありますので落ち着いて、慌てず正確に行ってください。特にこの床がこの床ですから、薬筒がどう転がるかわかりません。一発で掛かってくれればいいのですが……」
一同が前にしているのは戦車か何かの大砲の機関部のようなものだった。〈ような〉、ではなく、ほぼ大砲そのものなのだ。巨大な懐中電灯に電池を入れるようにして、一升瓶ほどもある真鍮製の火薬がギッシリ詰まった筒――見た目はまさしくバカでかい拳銃用の薬莢だ――を挿し込んで、尾栓を閉じておいてから横に付いたコードを引く。
するとドカーン! 予備回転を充分に与えた波動エンジンに対してそれを行えば、これを弾みに巨大な船を浮かせるだけのパワーを出して動き始めるというものである。何かしくじればケガ人や死者すら出しかねないのはもちろん、この大砲もどきを壊してエンジン始動が叶わなくなるおそれもあるかなりリスキーなシロモノだった。だがこの他にエンジンを始動させる適当な方法がないのであれば、それが適当な方法なのだ。
「しかし何度も試行せねばならないかもしれん。繰り返すほど事故が起こる率も高まるので、作業はまわりに気をつけながら行ってくれ」
「はい!」
と全員が言った。エンジン始動の準備にかかる。藪助治という機関員が、架台に並んだ真鍮の筒のひとつを両手に持った。重さ5キロはあるだろうそのシロモノを抱えて運ぶ。ただ足下に落としたくらいで暴発するようなものではないが、だからと言って手にして気持ちのいいものでなどあるわけなかった。
一発目をエンジン始動接続器に装填。これで一応始動準備が整った。真田は計器に眼を向ける。回転数の目盛りはまだ低いところを指していて、ジワジワとしか柱を上げようとしていない。
- Re: 臨戦 ( No.18 )
- 日時: 2019/06/14 20:41
- 名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)
「真田副長、及び徳川機関長はエンジンから手が離せない。よって今のメンバーで、近づきつつある敵からの防御に臨むことにする」
〈ヤマト〉第一艦橋で沖田は言った。先ほどからの艦橋クルーが立ち上がって彼に向かい、胸に手を当てる敬礼をする。「はい!」
「情報では敵は一隻であるという。だが侮るな。大型の空母だ。ガミラス艦がここまで地球に近づいたことは前例がない。やつらにしても一隻で地球の船百隻に勝てると思ってないだろう。それを押して来るのには、よほどの理由があるわけだ。このタイミングでというからには、目的はこの〈ヤマト〉を発進前に破壊すること以外には考えられん」
「そこまで〈ヤマト〉に脅威を感じるということは――」新見が言った。「例の仮説はやはり正しいということでしょうか」
「『ガミラスは地球に波動砲があるのを既に知っている。そしてやつらはその完成を恐れている。なぜならやつらは同じものを造ることができないからだ』というやつだな。あるいはそうなのかもしれん」沖田は言った。「十年前に地球がやった実験がガミラスを呼んだのではないか、と……」