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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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「神は居なかった!」

 御影が珍しく何か叫んでいると思ったら彼は、今私の居る彼の机のある部屋の扉を開けて、そう言った。
 ちょうど私がソファーにもたれて、窓の外、地や屋根を打つ雨の音を聞きながら、悪意の塊のような湿気に腐り始めていた。
 期待した。何か非日常を持ってきてくれたのだろうか。
 最近は至って平和で、何事もすることもなく、帝釈天の件で出会ったあの青年と時々喫茶店で茶を飲みながら、彼の更生を仕方がなく見物する日々を送っていた。しかし。
 どうしたのかと尋ねると、彼は青い顔で答えた。

「ああ、吉祥天のツケだよ。何てことだ。用意をしていたのに……どこへ行ったのか……。まさか足が生えるなんて……」

 滑稽な仕草だった。この男、本気か?
 そんなことかと落胆をしたものの、今まで見たことのない彼の慌てようを見て、この光景には中々価値があるのではないかと思い直した。

「そういえばそのツケって、何?」
「煙草だよ。吉祥天が吹かしている、紫の。……それにしても困ったな」

 忙しなく、うろうろと歩き回りながら。

「あれ、もう仕入れられないんだよな」
「そうなの? どうして」
「そんな気がする」

 気がする、とは身勝手な言葉だが、彼が用いるとまたニュアンスが違ってくる。それは確信に近かったが、一応、今なら解答をくれるだろうと思い、尋ねた。

「予知ができるの?」
「できるけど、そんなことはどうでもいいよ」

 ほら。彼の言う、気がする、とはつまり、確実にそうなのだ。
 それにしても彼は相当、取り乱している。彼をこれほどまでにするのは吉祥天だ。なんと恐ろしいことか。ツケが払えないと一体どうなるのか。とても面白そうだ。

「早いうちに謝っておいたほうが身の為なんじゃないかしら」

 もちろん建前だ。そんな恐ろしい吉祥天はきっと、遅かろうが早かろうが御影に何か、恐ろしいことをするだろう。
 彼は少し考えてから、頷いた。

「そうかもしれない」

 かくして、私は非日常には届かないものの生きるに値する、楽しい午後を予約した。

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