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作者: 美奈 (総ページ数: 63ページ)
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7ー2
「実はね…私のお父さんも、いないんだ」
「え…なんで?」
「死んだ」
「………」
「がんだったの。ずっと動かないでじっとしてるのが嫌いだったから、入院中、生きて行く意味を、見出すのは難しかったかもしれない。…まぁ、死んじゃった今じゃ、誰も分からないけどね。でも、よく戻りたい、って言ってたな」
舞は一度、言葉を切った。
「離れるって事ほど、恐いものはないと思うよ。私なんかで良いなら、離れない、て約束する。はじめはびっくりしたけど、あの時言われた言葉は全部嬉しかったし、湊くんみたいな真っ直ぐな人なら、信じられる」
「…本当に?」
「ここで嘘ついて、何の意味があるの?それと、敵。湊が手がかりをつかむまで、側にいるから心配しないで」
湊は深く頷いて、舞の手を握りしめていた。
彼女を大切にしていこう、と思った。離れないと約束をしてくれたから。
…俺も、約束をしよう。
ずっと、君を護っていくと。
「…右手、本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。そろそろ包帯も取れると思うから」
「でも湊、右ばっかり怪我してて危ないから…私が右手守るよ」
「…?どうやって?」
「ん?……私が、湊の右手を握ってれば、右手の支配権は私にあるでしょ?だから、安全」
「…本当かなぁ」
わざとおどけて見せながら、湊は舞の方に顔を近づけた。
ここまで、想ってくれる。護ってくれる。
舞は静かに目を閉じた。湊はもっと、舞の方に近づいて行く。…そして。
唇同士の距離が、ゼロになった。
しばらくしてから、湊はちょこっと笑って顔を離し、自分の腕で舞を包んだ。
舞の腕もするするっと伸びてきて、湊の背中にまわる。
やっと、幸せを感じられた。
自分の手で掴めた幸せは、とても特別なものだった。
・・・・・・・・・・・・・・・
それから、湊と舞は付き合い始めた。いつも一緒に優しく笑っている二人は、誰から見ても幸せに見えただろう。