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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
作者: 琴 ◆ExGQrDul2E  (総ページ数: 66ページ)
関連タグ: 殺人 SF 複雑 罪と輪廻 
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*63*

 また、前みたいになりたいなぁ。
 戻りたいなぁ。

「へぇ。 度胸あるじゃないの。 ありがとね、雪」
 お母さんが笑った。そして、私に近寄る。
 私は逃げなかった。後ずさりもしない。でも、うつむいて、お母さんの笑顔だけは見ないようにしていた。もしみてしまったら、決意がゆらぎそうだったから。
 (真人たちのところに行けるんだもん!)
 逃げる理由なんてない。殺してくれて、結構。
「本当に、ありがとう」
 ふと、お母さんの声が曇った。
 私は、その声に気づいて頭をあげた。彼女は……泣いていた。
「ありがとう」
 お母さんは、そういって私を抱きしめた。
 暖かい。私は純粋にそう思った。

――泣いていた。あのお母さんが。
 涙を流していた。目の周りを少し赤くして。でも、少し微笑みながら。
 なんで、泣いたの?私なんて、必要なかったんじゃないの?
 私は分からない。なんで泣いたのか。
 でも、このお母さんは確かに暖かかった。

 その時だった。
 チクリ。
 何かが首に刺さった。
 冷たく鋭い感触で、その正体に私は気づいた。それは、……針だった。
 針が抜かれる。そして、お母さんは私から離れた。
「……」
 彼女は黙ったまま、私に針を見せた。表情は、少し微笑んでいた。
 私の血がついた針は、赤黒く光っている。
 ぼおーっと針をみているうちに、どんどん、視界がぼやけていく。そのうち、お母さんの顔も良く見えなくなった。ぼやけちゃって、お母さんが泣いてるのか笑ってるのか分からない。
 そして、膝の感覚がなくなって、私はその場に崩れ落ちた。床が目の前に見える。埃一つ見えなくて、綺麗に掃除されてるように見える、ぼやけててよく分からないけど。
 その瞬間に、私の目の前は真っ黒になった。

 こんな光景をみたことがある。確か、なにかのゲームだったと思うんだ。
 敵に倒されちゃった時に、ゲームプレイヤーは倒れる。そして、画面が真っ黒になるんだ。
 そのあと、画面に表示されるんだよ。

「【ゲームオーバー】」


 冷たいカフェには、私だけが残された。


【第十五話 END】


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