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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
作者: 琴 ◆ExGQrDul2E  (総ページ数: 66ページ)
関連タグ: 殺人 SF 複雑 罪と輪廻 
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10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~

*43*

 殺人鬼が柊さんから離れた。柊さんは、崩れ落ちるようにして道に倒れた。
 灰色のコンクリートに赤い液体が染み込んでいく。
その映像はとてもグロテスクだった。
……これは、信じたくない事実。信じたくないし、信じられない。
 あの、柊さんが死んでしまったなんて。
 殺人鬼は、そのままナイフを持ち、静止している。
俺の方を向くことはなかった。
「赤崎くんに……柊さんっ!?」
 その時、後ろから声が聞こえた。
優しくて、かつ、怒りを抑えきれないような声。
 俺は、この声を知っているし俺はこの声を嫌っていた。
 そう。 梢さんだ。
「なにやっているんですかっ!」
 梢さんがこちらへ駆けてくる足音がした。
俺は、殺人鬼をずっと睨みつけているから、梢さんの姿を直接見ることはできない。
 しかし、梢さんは俺を助けるつもりらしい。俺の方へ足音が近づいてきているから。
「大丈夫ですか?」
 梢さんが俺に聞いた。
「はい」俺は、短く答えた。
 別に、面倒臭かったわけではない。ただ、そう返すしかなかったからだ。
 俺は、不思議に思った。
なぜなら、梢さんがここまで来ても、俺に話しかけても、殺人鬼はこちらをみないのだ。
 柊さんを、ナイフを持ったまま見下ろしているのだ。
普通なら、「これ以上動いたら、刺すぞっ!」とか言うものではないだろうか。 それとも、俺がドラマの見過ぎなのだろうか。
「では、 赤崎くんは先に学校に行きなさい。 後は僕がやりますから」
 梢さんが、儚く優しい笑みを俺に向けた。
「……はい」
梢さんにかける言葉がなかった。
 俺のために、こんなことをしてくれる。
そんなに優しい人が今までいただろうか。こんな、優しさを俺は受けたことがあるだろうか。
なんていえばいいのか、分からない。
俺は、走り出した。学校に向かって。

 こんないい人は、学校の先生になればいい。
そして、生徒たちとずっとーーーー。

ザクッ。
 後ろからは、何かにナイフが刺さる音がした。
希望を刺すような残酷な音。
……なにが刺されたのか。
 俺は、考えられなかった。 いや、考えたくなかった。


「すいません、悠馬さん」
 つぶやかれた言葉。 しかし、その声は俺のものじゃなかった。

【第九話 END】

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