完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*61*
(不幸じゃん、私って。)
私はそう思った。
あの殺人鬼の事件は、何日も前の記憶。なのに、それが鮮やかに蘇ってくる。梢ちゃんや、柊さんが死んだ所はみてない。でも、怖くて、怖くて。私のせいで、梢ちゃんを殺しちゃったんだ。そう思うと、恐ろしくて生きているのが辛くなる。
柊さんも、梢ちゃんもとても大切だったから。
私は、真人をもう一度見下ろす。どうみても、死んでた。苦しそうな表情をしていた。
もう、真人と遊んだり、話したり、からかい合ったりできない。その悲しみは、とても演技で隠すことなんてできなかった。めから溢れ出る涙。耐えようとおもっても、耐えられなかった。涙が……止まらない。
「友達のために泣くなんて、健気ねぇ」
お母さんが、とても面白そうに笑っていた。つられてこちらも笑いそうになっちゃうくらいに嬉しそうで、楽しそう。
もう、彼女はくるっちゃってて、私とは違う次元に住んでいる。
――世界を超越する存在。それが、台本。そして、それを手に入れたこの女は、もう普通じゃない。
なんで、こんなやつから私は生まれたのだろう。咲子さんの家に生まれたら、真人と仲良く平穏に暮らせたのかな?そしたら、夜人と真人と私とで、一緒に登校できてたのかな。
辛い、辛い。悲しい。私のせいで……私が生まれてしまったせいで。
涙を止めようと、服の袖で涙を拭う。でも、まだまだ出てくる。 ふと袖をみてみたら、目を当てていた所は、濡れてしまってて、肌が透けて、白い服がかすかに肌色になっていた。
「ま、いいわよね。 おもしろいし」
彼女はそういうと、白いスマートフォンを、床から拾い上げた。
そして、器用に操作して、 ゲームの管理画面を開けた。
「さ、覚悟を決めて?」
彼女は、私に画面をむけた。
そこには、〈白野 雪 を生贄にしますか?〉と赤字で書かれていた。
私は、それを見た瞬間、骨の髄まで冷えたような感覚を味わった。だって、お母さんにこんなことを言われたんだもの。
あなたはわかる?実の母親に、「死ね」と言われた少女の悲しみが。
私は悟った。
――私は……殺される。
お母さんの顔を見つめる。にこりと優しく微笑んでいた。この笑顔は、確かに私のお母さんのものだった。
もし私が死んだら、お母さんはどうなるんだろう。真人や夜人がいなくなった時と同じように、「やった、また生き延びられるっ!」とか思うのかな? 悲しみはないのかな。
どうせ、この女は悲しまないだろう。きっと、私が生贄になったことを喜ぶだけ。
「さ、早く。 私のためにはあなたが必要なのよ」
お母さんが、私にスマートフォンを突きつけた。そして、パッと手を離した。
私が受け取る直前のことだったから、重力のおかげで、お母さんのスマートフォンは床に落ちていった。
私は、それをゆっくりと拾う。そして、優しくスマートフォンを撫でた。画面に、小さなヒビが入っていた。
「……っ」
そのヒビを見つけた私は、慌ててスマートフォンの電源をいれる。
すると、いつも通り起動した。壁紙は、前まで私と夜人が笑顔で写った写真だったのに、今は、時雨さんとお母さんが笑顔で写った写真だった。
私は、無表情で、ホーム画面から管理画面に移動した。