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＊紹介文／目次＊

1

雨が、降っていた。
土砂降りの雨だった。
細い一筋の流れが、坂を下って行く。
その流れは、少しずつ、本当に少しずつ、太くなっていって。

騒めきが、聞こえる。

「あれ…なん…だ？」

雨音で声が消されてしまう。

ーあの流れは何か、だって？

知る訳、無いじゃないか。領らないよ。

そう、知らないんだ…。

・・・・・・・・・・・・・・・

雨の中、座ったままで。
口を、動かした。
けど、声など出なくて。出せなくて。
…でも。
その声は、
届かなくて良い。
自分への、戒めだから。

10～ 20～ 30～ 40～ 50～ 60～

＊50＊

10ー4
いつの日か舞と共に来た、高台を訪れた。…彼女は今、何をしているだろうか。この7年間、文通はしなかった。まだ自分が、彼女などと文通などできる状況ではなかった。

初めて俺が恋に落ちて、一緒にいたいと強く想った人。それが、本当は、俺の妹だった。敵だった。
妹を刺した自分。敵とはいえ、兄として自分が赦せなくなっていた。

刑務所にいる間に思い出した事。見た夢。考えた事。
…そのすべてに、舞がいた。
馬鹿げていると、思った。都合が良すぎて最低だと、思った。けれど。
湊は、これからも舞を愛し続ける事を誓った。
妹としてではなく、一人の女性として。
それは何故か。
…伸ばした手が、届いたから。
だからきっと、この気持ちも、届くはず。

ふいに、鳩尾に痛みを感じた。殴られたような痛さ。同時にいつもの腰痛と背中の痛みも襲って来て、湊は急に頽れた。

「だ……じょぶ、……か？」

…大丈夫ですか？

誰かの声が聞こえた。
俺に話しかけているのか？

ーえっ、大丈夫、なんですか？

ー大丈夫ですか

「…ま…いっ……」

遠くで、サイレンの音が聞こえる。赤灯が見える。近づいてくる。

…7年前の、あの土砂降りの雨の日のように。