完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*62*
私が管理画面まで移動すると、お母さんが口を開いた。
「それでね、貴方が生贄になればいいのよ。 そしたら、終わるわ」
お母さんをみる。 にこり、と笑っていた。
「……」
「……」
長く重い沈黙が続く。
――私は、怖かった、死ぬことが。
人間は、やがて死ぬ。それは分かってること。学校でも習ったし、そんなのは常識。
それでも、知るのと実行するのは違う。
笑っちゃうよね。 考えてみてよ? スマートフォンのボタンをポチッと押したら、私って死んじゃうんだよ。
命って、そんなに軽かったっけ。
私が生まれた時、お母さんはどんな顔をしたの?お父さんはどんな顔をしたの?
「私がこれを押したら、真人は幸せになれるの?」
私は、お母さんに聞いた。にっこり笑ってるお母さんに。
すると、彼女は笑ったまま答えた。
「そりゃそうよ。 貴方が死んだら、私がこの姿のままでプラス15年生きられるの。 真人くんたちの命もいれるから、120足す15で135年私がこのままの姿で生きられる計算になるじゃない? そしたら、貴方と真人くんは私の中で生きられるから幸せになれるわ」
なんて、無理やりな理由。そんなこと、許される訳がない。135年?バカにしてるの、私のこと。
(こんな女の中で生きるなんて、考えただけで虫唾が走る)
そう考えながら、もう一つ聞いた。
「今、私がお母さんを殺したらどうなるの?」
「そりゃ、私が死ぬのよ」
私の問いに、お母さんは全く考えずにそう答えた。
「なによ、それっ! 散々、人の命を奪っておいて、殺されたら死ぬの!? 人の命、舐めてんの?」
「人の命なんてね、ちっぽけなのよ。 すぐに終わっちゃうのよ」
お母さんは、にこにこと笑ったまま、真人を見下ろした。それに釣れられて、私も真人をみる。
「ほら、彼だってすぐに終わっちゃったわよ? ほんと、儚いわねぇ」
あぁ、もういやだ。
なんで?
なんでなのよ。
なんで殺されなきゃいけないの?
私は、真人は、自由じゃなかったの?
なんのために彼はしんだの?
それは、お母さんの為。
そんなの、あり得ない。おかしい。
――狂ってる。
「……」
私は、覚悟を決めた。
画面に指をつける。そして、指を離す。私は、押したのだ。
――「生贄にしますか?」という質問の「Yes」という答えを。
私が死んだら、真人と一緒になれるよね。
そしたら、二人で恋人になりたい。
二人で、いっぱいいっぱい遊びたい。
そういえば、夜人もいるんだっけ?仲間外れにするのもかわいそうだから、一緒に遊ぼう。
また昔みたいに「お兄ちゃん」って呼んだら、びっくりするかな?「お前、熱あるのか?」って、怪訝そうな顔するかな?
それからそれから、柊さんとも遊ぼう。
公園でかけっこしたり、かくれんぼしたり。 この頃、全くしてなかったよね。
それに、梢ちゃんは私たちに勉強を教えてくれるの。難しい問題も、微笑みながら教えてくれるの。
わからなくて不貞腐れてる私とか真人を苦笑いしながらなんども教えてくれるんだよね。
皆で、バーベキューとかもするんだ。そういえば、小さい時に夜人がバーベキューの時にマシュマロを入れて怒られてたっけ? あの時のマシュマロ、美味しかったんだよなぁ。
お母さんとお父さんが夜人を怒ったあと、お母さんが食べて、「意外と合うわね」と苦笑いしてた。お父さんも、後片付けの時に、一つ食べて微笑んでたよね?私、知ってるよ。
咲子さんは、いつも優しく私の頭なでてくれたよね。朔さんは、「ちゃんと雪ちゃんも勉強しないと、真人みたいになるぞ」って笑ってたっけ?