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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
作者: 琴 ◆ExGQrDul2E  (総ページ数: 66ページ)
関連タグ: 殺人 SF 複雑 罪と輪廻 
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【第十話】 <偽りの真実>

 放課後になった。
 朝からあった授業なんて、まるで頭に入らなかった。
それに、《梢さんが殺された》という情報も学校に侵入し、学校も勉強どころではなかった。
靴箱で、のろのろとした動作で靴を履き替えた。そして、校門を出た時だ。

キキーッ。

 目の前に車が止まる。 この車は見覚えがあった。
 雪のお母さん、つまり梅子さんの車だ。珍しく、雪を迎えに来たのだろうか。
そのまま、車の前を通り過ぎようとした。
ちらっと車の方を何気なくみると、梅子さんが俺の方をみて、おいでおいで、と手招きしていた。
(俺を呼んでんのか?)
 少し冷たい風が吹く。そろそろ、夏も終盤なのかもしれないな。
俺が首を傾げてみせると、梅子さんが車からおりてきた。「真人くん、大変だったねー。 通り魔が出たんだって? 雪から聞いたんだけど、真人くんが怪我してなくて良かったわー」
 梅子さんはそういうと、俺に車に乗るよう促した。
俺は、車に乗り込んだ。車の中は暑くもなく涼しくもなく。 ちょうどいい感じだ。
そして、そのあとに運転席に梅子さんが乗り込む。
「ちょっと、寄り道していい?」
 梅子さんが笑顔で聞いた。
「あ、はいっ」
頷いて答えた。
 梅子さんが寄り道するところなんて、どこだろうか。
 そんなことを考えながら、ぼんやりと窓外の風景を眺める。
いつも通りの八百屋や喫茶店が並ぶ街の風景。いつも通りで、なにも変わらない。
 こんな風景をみると、 昨日の出来事が嘘のように思えてくる。実は、あれは母さんと父さんの冗談で、帰ったら母さんとが俺を迎えてくれるんじゃないかって、幻想のようなものを脳裏に描いてしまう。
 夜人っていう少年も、実は隠れているだけで、今から雪の家にいったら、もしかしたらいるんじゃないか、いなくなっていないんじゃないか。 そんなことも思った。
 俺は、夜人に会ったことがない。 だけど、会ったことがあるようなそんな気もするのだ。
よく分からない。 この頃、いつも記憶がぼんやりしている。
 柊さんも……あれ? 柊さんってどんな子だったっけ。
ピンクのクマのシャーペン持ってた子? それとも、水色のクマのシャーペン持ってた子? 髪は長かったっけ、短かったっけ。
 この頃、こんなことばっかり。 わかりそうなことなのに、考えれば考えるほどよくわからなくなってくる。
今だって、 柊さんがよくわからない。 確か、優しい子だったことは覚えてる。
「着いたよーっ」
 梅子さんの元気な声がして、俺はハッとした。
完全に、思いにふけっていたようだ。
 何時の間にやら、知らない風景の街に着いている。
俺は、車から降りた。

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