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作者: モンブラン博士 (総ページ数: 198ページ)
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*56*
「あの……すみません」
よく晴れた土曜日のことです。
この日、ひとりの美心な女の人がお店にやって来ました。
眉の上で切りそろえた髪が日本人らしさを思わせ、可愛らしく、清楚なイメージを抱きます。
彼女はなぜか、顔を真っ赤にしながらぼくを見つめ、口を開きました。
「あの……好きになった人がいるんです!でも、その人はなかなか振り向いてくれなくて…お願いします。助けてください!」
突然そんなことを相談されたものですから、一瞬は戸惑いを隠せませんでしたが、ぼくはすぐにヘンリーさんを呼んできました。
この手の相談は、彼が得意中の得意ですから、きっと解決してくれるでしょう。
「それで、あなたの好きな人というのは、どんな方なんですかな」
「カイザー=ブレッドさんです」
「こりゃたまげた!」
ヘンリーさんは驚愕した後、椅子ごとひっくり返ってしまいました。
ぼくは慌てて彼に駆け寄り起こします。
「まさか…あのカイザーくんを好きになるとはのう…わしもいろいろ人生相談やお悩み相談を受けてきたが、これほど厄介なのは初めてじゃ」
カイザー=ブレッドさん、通称カイザーさんは、以前ぼくたちの前にマスター=カイザーとして現れて以来、親しくなりました。
彼は、ぼくが知る限りもっとも恋愛とは無縁の人生を送っています。
普段はぼくたちの常連客のプロレスジム、スター=レスリングジムの副会長でありパン職人ですが、常に世界中の人々の幸せを願い、たまに地球を侵略しにくる凶悪宇宙人や、悪い妖怪たちを、必殺技『太陽の拳』でやっつけるボランティアをしています。
強力無比、質実剛健、深慮深く冷静で、生真面目かつ慈悲深く、カリスマ性が高い。
心も体も人間を超越している彼に恋心を抱くとは……憧れならわかりますが……
「私、あの人に恋をしたんです!お願いします、協力してください!」
「気持ちはわかるがのう……彼を口説き落とすのは天地がひっくり返るぐらいの至難の業じゃ…はて、どうしたものか……」
彼はひげをなで、散々考えた挙句、口を開きました。
「とりあえず、彼の親友に聞いてみるかのう」
彼はそう言って、どこかへ電話をかけました。