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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
作者: 琴 ◆ExGQrDul2E  (総ページ数: 66ページ)
関連タグ: 殺人 SF 複雑 罪と輪廻 
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*47*

 街の人たちが恐る恐る目を開けた時、そこに男はいなかった。
そして、その一人が叫んだ。
「焼けてるぞっ!」
皆が、男の足元をみた。
その足元には、黒く焦げた何かが残っていた。

 と、いう話であった。
 皆様なら気づいたかもしれない。この男は、普通ではなかったということが。狂っていた、ということが。
 だが、街の人は信じきれなかった。
だから、「あの男は、危ない男だ」と、そんな噂が街を回っていった。
 そして2053年のある日。 男は暗殺された。 街の誰かの手によって。
だが、街の人が男の家をどれだけ念入りに探してもあのノート《台本》は、見つかることがなかった。

「って伝説です。 真人くんは信じますか?」
時雨さんがそう聞いた。
「……信じられません」
 俺のこの回答は当たり前のことだと思う。
俺は、彼から話を聞いても、まだ理解できない。
 伝説は、台本に書き込むだけでそれが現実になるってことだろ? そんなことはありえない。
 もしそんなことがあり得たら、人間の人口なんてこんなにも増えないはずだし、もっと科学も進歩しているはずだ。
だが、2050年から100年経った今でも、昔から人が夢見ていた空飛ぶ車などは作られていない。 UFOの正体も解明していない。 人口なんて増えすぎて、あちこちで残酷な殺生が行われている。
 そんな汚れた世界で、台本のようなものを人々が欲しがるのは確かに必然的なことだ。
 事実、俺もあるならばそんなものがほしい。

ーーお金持ちになりたい、恋人がほしい……そんな浅はかな願いじゃない。
俺にはもっと大切な願いがあるのだ。

 しかし、そんなのはあくまで幻想。
あり得ないことだ。
伝説なんてデタラメだろう。

「では、これはなんだと思いますか?」
 時雨さんがそう言った。
その手に持たれていたのは……白いノート。
表紙には、綺麗な字で『だいほん』と書かれていた。
「嘘だろ?」
俺は、思わず聞いた。
 時雨さんは、その質問を無視してそのノートの三ページ目を開けた。
「9/30 坂野勇太 燃える」
……。

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