【第15回 SS小説大会 参加ルール】■目的基本的には平日限定の企画です(投稿は休日に行ってもOKです)夏・冬の小説本大会の合間の息抜きイベントとしてご利用ください■投稿場所毎大会ごとに新スレッドを管理者が作成し、ご参加者方皆で共有使用していきます(※未定)新スレッドは管理者がご用意しますので、ご利用者様方で作成する必要はありません■投票方法スレッド内の各レス(子記事)に投票用ボタンがありますのでそちらをクリックして押していただければOKです⇒投票回数に特に制限は設けませんが、明らかに不当な投票行為があった場合にはカウント無効とし除外します■投稿文字数400文字以上〜1万5千字前後(1記事約5000文字上限×3レス記事以内)⇒ざっくり基準目安ですので大体でOKです■投稿ジャンルSS小説、詩、散文、いずれでもOKです。⇒禁止ジャンルR18系、(一般サイトとして通常許容できないレベルの)具体的な暴力グロ描写、実在人物・法人等を題材にしたもの、二次小説■投稿ニックネーム、作品数1大会中に10を超える、ほぼ差異のない投稿は禁止です。無効投稿とみなし作者様に予告なく管理者削除することがありますニックネームの複数使用は悪気のない限り自由です■大会期間、結果発表等第15回SS小説大会 2020年7月5日から2020年10月30日まで 優秀作品発表…2020年11月7日(トップページ予定) お題(基本)…自由 、お題(思い浮かばない人用)…森 ■その他ご不明な点はこの掲示板内「SS大会専用・連絡相談用スレッド」までお問い合わせくださいhttp://www.kakiko.cc/novel/novel_ss/index.cgi?mode=view&no=10001******************************平日電車やバスなどの移動時間や、ちょっとした待ち時間など。お暇なひとときに短いショートストーリーを描いてみては。どうぞよろしくお願い申し上げます。******************************
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ゴーン ゴーン ゴーン 寺の鐘が鳴り響くのと同時期、そのやけに低い重低音で目が覚めてしまった私は、もぞもぞとベッドから起き上がりました。 今は七月。 ガンガンにクーラーをかけていたのにタイマーのセットを忘れていて、エアコンの口はしっかりとしまっていました。 湿気と埃にむせた私は、水を飲もうと一階に降りることにしました。 外は真っ暗、当たり前です。今は夜なのですから。 でも、小学五年生である私は夜の九時以降に起きたことなど全くなかったので、夜の新鮮な空気にすっかり興奮していました。 そして幼稚だと思われるかもしれませんが、その時はまだお化けという不可解な存在も信じていたので、『お化けに見つからないように』となるべく急ぎ足で階段を降ります。 キッチンでコップにお茶を注ぎ、喉を満たします。 そしてこれからもう一度布団に戻ろうか、それともちょっと夜更かしをしてみようか迷いました。 ママに見つからなければ、こっそりテレビを見ても漫画を読んでもいい。 だって、夜はまだまだ始まったばかり。こんなに楽しい事って他にない! ですが私の目論見は外れます。 ぺた、ぺたと足音を立てて、誰かがキッチンに乱入してきたのです。 大人はいつも遅く練る癖に、起きるのは無駄に早いのだから困ったものですね。 しかし、私の目の前に姿を現した人はママやパパではありませんでした。 「ッ!? ママァァァァァーーーーーーーーッ!!!」 「ちょ、ちょ、しーッ!」 突然私の腕を掴んできた、謎の人物の行動にびっくりして声を上げると、そいつはギョッとしたように目を見開き、私の口を塞ぎました。 こっちがモゴモゴしていると、謎の人物は軽く肩をすくめます。 「いいかい? 大人って怖いんだぜ。もし呼んでたら俺はあっというまにピチャンだ」 「………ピチャンって?」 「消滅するかもしれないね」 「しょうめつ!? ご、ごめんなさい、モモそんなことしないわ!」 小学生の私には、「消滅」という漢字はまだ書けませんでしたが、意味は知っていました。 