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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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*39*



「露木くん」

 冬の寒さも峠を越え、春の尻尾が見え隠れし始めた頃、ふらりと立ち寄った音無の駄菓子屋で彼女は言った。

「ヒトの祖先って何だか知ってる?」
「猿だろ」

 飴の詰まったビン、チョコレートが敷き詰められた飾り箱、天井から吊り下がったラムネの袋。それらの間から、悪戯っ子のような笑顔が覗いている。

「そう、猿ね。……だけど、それって、本当だと思ってる?」
「どういう意味?」
「人間の祖先は猿だとか、地球はもともと宇宙の塵だとか、そんなのはみんな説明用の歴史なの」

 古い木の椅子に座って、カウンターの上に肘をついた彼女は指を立てて得意げに言った。

「神様の気まぐれを一生懸命取り繕って、継ぎ接ぎの進化論を語っているのよ。そう考えたことはない?」

 無いかなぁ、俺は答えた。

*

「どこ行ってたんだよ?」

 拠点に戻ると、起床をしたばかりだという顔をした金堂が機嫌の悪そうな細い目で俺を見て、尋ねた。

「ちょっと、音無のところに」

 壁にかかった安い時計は、もうすぐ午後になろうとしていた。

「お前もよく寝てられるもんだな」
「寝る子は育つんだろ」

 金堂はそう言って、大きく伸びをした。

 俺がこの世界に生まれて三か月。何となく、気が付いたことがある。俺も金堂も食べ物には困らず、金はあまり必要ではないのだ。どうしても必要があるときは御影という男が手配をしてくれると、金堂は言った。俺は神の計らいだと思う事にしている。
 不安定に見えるこの世界も、どこかの歯車が上手くかみ合って、上手にバランスを取っているのだ。実に奇妙なことである。
 もっと時間が経てば、また何かに気が付けるのかもしれない。頭の奥に引っかかっている、大きな何かすら、時間が経てば。

「散歩にでも行くか」
「ああ、そうだな。ちょこちょこ見回りをしないと、俺が御影に怒られる」

 彼は心の底から湧き上がってくる嫌悪感をめいっぱい顔に出して、言った。

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