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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
作者: 琴 ◆ExGQrDul2E  (総ページ数: 66ページ)
関連タグ: 殺人 SF 複雑 罪と輪廻 
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【第九話】<突然の一瞬>

 いじめられなくなったあの日。あれから毎日、俺は柊さんと一緒に帰っていた。
 柊さんの嬉しそうな顔をみると、俺も嬉しくなった。
といっても放課後だけの話で、学校では今だに暗いし、ちっとも楽しそうじゃない。
俺は、と言えばこの頃は毎日学校に行くようになった。
友達もたくさんできたし、雪とも仲良くできてるし。
なにか忘れているような気もする、心に小さな穴が空いてる気がする。でも、結局それがなんなのかは分からずに、毎日を過ごしていた。

 そんなある日の夜。俺はいつも通りパジャマ姿でゲームをしていた。ちなみに、今日のパジャマは青い色のチェック柄だ。わりとお気に入りだったりする。
「チッ」
俺は小さく舌打ち。
 あのゴリラみたいなボスに勝ててからは、しばらく順調になったのに、いきなりまた勝てなくなった。
 今度は、鎌の代わりにナイフを持った死神のようなボスだ。こいつが意外と強敵で、一撃で負けてしまう。
本当、ムカつく奴だ。しかも、このボス。顔が笑ってやがる。
 ゲームだから表情が変わらないのは当然だが、この気味悪い笑った顔が固定されているのが俺は嫌だった。

 ずっと繰り返してゲームをしているが、いっこうに突破できない。突破できないから、スタミナは減っているばかり。
仕方なく、リタイアする。これで、10回目だ。もう、スタミナもない。
「はぁ……」
 俺は、ため息をつくと寝る前にトイレへ行くために、一階へおりていった。
ちらっとリビングをみる。
「あれ?」
 そこには、なぜか明かりがついていた。
俺は、リビングに近づいて、耳をすました。
リビングから父さんと母さんの声がする。結構、深刻な話をしているのか、二人とも声が低いから声がよく聞こえない。
 だが、二人とは違う明るい女の声も聞こえた。
その声は……そう、ニュース番組のアナウンサーの声だ。機械的にスラスラと原稿を読んでいくアナウンサー。
「今月中旬、女が殺人鬼に殺された、というニュースがありましたが、それと同人物らしき男が、昨日の夜、また女の人を殺したという緊急ニュースが入りました。 被害者の女性は胸を刺されたらしく、病院に搬送されましたが、重症です 他、その方の父とみられる男性も足を刺されましたが、軽傷です」
 殺人鬼。 たしか前も聞いた。梢さんが言っていたはずだ。
 うちの担任も女だし、もしかしたらこの殺人鬼が担任を殺したのかもしれない。
それにしても、この頃は物騒だ。
 少子高齢化、離婚問題にセクハラ、しまいには殺人鬼。
こんなことばかり溢れた社会になってしまっては、俺らみたいな子供はどう生きていけばいいのだろうか。
 そう思っていた時、母さんの叫ぶような声がした。
「もう、嫌なのよっ、私はっ!」
 バシッ。
なにかモノを投げつける音がした。
「そんなことをいっても仕方がないだろう」
 父さんの妙に落ち着いた声。
(なんで、そんなに落ち着いていられるんだよ。)
俺は、よくわからない状況の中、そう思った。
「嫌なの、私はもう出ていくわ。 真人の面倒はあなたが見て頂戴」
 母さんは、そう言った。ないているのか、声が濁っている。ヒック、と嗚咽も小さく聞こえてくる。
 そして、母さんの足音がこちらに近づいてきた。
俺は、咄嗟にトイレの個室に逃げ込んだ。


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