なので、この不思議な人物を消さないでよかったと心から思いました。 「あなたはだあれ? 私、花鶏モモっていうの。花に、ニワトリって書いて、あとりよ」 「俺? 俺の名前は『ももき』さ」 「どういう字を書くの?」 「『百』に『鬼』って書いて百鬼だよ。君はアトリって言うんだね」 「そうよ。珍しい苗字ってクラスで話題になったもの。モモキくんはどこの学校なの?」 「……うーん。夜の、定時制の学校だよ」 「ていじせい? それはなに?」 「ある時間だけ開いている学校さ。俺の場合は夜」 「難しいのね。もしかして中学生?」 「うん、一応…生前は」 「じゃあ先輩ね!」 百鬼くんのお話は、今となって考えてみれば追及するべき点はいくつもあったのですが、当時小学生だった私はそんなことどうでもよく、彼のことはただの不思議な男の子としか思ってませんでした。 不思議、その単語が小さかった私にはどんなに刺激的だったか、今でもよく覚えています。 「ねえ、モモキくんのその名前は苗字なの?」 「苗字だよ」 「名前は何て言うの?」 「名前はないよ」 「変ねえ」 「……アトリは幽霊とか妖怪って信じる?」 「信じるわ。だから怖くなるし不思議にも思うもの」 「その考えは素敵だと思うよ」 「なら嬉しいわ!」 たくさん、たくさん楽しい話をしました。百鬼君は本当に不思議な子でした。 例えば、一緒に『ゆびすま』をやろうとしても請け負ってくれないのです。握手もしたくないようでした。潔癖症の子はいくらでもいます、無理強いはしません。 百鬼くんは次の夜も、その次の夜も家に来ました。 私たちは沢山のお話をし、沢山の喜びを共有し、沢山の不思議を学びました。 でも、どれだけ会話を交わしても、百鬼くんのことについては全く分かりませんでした。 「ねえモモキくん。モモキくんは、一体何者なの?」 「ただの中学生だよ」 「中学生だったら夜遅くにこんなところに来たりしないわ」 「来ちゃいけなかった?」 「そんなこと言ってないじゃない」 「………中学生って不思議ね」 「大人にも子供にも不思議なところはあるよ」 「そういえば私の学校に七不思議があるのよ。とっても不思議なお話なの」 「まず一つ目。校庭で死んだ男の子の霊がいる」 「二つ目、音楽室のピアノが鳴る」 百鬼くんは、何も言いません。 「三つ目、放送室から聞こえる謎の声」 「四つ目。アカシックレコード…っていうものがあるらしいわ」 「五つ目、校長先生は不老不死」 「六つ目、繁殖池にはネッシーがいる」 「七つ目」 「数十年前、一人の生徒がクラスメイト全員を殺害した…」 「……………」 「ただの噂よ。低学年のうちはまた信じてたけど、さすがに今はどうかなって疑ってるの」 「………」 「確かあだ名はモモ。多分女の子よね。どういう理由で殺害したのか、私は分からないけど」 「…………女の子って、どうしてわかるの?」 「だってモモよ。女の子よ絶対」 「………………その子は、…………だよ」 「何て?」 百鬼くんは、質問には答えてくれませんでした。 ただただ悲しそうな瞳で、じっと私の顔を見つめるだけでした。 どんな言葉をかければいいのか、その時の私には分かりませんでした。 百鬼くんには、それから一度もあっていません。 私が大人になった今も、彼の姿を見ることはありませんでしたが、彼が何者だったのか、今となってようやく分かりました。 もしかしたら、彼と会えるのは子供の時だけなのかもしれません。 みなさんも、彼に会えることがあるかもしれない。 そんな時は、ただ黙って彼の話を聞いてあげてほしいと思います。 例えその人が、人殺しだったとしても。
