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ⅣⅨ、記憶が…
霧隠にて―神前美波―
此処は…?
私は目が覚めた。夕方なのか、日は西に傾いている。
そうか…私は「掛橋」を元に戻して詩を唄って…。って事はまさか!?
「グレイスよ。」
スガルトが私に優しく語りかけた。
「この世界の者に、別れを告げるのでしょう?『掛橋』の効果は消えつつある。」
そうだ。もう楓ちゃん達に姿が見えなくなるんだった…。
「あれ?此処は…。私、どうして…。」
楓ちゃんが不思議そうな表情をして辺りを見渡している。そして私を見ると、驚いた表情をして言った。
「貴方は…誰なの?」
そんな…!覚えてないの!?そういえば儀式に代償があるとか…。まさか、それって…。
「私は水神グレイス。聞き覚えは、ない?」
「水神!?ええと…聞いた事があるような気がします…。」
やっぱり…記憶がないんだ。
今まで一緒に過ごしてきたのに、どうして?私は雪解けから雪崩が起きた時のように、涙が流れていった。悲しくて苦しくて、でも伝えられない…。
その時、私の体が光に包まれ始めた。いけない、天界に戻らなきゃ…でももう少しだけ…!
「ええと…なぜ水神様が私の元へ?」
「貴方は覚えていないかもしれない。でも以前、私と貴方は会っている。だから、別れを告げに来た。
…今まで、ありがとう…。」
それを言った瞬間、私の周りの光が強くなっていつの間にか天界にいた。
天界にて―璃蘭―
もうすぐ、即位か…。
私は天界の青の森の神殿で、グレイスが聖壇に上がるのを見ていた。その壇にいる水神セイドから王冠を受けとって、グレイスは正式に水神となる。
意外と早い半年だった。でも私、いや岡崎璃蘭にとっては、もっと長い年月。
それに…まだ物語は終わらない。だって、岡崎璃蘭の予言が正しければ…。
『楓達が物語を紡ぐ。』
これを記した紙は、「あそこ」に入れておこう。きっと、楓達が気付くはず…。
「やっぱり…運命は変わらない…。」
岡崎璃蘭が呟く。そんな事はないよ。だって物語を紡ぐ事で、忘れはしないんだから。
「でも記憶は消えている。…ねぇ璃蘭、水神の子達は、どうすれば良かったんだろう?」
過ぎた時を悔やんでも始まらない。考えるべきは、「今」だよ。さてと、そろそろ返そうかな。
だって、私は岡崎璃蘭なんだから。