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作者: モンブラン博士 (総ページ数: 198ページ)
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*52*
お前たち人間のガキは妖怪という存在を知っているか?
妖怪とは人間にとりつき欲を貪り食っている化け物の総称だ。
もっとも中には欲を食わず、穏やかな性格の奴も大勢いるが、悪さをしない妖怪のことは今回ノータッチで行こう。
俺は性根の腐ったガキな妖怪たちを地獄へ送り返すボランティアをしている。
この日も獲物を探そうと町を歩いていたところ、金髪に黒い着物を着て角を生やした男に出会った。
その容貌から妖怪として間違いない。
「そこのガキ、お前は妖怪か?」
俺が声をかけると奴が振り向いた。
「俺はガキじゃない。俺は黒宮竜。鬼だ」
「フン。鬼の癖に竜という名前なのか。名前負けしている」
「余計なお世話だ。俺に関わるな」
「生憎だが、そうはいかない」
「戦う気か?お前は俺には勝てない…」
「お前は俺が往生させてやろう」
こうして人気の少ない場所へ移動し、戦闘が始まった。
「食らえ!!」
奴は棍棒を振り回し、俺に攻撃してくる。
「さすがは鬼と言ったところだ。棍棒がよく似合う」
俺はガキの振り回す棍棒を片手で掴み、握り潰した。
「なかなかやるな…!」
「お前に褒めてもらっても嬉しくはないぞ、ガキ」
「ガキ呼ばわりするなあ!!」
突如奴が渾身の拳を放ってきた。
俺はまともにそれを受け、地面に倒れ伏す。
「止めだ…」
「お前はやはりガキだ。まだ拳がぬるい」
俺は起き上がり、奴の角を掴み、それを引き抜くと、自分の額につけた。
「どうやら、俺のほうがお前より鬼が似合うようだ」
今日は俺も機嫌がいい。普段は口にしない冗談を言うほどだ。
「てめえ、俺の角を返しやがれ!」
「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの。
お前の所有物などこの世に何一つとして存在しない!」
「ひでぇ…お前、何者だ!」
奴が半泣きの顔で訊ねる。
そういえば、俺はこのガキに名を告げていなかったな。
「俺は不動仁王だ」
とたんに奴の顔じゅうから冷や汗が噴き出す。
「な…バカな…!なぜ『泣く子も黙る』貴様がこの世に…!」
「そんなこと俺が知るか。
お前は地獄へ還るがいい!
地獄の手土産に最後にこれだけは教えておこう。
お前の敗因は俺と戦ったことだ。
他の奴らなら勝機も少しぐらいはあったかもしれないな。
本来ならこのまま改心させて地上に残すんだが、今日は調子がいい。
特別大サービスであの世に送ってやろう!『倶利伽羅拳』!」
「ちきくしょおおおおおお……!」
俺の拳を顔面に食らい、顔面崩壊した奴は悔し紛れにそう叫ぶと、虚空の彼方へ消え去った。
「やれやれ…これだからガキは困る」
俺は額から、角を取り、ズボンのポケットに入れた。
今度地獄へ偵察に行ったとき、返してやるとするか。