そっと開いたドアの向こうに小さな泣き顔一つ 散らかった記憶の欠片 傷ついた君の涙が光る 階段では狐が躍る 鏡はほのかに揺らめいて 床に散らばる思い出のキャンバスと 深夜零時を告げる時計の音 ずっとあやまりたくて キミの手首に触れた でもまだちょっぴり怖いんだ あの日の呪いがまだとけずにいる それでもどんなに苦しい時も 君のおどけた声一つで心の棘が消えていく不思議 それでもまだ不安だらけだ 大丈夫私がいるよ 君の近くにずっと 見えないけどちゃんといるから そっと開いたドアの向こうに小さなラジオと不思議一つ 散らかった本は白黒 さあ不思議を探しに行こうぜ 遠くでは鎌の音が響き 誰かのあざ笑う声が聞こえる でもその過去の奥にはきっと明るい日が刺すから それでもどんなに苦しい時も 君の明るい声一つで悲しみなんて吹き飛ぶ不思議 それでもまた貴方に会いたいんだ 大丈夫僕がきっと 君の近くにずっと 見えないけどちゃんといるから あの日の記憶 誰かの傷痕が残り膿はまだ消えない ラジオのノイズ 紅茶の匂い 恋の感触と苦い記憶と 誰かが消えるそしてまた何かがそっと息をしている それでもどんなに苦しい時も 君のおどけた声一つで心の棘が消えていく不思議 それでもまだ不安だらけだ 大丈夫私がいるよ 君の近くにずっと 見えないけどちゃんといるから
「木苺を取ってきて」冷たい風が吹き雪が窓については溶けていく冬。継母は大きなかごを棚から出しこういった。「まだ冬よ。」何を言っても行けの一点張り。(ああ、この人は新しい人形を見つけたんだ)「一個じゃだめよ。かごにいっぱいですからね。」継母は私を外に追い出し鍵まで閉めた。木苺を取るには森の奥の奥に行かなければならない。木苺なんてないと分かっていながらも森の奥へ進んだ。もう何分歩いただろう。雪はだんだん強くなり森は暗くなった。防寒具なんて持ってはいない。手足はジンジンと痛み、手に至っては感覚がない。(ここで死ぬんだな)ふと母を思い出した。母は優しくいつもニコニコとしていた。そんな母とお菓子を作るのが好きだった。どこからかいい香りがする。母のシチューの香りによく似ている。「母さん、、?」森の奥に小さな光が見えた。家だ。そこに母さんがいるような気がした。「母さん、、、母さん、、、!」夢中で駆けた。家に近づき戸をたたく。そこで我に返った。あの母さんはもういないと。うつむき雪道をとぼとぼ歩いた。もう帰る家はない。「ねぇあなたどうしたの?」どこからか声がして目が覚めた。先ほどの家の薪小屋で寝ていたようだ。声の主は少女だった。この家の子らしい。少女は衰弱しきった私を見て驚き家に招いてくれた。少女はヘレンといい両親を火事でなくしここに一人暮らしをしているそうだ。「お風呂に入ればいいわ」ヘレンはタオルケットを一枚出すとお風呂を勧めてくれた。久しぶりのお風呂は気持ちがよかった。「、、おふろ、ありがとう。」ヘレンは微笑み「どういたしまして。」といった。その笑顔は母にそっくりだった。よく見ると笑っていない顔もそっくりだ。「シチュー食べるでしょ。昨日作りすぎたの。」「、、、いただきます」ヘレンのシチューはとてもおいしかった。母さんの味に似てる。「、、ごちそうさま。」気づけば皿のシチューはなくなっていた。「、、おいしかった。」「ありがと。」ヘレンはどういたしまして。と紅茶をすすった。「どうして知らない人にやさしくするの?」なんとなく気になった。ヘレンはうーんと少し悩んだ後私の目をしっかり見て「カミナ知らない人じゃないから。」といった。「そう。」ヘレンはまた紅茶をすすった。変わった人だなぁ。うん?「何で私の名前知って、、!!」ヘレンのほうを見ると体がうすくなっていた。ヘレンは笑ったままだ。「何でも知ってるよ。カミナのことなら。」「そんな格好してるのに男の子、、とか。実は泣き虫とか。寂しがり屋とか。」まさか、まさか、まさか、、、「母さん、、、?」「正かーい。」ヘレンは母さんがよくする口調で言った。おどけているような口調。「ごめんね。おいていって。」「一人寂しかったね。」一つ一つの言葉がしみこみ涙があふれ出てくる。「なんで、なんで、おいていったんだよ。」「ごめんね」「僕これからどうすればいいんだよ。」「生きて。」「住む場所ないよ。」「ここでいい。」「一人だよ。さみしい。」「裏の一本道を通れば町に出る。」「母さんとがいい。」「もう、大丈夫でしょ。」「おいてかないで。」「ずっと空から見てる。」ヘレンは、母さんは涙を流しながら最後に「生きて。地に根を張って、踏ん張って。そのときがきたら私が迎えに行くから。」と言った。------------------------------------------------------------------------------------「今日、母さんと命日だね。まだ、空から見てる?」雲ひとつない空を見上げながら母さんに聞く。返事の代わりに心地いい風が吹いた。「僕、結婚するんだ。」花びらが舞った。「この人と。」僕の手の先には麦わら帽子が飛ばないように抑えながら空をみつめるひとがいる。彼女は息を大きくすうと聞いたこともないような大きな声で「幸せにしてもらいます!!」と叫んだ。僕が笑うと彼女は正しいことを言っただけよとおこった。僕も負けてられない。「幸せにします!!!」彼女に負けない声を出したつもりだったが彼女はまだまだねと笑った。「「まだむかえにこないでね!!!」」もちろん。と鳥が鳴いた。
