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【第十五話】 <不幸じゃん。最悪じゃん>(雪視点)
−−私はみた。 彼の姿を。
それは、真人と登校している最中だった。二人で仲良く談笑しながら、道を歩いてた。道端に咲いてた水色の花は、とっても可愛かった。
「……っ!?」
花から目を離して前を向いた時だ。なにか人影が見えた。
そこには、二人の人間がいた。男と、女の子らしい。女の子の方は、丸菜学園の制服をきていた。男は、こんな真夏にコートを着て、まるで顔を隠してるみたいに大きなマスクをしていた。
まさかこの時は、この男が殺人鬼だなんて考えもしなかった。
真人の後ろについて、ゆっくりと二人に近づく。そして、女の子が誰かわかった時、私は息を飲んだ。
キラッと鋭利な包丁が日光を反射する。この男は、丸菜学園の少女を殺そうとしていたのだ。それも、私の友達の柊さんを。
(やだやだやだやだぁっ!)
頭の中が真っ白になる。なにも考えられない。
こわい、逃げたい。その時、真人は、私に小さく「逃げろ」と言った。
私は、必死で逃げた。走って、走って。どこに行こうとしてるのかわからなくて、ただただ走った。
やっと、真人たちが全く見えないところまできて、呼吸を整えるために立ち止まった。
何気なく周りの風景をみる。
目の前に建っていたのは……自分の家だった。白野家の大きな家。となりには、真人の家が並んでいる。
(やっぱり、家に帰っちゃうんだなぁ、無意識なのに)
そんなことを思いながら、家に入るために、ドアを開けようとした時だ。
「そうですか? そんなことないですよ」
お母さんの声が、庭から聞こえた。
(なんだろ……?)
私は、不思議に思いながら、庭を覗いた。
そこにいたのは、梢ちゃんと、お母さんだった。
「なんで梢ちゃんがいるの?」
私は、小さくつぶやいた。
そして、一度深呼吸した。
落ち着け、わたし。
そして、いかにも今まで全速力で走っていたかのように息を乱す演技をする。そのまま、庭に走って行った。
「梢、ちゃんっ、はぁ、はぁ……。 まこ、とがっ! 大変なん、だよっ!」
息を乱しながら、必死で話す。これも、演技。
お母さんは、いきなりの私の登場に驚いていた。梢ちゃんは、驚きながらも私の話を聞いていた。
私の話をすべて聞き終わると、梢ちゃんは強く頷いて、真人たちの所へ走って行った。
「安心してください。 赤崎くんは、僕が助けますから」
彼は、優しく微笑んでいた。これが、最後にみた彼の笑顔だった。
そして、庭には私とお母さんが残された。
険悪な空気が漂う。
「なんでアンタ、ここに来たの」
先に口を開いたのは、お母さんだった。
「別に。 どうしようと勝手でしょ」
私は、彼女を睨みつけながらそういった。
すると、彼女は何かを取り出した。それは、白いスマートフォンだった。そして、彼女はどこかに電話をかけたのだ。
「んー、もしもし? 私よ、私。 あのさぁ、台本に書いておいてよ。『赤崎 真 死』ってさ」
彼女は、誰かに親し気に話していた。時雨さん相手にしては口調が明るい。誰かわからずに、私はくびをかしげることしかできなかった。
そして、彼女はしばらく話してから電話を切った。
「ってことで、真人くんはしんじゃうから。 じゃあね、雪」
彼女は、小さく手を振って、そのまま庭から出て行ってしまった。
色々いいたいことはあった。だけど、私はもうなにもいえなかった。
−−『真人くんはしんじゃうから』。
なによ、それ。
真人が死ぬわけないじゃん。あんな薄っぺらい本に負けるわけないじゃん。 あんな馬鹿らしいゲームに殺されるわけないじゃん。
そうは思っていても、やっぱり台本が真人のことを絶対に殺す。もう、決まっていることなんだ。