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＊紹介文／目次＊

1

雨が、降っていた。
土砂降りの雨だった。
細い一筋の流れが、坂を下って行く。
その流れは、少しずつ、本当に少しずつ、太くなっていって。

騒めきが、聞こえる。

「あれ…なん…だ？」

雨音で声が消されてしまう。

ーあの流れは何か、だって？

知る訳、無いじゃないか。領らないよ。

そう、知らないんだ…。

・・・・・・・・・・・・・・・

雨の中、座ったままで。
口を、動かした。
けど、声など出なくて。出せなくて。
…でも。
その声は、
届かなくて良い。
自分への、戒めだから。

10～ 20～ 30～ 40～ 50～ 60～

＊53＊

10ー7
舞はその晩、真琴に呼ばれた。

「どうしたの」

「いいから、ここに座って」

真琴の声音が、いつもと少し違った。剣呑なものになっている。

「…今日、湊先輩の検査をした」

「うん」

「湊先輩……すい臓がんだった」

「えっ」

「そう。舞のお父さんと、同じ病気」

それは、湊のお父さんと同じ病気、ということでもある。遺伝してしまったのだろうか。

「…それで？」

「鳩尾が痛むという自覚症状は、ステージが進んでいる証拠」

「………」

「湊先輩は、ステージIIIとIVの狭間にいる。でも、かなりIVに近い」

「IV、て……？」

「ー末期」

舞は絶句した。なぜ。なぜ、よりによって湊が。
彼女は親友の話の続きを待つ。

「……余命、は、かなり少ない」

逃げられないほど大きなものが、突きつけられたような感覚。
舞は額に手を当てて、何も言わずに部屋を出て行った。

「舞……」

医者として、できることはやる。
でも、手の施しようがない時も、勿論ある。
真琴は、肺に転移しそうな癌細胞が映っているレントゲンを、ずっと見ていた。