完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

cynical【完結】
作者: 美奈  (総ページ数: 63ページ)
関連タグ:
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~

*30*


7ー2
「実はね…私のお父さんも、いないんだ」

「え…なんで?」

「死んだ」

「………」

「がんだったの。ずっと動かないでじっとしてるのが嫌いだったから、入院中、生きて行く意味を、見出すのは難しかったかもしれない。…まぁ、死んじゃった今じゃ、誰も分からないけどね。でも、よく戻りたい、って言ってたな」

舞は一度、言葉を切った。

「離れるって事ほど、恐いものはないと思うよ。私なんかで良いなら、離れない、て約束する。はじめはびっくりしたけど、あの時言われた言葉は全部嬉しかったし、湊くんみたいな真っ直ぐな人なら、信じられる」

「…本当に?」

「ここで嘘ついて、何の意味があるの?それと、敵。湊が手がかりをつかむまで、側にいるから心配しないで」

湊は深く頷いて、舞の手を握りしめていた。
彼女を大切にしていこう、と思った。離れないと約束をしてくれたから。
…俺も、約束をしよう。
ずっと、君を護っていくと。

「…右手、本当に大丈夫?」

「大丈夫だって。そろそろ包帯も取れると思うから」

「でも湊、右ばっかり怪我してて危ないから…私が右手守るよ」

「…?どうやって?」

「ん?……私が、湊の右手を握ってれば、右手の支配権は私にあるでしょ?だから、安全」

「…本当かなぁ」

わざとおどけて見せながら、湊は舞の方に顔を近づけた。
ここまで、想ってくれる。護ってくれる。
舞は静かに目を閉じた。湊はもっと、舞の方に近づいて行く。…そして。

唇同士の距離が、ゼロになった。

しばらくしてから、湊はちょこっと笑って顔を離し、自分の腕で舞を包んだ。
舞の腕もするするっと伸びてきて、湊の背中にまわる。

やっと、幸せを感じられた。
自分の手で掴めた幸せは、とても特別なものだった。

・・・・・・・・・・・・・・・

それから、湊と舞は付き合い始めた。いつも一緒に優しく笑っている二人は、誰から見ても幸せに見えただろう。

29 < 30 > 31