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作者: 美奈 (総ページ数: 63ページ)
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湊は警察によって逮捕された。
彼は起訴される事になり、事件から20日後に刑務所に移動した。
刑事が、刑務官に尋ねた。
「あいつの様子は、どんな感じだ?」
「あ…この前、殺人未遂の容疑で捕まった、17歳の少年の事ですか?」
「そうだ」
「あぁ、あの子ですか…」
刑務官の面持ちが、悲痛なものになった。情に流されるなんて、珍しい。
「どうした?」
「あ、その…」
刑務官は一つ呼吸を置いてから、辛そうに語った。
「…この二日間は特に、ずっと手足が震えていて、何かに強く怯えている感じです。食事も殆ど食べていなくて。こっちが見ているのも、辛いです」
「……そうか。実は、今彼の伯父が来ていてね。面会をしたい、と」
刑事はそれだけ言って、静かに去って行った。
刑務官は来訪者だ、とだけ告げて、湊を別室へと連れて行った。
「…伯父さん」
震えすぎて、微かにしか声が出なかった湊を思いっきり睨めつけて、伯父は怒鳴った。
「なぜ、なぜあんな事をする⁈お前のお母さんだって、そこまでは望んでいなかった筈だ‼自分で手がかりを掴んだのは分かった、でも、なぜ刺した?人を刺すってどういう事か判ってんのか⁈お前だけじゃない、お前と一緒に住んでた俺まで迷惑するんだよ‼俺だって地道にキャリアを築いて来たんだ、なのに親戚に前科者がいるから信頼できないなんて言われて、地位を奪われたらどうする⁈お前だって、今までの生活ができなくなるんだぞ‼」
一気にまくし立てた伯父に、湊は静かに告げた。
「なぜ、彼女を刺したのか……。それがお母さんの願いでない事は分かってる。俺が4年前から、殺したいと思い続けていたから刺しただけだよ。…でも、伯父さんだって解るだろ?殺意を持った事あるんだろ?俺の父親に、殺意を持った事あるんだろ?奴は、妹を殴って家を出たから。俺は別に、今までの生活に戻れなくても構わない。伯父さんの職に迷惑がかかるなら、俺がその家を出て行けば良いだけの話だ。自分で考えて、自分で行動したんだ。後悔は…してない」
「確かに、殺意を抱いた事は事実だ…。でも、地位も何もいらないなんて言っても、残るんだよ。記憶は。人間は色々忘れる事もあるけど、他人の血の色とかその時の天気とかは、忘れられない。一生苛まれる事になる。だから、俺は手を下さなかった。でもお前はまだ若いのに、取り返しのつかない事をしてしまった。人としての道を踏み誤った。だから怒ってるんだ」
「………。」
ここから先、自分がどうしたのか覚えていない。