なんでこんなに心臓が、心が、うるさいのだろうか。とまらない。止まってくれない。 ふわふわした雪が、静かに舞い降りる。冷気をまとって、ふわり、ふわり、と。 マフラーのなか、顔を埋めた。こんなに寒いけど、こんなにあたたかい。 きみのせいだ。 こんな気持ちにさせたのも、全部、ぜんぶ、きみのせいだ。 嫌われたくないって思っているのに、普通に振る舞えない。つかもうとしては、はなれていく。まるで、雪みたいだ。 雪が静かに、手袋にすとんとおちる。 しんしんと、どこからか聞こえそうな音。 実は、雪の妖精さんがいたりして。そんなあるはずのないことを考えて、わくわくどきどきしたりする。 そんな、静かな雪。
「『僕』は優しいね」「いつもありがとう」 母さんの言葉が、僕をこの世界に繋ぎ止めてくれる。「お礼なんてしないでよ。僕がそうしたいだけなんだから」 優しい桃色で、僕は母さんに笑いかける。 僕の絵の具は、四色ある。 赤と、青と、黄と、白。黒と茶色を作るのは、とっても大変。練習だって、したことないし。 他の色でも、まだまだ僕は、下手くそだ。 だけど、僕は黒いキャンバスに、汚い色を塗りたくる。 そうすることでしか、僕は、僕として、生きることが出来ないから。______________________ 僕はその日、全てに絶望した。僕の存在価値が無くなった日。 僕が、僕として、存在できなくなった日。「ねえ、『僕』」「なに?」「話があるの」 母さんは僕に言った。その顔は真剣そのもので、僕は悟った。 真面目な話をするときは、藍色を使う。三色をバランスよく混ぜなくちゃ。「もしかして、父さんの話?」 母はこくりと頷く。「まだあの人とは話はしていないの。だけど、……離婚しても良い?」 僕は用意していた言葉を母さんにあげた。「うん。僕は良いよ。母さんの人生なんだから、好きに生きて」「本当に?」 母さんの瞳は揺れていた。 何度も何度も、どうしてそんなに尋ねるの? 嘘なんて吐いて、どうするんだ。「『僕』、それは『僕』の本心?」 僕はいつも胸の内を秘めている。時には嘘だって吐く。それを母さんは知っている。 僕は暖かな橙色でそっと言った。「本心だよ。僕は父さんと家族でいたいとは思っていない」 そう。嘘ではない。だって、 僕は、なにも思っていないのだから。 父さんと家族でいたいと思ってはいない。家族でいたくないとも思わない。母さんが何をしようと構わない。幸せになろうが、不幸になろうが。 どうでもいい。 どうだっていい。 なんなら、面倒臭い。 僕の絵の具は万能だ。赤に青に黄。そして、白。どんな色でも作ることが出来る。 幼い頃から使い続けてきたから、もう、残り少なくなってしまったけれど。 僕のキャンバスは、黒色だ。真っ白なキャンバスを、絵の具が乾きもしないうちに、汚く塗りたくってしまったから。 下手くそ。下手くそ。下手くそ。 絵の具は取れない。真っ白なキャンバスには、戻らない。 しろいろ、だったっけ? ボクは、ナニイロ? あれ。 ない。ない。ない。ない。ない。 ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。 絵の具が、ない。 まだだ。まだなんだ。まだ、母さんとの会話は終わってない。 使いすぎた? 赤と、黄と、白。 柔らかな色を作る絵の具が、もう、ほとんど残っていない。 そんな。 青じゃ駄目だ。青は『賢』。優しい色には使えない。 駄目だ。駄目だ。 まだ、僕は、絵の具がなくちゃ。 僕は僕でいられない。 ボクは、ぼくを、見つけてない。 そんな。 それじゃ、僕は、 どうやって生きればいいの?
