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*19*
ⅩⅧ、隠し階段
旧校舎にて―神前美波―
私は、祐樹君を尾行していた。
祐樹君は警戒心が強いのか、何度も振り返る。姿を消す魔法は使っていないから、隠れ損ねたら見つかってしまう。ふと、人間界で流行っているらしい探偵ドラマを思い出した。犯人に見つからないようについていく警察と探偵…。私が探偵で、祐樹君は…犯人?何の?
そんな事を考えていると、祐樹君は壁の一部を押した。するとその壁がシャッターみたいに上に上がって、階段が現れた。祐樹君はその階段を下っていく。
旧校舎にこんな隠し階段があるなんて知らなかった。私は祐樹君の後を追った。
暗い階段が、煉獄に繋がっているのではないかと思う程長い。足音が響く。祐樹君と同じ歩調にしないと、すぐに見つかってしまう。祐樹君は下まで下りたのか、左を向いて歩き出す。と、次の瞬間…。
私は足を踏み外して階段を転げ落ちてしまった。頭を強く打ったみたい…。痛さで顔も上げられない。手を頭に当てて押さえると、濡れたような変な感覚がした。血が出たのかもしれない。そうか、人間の姿だから、痛覚があるんだ…。初めて私は、「痛みの辛さ」を知る事ができた。
「天族が何故ここに…?」
声の方を見ると、祐樹君が立っていた。それに、何故か私の正体を知っているみたい。どうして?
恐怖が私を包み込み、身動きがとれなかった。逃げなければならない。でも体が動かない…。
「うっ…!!」
うめき声が聞こえると思ったら、祐樹君が何かをこらえているような体勢になっているのが微かに見えた。もしかして、祐樹君は…。
旧校舎にて―工藤直人―
僕は、楓様に呼ばれて旧校舎にいる。楓様は心配そうな表情が絶えない。
「此処でじっとしても何も始まりません。行きましょう。」
僕が言うと、楓様は軽く頷いた。懐中電灯を付けて旧校舎に踏み出すと、今まで壁だった場所にある階段を見つけた。美波さんはあの先にいるはずだ。
「直人…あれ…。」
楓様が怯えた声を出している。僕も同じ方を見る。
…!
階段の途中から点々と血の痕が下まで続いている。
「美波にきっと何かあったんだよ!早く行こう!」
楓様の声で我に返った僕は、楓様と長い階段を下りていった。