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＊紹介文／目次＊

1

雨が、降っていた。
土砂降りの雨だった。
細い一筋の流れが、坂を下って行く。
その流れは、少しずつ、本当に少しずつ、太くなっていって。

騒めきが、聞こえる。

「あれ…なん…だ？」

雨音で声が消されてしまう。

ーあの流れは何か、だって？

知る訳、無いじゃないか。領らないよ。

そう、知らないんだ…。

・・・・・・・・・・・・・・・

雨の中、座ったままで。
口を、動かした。
けど、声など出なくて。出せなくて。
…でも。
その声は、
届かなくて良い。
自分への、戒めだから。

10～ 20～ 30～ 40～ 50～ 60～

＊38＊

8ー7
・・・・・・・・・・・・・・・

司は、生きているうちに逢いたかった。それは、生徒だけじゃなくて。他の人で。
一度、あの人にちゃんと謝りたかった。自分が何をしてしまったのか、年を取ってから気づいた。

少しの軽い気持ちだった。一度だけ。今日だけ。
そう思って、職員室でも美人と噂されていた教師と、仕事が終わったあと、二人で過ごしていた。
それが、いつの間にか…。
二人目の子供ができていて。もう、後戻りはできなくて。
ずっと後悔していた。
あの子たちを苦しめた事。

ちゃんと、分かっている。妻が自殺した事。
でも、言えなかった。そして言わなかった事が、余計に彼女を苦しめて傷付けた。
あの時は、ただ。ただただ。
物を投げつけられたから、少し苛々していて。
後で、思ったんだ。悔やんだんだ。
なぜ、彼女にあんな言葉を吐いたのかと。
なぜ、彼女に伸ばした手が拳となったのかと。
でも、今更戻れなかった。
彼等が心に負った傷は、とてつもなく大きいと領っていたから。

…もう、あの子って呼べる年齢は過ぎたと思うから、あの人。
逢って、直接伝えたかった。君を騙し続けたのは、僕だったと。君の人生を狂わせたのは、僕だったと。今更、気づいてしまったと。
でも、逢えなかった。
もしかしたら、君は。
人の道を踏み誤るかもしれない。既に踏み誤ってしまったかもしれない。
そしてもうこの手は、届かない事を悟ってしまった。

司は最後の力を振り絞って、声を出した。

ー…戻れない…きょう……逢え…

戻れない、あの頃に。
逢えない、


…湊に。