いつの間にか、君が僕に住み着いた。辛(つら)い、苦(くる)しい、そんな気持ちはなくなったんだ。大きく息を吸い込めば、まだ少し咳で苦しくなった。そのたびに君が僕にどんどん侵略していくのだと分かったんだよ。その内僕は、白いお部屋から出られなくなった。何個も何度も僕は沢山の白い人たちに囲まれて、まぶしいくらいの明かりの中で、白い台に寝かされた。眼が覚めたら白い人たちも、僕を白い部屋に閉じ込めたパパもママも、ずぅっと下に見えたんだ。おはよう、世界。僕は今日から子供になった。
私は、幼い頃から特別でした。人を見る目が厳しかったのです。特に、容姿を見る目が。この世界は、美しくない人でいっぱいでした。美しくない人を見ると、嫌気がさすのです。私が獣を見る目で美しくない人を見ると、その人は怒りました。私は怒った意味が分かりませんでした。ダッテ、美しくないものが美しさを否定される、それは当たり前でしょう。美しくないものは、“美”について文句を言う権利はないのですから。美しくないものが目に映るということが苦しくなってきました。私は悩みました。どうすれば美しくない人を消すことができるのか、と。私は決意しました。私の家は大金持ちでしたから、資金を集めることは簡単でした。美しい者を見つけ、自分の周りに置いて行く。そう、私は美しい者だけでつくられた組織をつくったのです。私はその組織の頭領として、組織を指揮しました。美しく無い者は、見つけた次第殺しました。私の組織は頭の良いものも多かったので、殺した痕跡が残らない毒の製造など簡単なことでした。ある日、私が朝コーヒーを飲んでいると “上級幹部が銃弾に撃たれて死亡”という知らせが入りました。上級幹部はとても美しい者の集まりでしたから、死亡したと言う知らせは大きなものでした。誰が殺したのか調べると、驚きの情報が手に入りました。上級幹部を殺したのは私の弟だったと言うのです。弟は、容姿だけで人を決めつけてはイケナイ、と言う人でした。私の弟という理由で殺すのはやめておきました。しかし、弟が私たちが“美しくない者”を殺したところを発見し、警察に通報すると言いました。今回ばかりは弟であっても殺さなければなりませんでした。弟を殺したのが5年前なので、弟は5年も復讐のチャンスを窺っていたと言うのです。私は弟に向けて追っ手を放ちました。その後、弟を銃殺したという知らせが来ました。私は、美しい者を常に求めていました。けれど、美しい者とともにベットに入ったことはありませんでした。私は組織で1番美しい男を選び、ともにベットに入りました。とても美しい男子が生まれました。私が死んだら彼に後を継がせるつもりです。彼は、世の中を美しい者で満たしてくれるはずです。テレビで、“容姿の基準が上がった”というニュースをやっていました。30年前に“美人”と言われていた顔が、今では“普通”レベルの顔になっていると言うのです。私は腰を抜かしました。私の組織は日本国内で600万人余りの美しくない者を殺しましたから、美の基準が上がっていてもおかしくないのです。私は途方に暮れました。ああ、どうすれば世界が美で満たされるのだろう、と。
冷たい床 冷たい目 隙間風 それが僕の生まれた場所 僕の全て 僕の生まれた意味球体関節 廃墟に似合わない美しい服 黄金硝子の目それが僕の姿 僕の全て 父の愛しい僕父さんは言った、「御前は最高傑作」なんだと、兄弟たちは言った、「おまえは化け物」なんだと、僕は最高傑作でもない、化け物でもない、こんなに、こんなに美しい僕。白い陶器の肌 滑らかな金の糸で作られた髪ゆっくりと立ち上がれば 球体関節は音も立てず誰も居なくなった廃墟から 美しい人形が姿を現す金の髪 金の瞳 金刺繍のひらひらとした服アポロン アポロン 嗚呼 神の姿の模造品輝くばかりの その姿は 見るもの全て 虜にする価値が 分からぬ 愚かな俗物 、壊れてしまえアポロン アポロン 嗚呼 気高き太陽神ひたすらに 悲しい その姿は 哀れなただの 絡繰人形居場所は とっくに 存在しないのに 探して 探して ただ進む自分の価値も分からずに 自分の定義も分からずに 自分がなにかも分からずに主が作った この体 白い陶器の この体ひたすら歩き 続けても 球体関節は 壊れもせずアポロン アポロン 嗚呼 神の姿の模造品輝くばかりの その姿は 見るもの全て 虜にするアポロン アポロン 嗚呼 気高き太陽神ひたすらに 悲しい その姿は 哀れなただの 絡繰(からくり)人形嗚呼 我が主は 一体何処へ私は 行くのだ 気高き 故郷へ
