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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
作者: 琴 ◆ExGQrDul2E  (総ページ数: 66ページ)
関連タグ: 殺人 SF 複雑 罪と輪廻 
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*41*

 とりあえず、学校にいくことにした。
 来月の月謝を払う日までは、もしかしたらばれないかもしれない。親がいないということが。
そうなるほど社会は簡単じゃない。そんなことは分かっている。でも、こんな幻想を描かずにはいられなかった。
 家を出ると、いつもと変わらない風景。
それをみて、俺はホッとした。まぁ、変わらないのがあたりまえなのにな。
 母さんと父さんが居なくなったのは、かなり辛いことだ。
今まで必要ない人たちだと思っていたのに、居なくなったらすぐに辛くなる。
「おーい、真人っ!」
 突然、後ろから声がした。声の主は、雪だ。
俺は、もう振り返る気にもならなかった。
「なんだ?」
だが、振り返らないわけにはいかない。特に理由はないけど、そうなのだ。
振り返ると、適当に言葉を返す。
「どうしたー、元気ないなー! あ、もしかして彼女にフられた?」
「黙れ。 お前の脳みそはからっきしか。 なにも入ってないのか、その頭に」
 異常にムカついたから、雪の額にデコピンをした。
「いったぁー! なにすんのよっ、バカ真人っ」
 雪がぴょんぴょんと飛び跳ねて俺を攻撃してきた。
 俺にデコピンをしようとしているらしいが、雪の身長ではどう考えても俺には届かない。
雪はしばらくぴょんぴょん俺に挑戦していたが疲れてきたのか、その挑戦は俺のわき腹にチョップをすることで終わった。
結構、痛かった。
 その時、遠くの方に少女が目についた。そして、その前にいるコートをきた男も。
(こんな暑い夏になぜコートをきているのだろう)
 そう思いながら、好奇心で近寄ってみる。
後ろからまだ煩く「バカ真人ーっ!」などと言っている雪に「静かにしろっ」と声をかけながら。
 かなり近づいてみると、少女が誰か分かった。柊さんだった。
彼女は泣いていた。 大粒の涙を流しながら、「やめてくださいっ」と叫んでいた。
その前にいた男は……ナイフを持っていた。
 その時、俺は理解した。柊さんはこのナイフを持った男に襲われていたのだ。
 普通なら、ここは俺が彼女を助けるところだろう。
だが、俺は嫌だった。
(柊さんを助けて、俺がもしかしたら刺されるかもしれない)
 そう思うと、柊さんを助けることなんてできない。
 俺は、雪に目配せをして、無言のままきた道を引き返そうとした。
だが、その行為は失敗に終わった。
「真人くんっーー!!」
 柊さんが、叫んだのだ。 俺の名前を。
俺を見つけて、助けてもらおうとしたのだろう。
俺は、恐る恐る彼女の方を振り返った。
殺人鬼の目は……俺のほうをむいていた。ナイフも、俺に向けられていた。
「雪、逃げろっ!」
 雪に向かって言う。すると、雪は殺人鬼の方をちらっとみたあとで、涙目になりながら逃げていった。なんども転けそうになりながら。


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