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＊紹介文／目次＊

1

雨が、降っていた。
土砂降りの雨だった。
細い一筋の流れが、坂を下って行く。
その流れは、少しずつ、本当に少しずつ、太くなっていって。

騒めきが、聞こえる。

「あれ…なん…だ？」

雨音で声が消されてしまう。

ーあの流れは何か、だって？

知る訳、無いじゃないか。領らないよ。

そう、知らないんだ…。

・・・・・・・・・・・・・・・

雨の中、座ったままで。
口を、動かした。
けど、声など出なくて。出せなくて。
…でも。
その声は、
届かなくて良い。
自分への、戒めだから。

10～ 20～ 30～ 40～ 50～ 60～

＊8＊

3
3ー1
帰りを告げる玄関ドアの音に、母はすぐに気がついて心配そうな面持ちで夫を出迎えた。

「最近、帰りが少し遅いじゃない。大丈夫なの？」

「大丈夫だよ、平気平気。午前様に帰って来てる訳じゃないんだし」

そう言いながら、父の目は湊を追いかけている。

「おおっ、まだ起きてたのか、湊。良い子は早く寝ないと駄目だぞ？」

少し、はにかんだような顔。

「わかってるよ。もうねる。パパ、おやすみなさい」

湊は、いつも父親の帰りを待っていた。毎晩、父親の顔を必ず見てから、すぐ眠りにつく。
蘭々と光る目で父親を見上げる息子に時たま見せた、優しそうな顔。

「…あぁ、お休み」

しかし、 “少し遅い”父の帰りは、やがて“すごく遅い”帰りになった。

「おう、ただいま」

「…すごく遅いじゃない。もう2時よ？どこにいたの」

「いや、先輩との飲み会だって。…湊は？」

「もう寝ちゃったわよ」