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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
作者: 琴 ◆ExGQrDul2E  (総ページ数: 66ページ)
関連タグ: 殺人 SF 複雑 罪と輪廻 
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*45*

 そして、先におりている梅子さんのあとを着いていく。
梅子さんが入ったのは、古い店だった。
店名は、「Almond」。
 俺が前に柊さんといった店……だったような気がする。
「ほら、入って入って」
 梅子さんに言われて、店に入り込む。木製のテーブルと椅子には、見覚えがあった。やはり、前に柊さんと来たところだった。
ここのメロンソーダを二人で飲んだんだっけな。
椅子に座ろうとすると、
「まだ奥よ。 ここじゃないわ」
梅子さんがそういった。
(なんか……?)
いつもの梅子さんと違う気がした。
明るくてさっぱりしてるけど、なんか違うような……。
 俺が本能的な危機感を感じ始めたのも、今頃だった。
だけど、危機感の根拠もわからないまま、俺は梅子さんに着いていった。
 店の奥には、煙草をふかしている男がいた。
スーツをきっちりと着こなしているその姿は、まさに紳士だった。
 梅子さんと俺を見つけると、男はニコリと笑った。優しそうな笑みだった。
 しかし、梢さんとは違い、冷たい優しさだ。言葉は矛盾しているが、 確かに冷たい優しさだった。
「こんにちは。 初めましての方ですね」
 彼が言葉を放つ。 優しい口調で、敬語で。
「はじめまして。 俺、赤崎 真人っていいます」
「君が真人くんですか。 梅子さんから話は聞いていましたよ」
(梅子さん、こいつにどんな話をしてんだよ)
 そんなことを思いながら、彼に向かってニコッと愛想笑い。ぺこりと頭を下げた。
すると、彼も、丁寧に会釈を返してくれた。
「俺は、 高川 時雨と申します。 以後、お見知りおきを」
 また、彼は微笑む。 彼の名前は高川 時雨だそうだ。
真っ黒のなんの混じり気もない黒い髪は、暗い闇のようで今にも吸い込まれそうなくらい澄んでいた。目も綺麗な黒。
体格は、細めだががっちりとした体つきをしていた。顔はもう、イケメンの一言に尽きる。羨ましいほどの紳士だった。
 それにしても、なぜ梅子さんは俺と時雨さんを会わせたのだろう。
俺が梅子さんをみると、時雨さんが唐突にいった。
「真人くん。 君は、あの伝説を知っていますか?  今からちょうど……100年程に世界を混乱させた伝説です」

 ……伝説?
なんだそりゃ、龍とかそんな感じのものか?
「私はね、 真人くんにこの話を知ってもらいたくて、呼んだのよ」
 梅子さんが、控えめに微笑む。いつも豪快な彼女にしては珍しい微笑みだった。
「知らないみたいですね。 では、ゆっくりと語りましょうかね、現実には再現不可能と考えられた、伝説を」
時雨さんも控えめに微笑んだ。


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