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*20*
ⅩⅨ、隠し部屋
旧校舎にて―吉永楓―
私が階段の下に着いた時、まず感じたのは匂いだった。地下室なのか、かび臭い匂いが漂っている。古い倉庫みたい。
そして直人が懐中電灯の光を照らした先には、倒れている美波と後ろを向いている窪田先輩がいた。その他にも、行方不明になっていた生徒達が眠っている。
「美波!!」
私は美波の元に駆け寄ろうとしたけれど、直人がそれを阻止した。
「楓様、駄目です!行方不明者がいるという事は…祐樹さんは…。」
窪田先輩が、まさか誘拐を…?
「僕は…仕方…なかったんだ…。そうしないと…生きられない…。」
窪田先輩は覚悟を決めたようにゆっくり私達の方を見た。
「窪田先輩…その牙は…。」
窪田先輩の目の瞳はとても紅かった。そして、吸血鬼の絵でよく見る牙がある。
「僕は、吸血鬼なんだ…。魔界にいた僕は、急に人間界に迷い込んだ。魔界にいた時のように手当たり次第に吸血する訳にはいかない。でも、輸血剤ももう失いかけている。そんな時に、『SOUL COLOR』の暴走が起きた。」
「祐樹さんの『SOUL COLOR』は、まさか…。」
「血の色だったんだ。だから、吸血を押さえられなくなってしまった…。
それを知ったのは迷い込んですぐ、偶然この辺りを歩いていた時だ。何か話し声が聞こえると思って、此処が何処なのかを尋ねようとした。だけどその聞いた相手は人間で、僕を幽霊と間違って逃げたんだ。そしてその人間は校舎に頭をぶつけて気絶していた。その時、僕の中の本能が沸き立って抑えが効かなくなった…。」
「何故此処に生徒を?」
「後で記憶を消す魔法を使おうとしたんだ。だけど、『SOUL COLOR』の暴走で生徒を更にこの場に増やす事になってしまった…。」
「私が記憶を消しておくよ…。」
美波が呟いた。
「祐樹君…早く…これを…。」
美波はスポイトのような物を窪田先輩に差し出した。
窪田先輩は軽く頷くと、美波の近くに寄って何かをしていた。やがて、窪田先輩は私達の方に向き直った。
「美波に何を?」
「彼女は階段から落ちて怪我をしていた。その時に彼女はさっきのスポイトのような物で自らの血を取っていた。僕はそれを受け取ったんだ。」
「受け取って大丈夫なんですか?よくある話だと、吸血鬼に吸血された人は吸血鬼になるのでは?」
「…それは伝説だよ。それに、私には神の力がある…。多分、暫くの間は生きていけるはず…。」
窪田先輩が答える代わりに美波が答えた。あ!そういえば!!
「美波、早く保健室に行かないとその怪我…。」
「私は此処の学園の生徒じゃない…行く訳には…いかない…。」
じゃあ…どうすれば…。
「僕の幻視魔法がもし人間にも効けば…可能かもしれない。」
「幻視魔法って何ですか?」
「そのまま、幻を見せる魔法だ。美波さんを在校生に見せれば、怪しむ事なく傷を癒してくれるはずだ。」
「じゃあ早く運ぼう!直人、手伝って!」
私と直人が美波を運んで、窪田先輩は懐中電灯で前を照らした。
「美波、後もう少しで着くから、頑張って!」
美波は微かに目を開けたけど、すぐに目を閉じてしまった。
早く、早く、早く…!