青々としていて、地平線のはるか向こうまであるのではないかというぐらいの森。森の周りは石レンガの塀で囲まれていて、中に入れないようになっている。森には人を襲う凶暴な動物がいるかららしいが、一説には森の中では何か、極秘の施設があるためだとか言われている。 確かに定期的に森にトラックが入って行ってるし、凶暴な動物がいるからという理由にしては塀周りの警備が厳しすぎる。 ある程度の信憑性はあるだろう。 そこで、この話を信じた人々が森を管理する団体に真相を公表するように求めた。団体は、森には何もないと答えたが、これに納得できない一部の過激派が団体の施設に入り込んだ。火炎瓶や猟銃などの武器を装備しており、施設は大混乱に陥ることになった。 警察、軍も出動したが、全く手に負えず、結果団体は森に関する全ての資料を公表することになった。予想通り、その資料には極秘施設の情報も載っていた。どうやら兵器開発を行っていたらしい。これならトラックが入っていくのも、警備が厳しいことも納得できる。 これにて騒動は収まったが、ある日男が警備の隙をついて森に侵入したところ、その後彼は悲鳴と共に施設に連れていかれ、今もそこで廃人状態で実験体として生かされているという。
放課後の美術室。照りつけるような陽光を木の葉が遮り緩和する。柔らかな光が葉っぱの淡い色を透かして美術室の床と、僕の白いままのキャンバスを彩っていた、その色は浅緑。瞬間、僕の頭の中で浅緑が溶けた。溶けてのまれた。萌黄、若緑、灰緑、深緑。いろんな緑が混ざり合って、僕の頭の奥の、また奥の方まで溶かした。油彩画用筆を執り、パレットにあるだけの種類の緑をゆっくりと丁寧にチューブから押し出す。今、この緑を描きたい。今、この緑で真白いキャンスバスを染め上げたい。今、今、今。僕は無造作に筆をパレットの緑に押し付けて、そのままキャンパスに線を描いた。右に、左に、下に、上に。流れるように筆を滑らせる。もっと、もっとだ。もっと出来る。僕なら出来る。 僕は無我夢中で絵を描き続けた。でも、絵を描いていたと云うよりは塗っていたに近いのだと思った。だって完成した絵は下から順に、萌黄、浅緑、若緑。そして唐突に海松色などがてんでバラバラに塗られている。濃いから薄いに、薄いから濃いにとか、そういう順番とかでも無い。緑色という種類のたくさんの集まり。一色の集まり。 ただ、とても綺麗だった。これを僕が描いたのなんて信じられないくらいにとても美しいみどりいろ。生乾きのキャンパスに描かれた一つの緑の線を指でなぞってみる。キャンパスに触れた指は当たり前のように色が付いた。 椅子から立ち上がって僕は軽く伸びをしてみた。背骨がコキリと二、三回音を立てる。目までかかった前髪を掻きあげてスタスタと窓に歩み寄る。ガラッと勢いよく窓を開けると校庭を走っていた運動部の元気の良い声が美術室にも響き渡った。 しばらくは空を流れる雲を目で追っていたが、ふと校庭に視点を落とす。バドミントンのラケットを持って素振りの練習をしている女子数人の和気あいあいとした様子を眺めていると僕に気がついたのか、大きく手を振り笑顔で僕の名前を呼んでくれた。なんで僕だと分かったのか少し疑問に思ったけど、放課後まで残って絵を描いてる美術部員は僕しかいないからかと納得した。にこりと微笑んで手を振り返したら、挨拶をしてくれた女子数人から黄色い歓声が上がった。