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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
作者: 琴 ◆ExGQrDul2E  (総ページ数: 66ページ)
関連タグ: 殺人 SF 複雑 罪と輪廻 
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10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~

*46*

 昔々、 ある街の男が白いノートを創り出した。
 そのノートは、「未来を創造できる」というもの。
彼は、このノートを《台本》と名付けた。
ある日、 彼が街の人にこういった。
「今から、あなたのお望み通りの未来を作ろう」
と。
 街の人は、ふざけたつもりだった。
賄賂によって町人から支持を得ていた隣町の町長を殺せといった。
 台本を創り出した男はニヤッと笑って、台本に何かを書き込んだらしい。
 そして、次の日。
 その日の朝刊の一ページ目にはこう大きく見出しが書かれていた。
『隣町の町長、 謎の死!!』
 街の人は驚いた。
本当に死ぬなんて思っても見なかったのだ。
記事を読んでみると、隣町の町長は本当に摩訶不思議な死に方をしたらしい。
 首を圧迫された跡もないし、外傷もない。それに、毒物反応もなかった。
 いきなり、なんの理由もなく死んでしまったのだ。
街の人は、台本を創り出した男を問い詰めた。
「これはどういうことだ」
迫ってみたものの、男は「台本の力だ」の一点張り。
 この、科学が進歩した時代に、そんな魔法じみたことが信じられる訳がない。
野次馬の一人が叫んだ。
「今は、2050年だぞっ! 昔じゃねぇんだよ、そんな幻みたいなことあるかっ!」
 男は不敵に笑う。
「では、試してみようかな。 台本が本当かどうか。 そうだね……君の今いるところから火を出してみようか」
街の人たちには、その言葉の意味が理解できなかった。
 暫しの沈黙。
その沈黙は、先程の野次馬によって破れた。
「おうよっ、やってみろ!」
 この野次馬だって、次の瞬間には自分が焼け焦げてしまうなんて思ってもみなかっただろう。
男は不敵に笑う。そして、台本のページを三枚ほどめくった。そして、その真っ白な無地のノートにこう書き込んだ。
「9/30 坂野 勇太 燃える」
男は、単語だけ書き込んでいた。
(野次馬の名前は、坂野勇太だったと記されているけれども、それは伝説であるから正しい名前なのかは分からない。なにしろ、100年も前の物語なのだから)
 こんな変な文を書いているこの男は頭がイカレているんじゃないか、と思ったものもいたくらいだ。

一分、二分。
野次馬は燃えなかった。
それからしばらく待っていたが、燃えなかった。
誰かが溜息をついた。それを合図とするかのように、
「なんだよ、てめぇ。 騙したのかよっ!」
野次馬が男に殴りかかろうとしたその時だ。

 ボワッ。

 いきなりの、青白い燐光。
街の人たちはあまりの眩しさに皆が目を瞑ったという。

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