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作者: 美奈 (総ページ数: 63ページ)
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7ー3
七夕の日は、湊の近所の高台から星を見た。澄んだ空に広がる数々の星に、舞は感動していた。
舞は色んな事に敏感で、それを五感全部で表現するから、さらに可愛いのだ。
「東京で、こんな綺麗に星が見える場所なんてあるんだね」
「昔から、ここは隠れスポットなんだ」
「そうなんだ」
「今日は特に綺麗だよ。ほら、夏の大三角。天の川も少し見えるね」
湊が伸ばした左手の方向には、綺麗な天の川があった。彼の右手は、舞の左手を繋いでいる。
「私、織姫になりたいなぁ」
この言葉に、湊はぎょっとしたようだ。
「え、駄目だよ」
「なんでっ?」
「1年に一度しか逢えないなんて、俺には耐えられない」
本当に寂しそうな顔をした湊に、舞は苦笑した。
「…そっか。寂しがり屋だもんね」
湊はびっくりして頭をぶんぶん左右に振る。
「違う!そんなんじゃなくて!」
舞はまた小さく笑った。舞もまた、握った手を離したら、本当に1年に一度しか逢えないんじゃないかと思って、強く握り直した。
「…でも死んだら星になるって言うでしょう」
「うーん、そしたらさぁ、他の星になってくんない?」
「何に成ればいいの?」
「双子座とか」
「双子じゃないよ私達」
「いいんだってば。そしたらずっと離れないから」
ー離れない
それは、二人にとって一番大切な事。絶対、護らないといけない事。
例え、死んでも。
「じゃ、私は双子座のなんて星になるわけ?」
「んー、じゃあね、ポルックスかな。なんか可愛い名前だし」
「湊は?」
「俺は勿論カストル」
「よく、双子座の星の名前なんて知ってるね」
「昔覚えたんだ」
湊は星の名前に詳しい。
実は湊は、一回だけ母親におねだりをして、買ってもらったものがある。
それが、星の名前が書いてある天文図鑑だった。この高台から見える綺麗な星に魅せられて、一つ星を見つけては図鑑を引っ張り出して、丁寧に調べていた。
その図鑑は今でも、湊の大切な宝物だ。
「そっか。…じゃ、私はポルックスね。で、湊はカストル」
「そう。本当は両方男だった気がするけど、そこは俺たちだけの変則ルールって事で」
二人はいたずらっぽく微笑む。
二人が等身大の少年少女に戻れる時間。
「分かった、変則ルールね」
二人は声を出して笑った。
大好きな人と、心の底から笑えて。幸せが実体を持つ日々。
こんな日々がずっと続けばいいな、と願っていた。