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cynical【完結】
作者: 美奈  (総ページ数: 63ページ)
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*31*

7ー3
七夕の日は、湊の近所の高台から星を見た。澄んだ空に広がる数々の星に、舞は感動していた。
舞は色んな事に敏感で、それを五感全部で表現するから、さらに可愛いのだ。

「東京で、こんな綺麗に星が見える場所なんてあるんだね」

「昔から、ここは隠れスポットなんだ」

「そうなんだ」

「今日は特に綺麗だよ。ほら、夏の大三角。天の川も少し見えるね」

湊が伸ばした左手の方向には、綺麗な天の川があった。彼の右手は、舞の左手を繋いでいる。

「私、織姫になりたいなぁ」

この言葉に、湊はぎょっとしたようだ。

「え、駄目だよ」

「なんでっ?」

「1年に一度しか逢えないなんて、俺には耐えられない」

本当に寂しそうな顔をした湊に、舞は苦笑した。

「…そっか。寂しがり屋だもんね」

湊はびっくりして頭をぶんぶん左右に振る。

「違う!そんなんじゃなくて!」

舞はまた小さく笑った。舞もまた、握った手を離したら、本当に1年に一度しか逢えないんじゃないかと思って、強く握り直した。

「…でも死んだら星になるって言うでしょう」

「うーん、そしたらさぁ、他の星になってくんない?」

「何に成ればいいの?」

「双子座とか」

「双子じゃないよ私達」

「いいんだってば。そしたらずっと離れないから」

ー離れない

それは、二人にとって一番大切な事。絶対、護らないといけない事。
例え、死んでも。

「じゃ、私は双子座のなんて星になるわけ?」

「んー、じゃあね、ポルックスかな。なんか可愛い名前だし」

「湊は?」

「俺は勿論カストル」

「よく、双子座の星の名前なんて知ってるね」

「昔覚えたんだ」

湊は星の名前に詳しい。
実は湊は、一回だけ母親におねだりをして、買ってもらったものがある。
それが、星の名前が書いてある天文図鑑だった。この高台から見える綺麗な星に魅せられて、一つ星を見つけては図鑑を引っ張り出して、丁寧に調べていた。
その図鑑は今でも、湊の大切な宝物だ。

「そっか。…じゃ、私はポルックスね。で、湊はカストル」

「そう。本当は両方男だった気がするけど、そこは俺たちだけの変則ルールって事で」

二人はいたずらっぽく微笑む。
二人が等身大の少年少女に戻れる時間。

「分かった、変則ルールね」

二人は声を出して笑った。
大好きな人と、心の底から笑えて。幸せが実体を持つ日々。
こんな日々がずっと続けばいいな、と願っていた。

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