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*42*
雪が見えなくなるまで俺は、雪の逃げていった方をみていた。
そして、また柊さんの方を向く。
(もうダメだ、俺は助からない)
そう思いながら、後ずさる。
すると、それに合わせて殺人鬼も前進。
そんなやり取りがしばらく続いた。
ナイフが、太陽の光を受けてキラリと光る。
俺は、ちらっと柊さんの方をみた。
彼女は、涙目で俺の方をみていた。
「逃げろ」と口パクをしたが、彼女は首を振って逃げてくれない。口パクが伝わらないのだろうか。
きゅっと自分の右手の拳を握る。冷や汗が額を流れる。
こういう時って、一体どうしたらいいのだろう。
そんな時のマニュアルとかって、あるんだろうか。
その時だ。
「……っ!?」
柊さんがいきなり走り出して、殺人鬼のナイフを取り上げようとしたのだ。
柊さんがいきなり走り出したのは、殺人鬼にとっても奇想天外だったようだ。意表をつかれて動けない。
しかし、いくら奇想天外とはいえ、柊さんが男の力に勝てるわけがない。
その力の弱い腕は、いとも簡単に振りほどかれ、柊さんにはナイフが向けられた。
でも、柊さんは今度は泣いていなかった。目の奥に、決心の炎が見えた。彼女は、なにかを決心していたのだろう。だが、その決心は儚く消されてしまった。
次の瞬間、俺に見えたのは……赤い液体。
目の前が真っ赤に染まっていく。
俺の服の方にも飛んで来て、俺の服も赤くなってきて……。
殺人鬼はもちろん真っ赤で。
真っ赤に、真っ赤に……染まっていく。
なにも見えない。
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