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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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*48*

 そうだろうか、疑問に思う。何を理解しているというのか。
 それを彼女に伝えると、音無は困ったように笑って、言った。

「露木くんが理解できないことはないんじゃないかな」

 疑問は増すばかりである。俺は彼女に適当に別れの挨拶をして、拠点に戻った。

 鉄の扉を開けるなり、金堂が青い顔をして出てきた。酷く慌てた様子で。

「どうしたんだ?」
「あの子が」

 彼は早口で答えた。

「どっかいっちまった」
「彼女のこと見ていなかったのか? 出先に頼むと言ったはずだけど」
「知らねえよ」

 残念ながら、寝癖から察せる。

「探してくる」

 後ろから引き止める声が聞こえたが、聞こえなかったふりをした。

*

 あてもなく歩き出したわけではなかった。御影の所にいるのだろう、何となくではあるが、ほとんど確信に近い感覚があった。自分の勘は尊重すべきだと思う。とくに、その自分が俺であるなら。
 音無が言っていたことが分かった気がする。歩きながら考えた。それでも。
 俺に理解でいないことはない。能力的なことを言っているのだろう。だが、それだけだ。思うに。俺が人間として、理解しているわけではない。音無は、違いはないと言うのだろうか。

 霧が出てきた中心街の中。夕方の淡い緋色照らされて。夕月を後ろに。御影のマンションは変わらぬ様子で佇んでいる。

「ああ、彼女?」
「ここに来てるか?」

 御影は少し、難しそうな顔をした。

「来てはいるんだけど。たぶん、君には会えないね」
「そうか」

 理由を尋ねるつもりはなかった。聞いても、教えてくれないだろう。
上手に煙に巻かれてしまって。

「伝えたいことがあるんだ。伝言を頼めるか?」
「いいよ」

 一方的ではあるが。

「吉祥天。名前だ。そう、伝えてくれ」

 彼は驚いた顔をした。

「想定外」

 伝えておくよ、と手を上げ、扉は閉まった。
 シュリー。吉祥。幸運という意味だった。彼女に足りないものだった。

*

 マンションを出て、黒い地に足を付けた時だった。それは不意に、まさに俺が生まれた、その現象のように降ってきた。
 頭痛だ。 この世の悪い部分を全て、一度に見たかのような激しい痛みに、耐え切れず頭を抱えてしゃがみこんだ。気がついた。今、自分の身に、世界にとって最悪の出来事が起きている。
 ああ、どうして。どうして、君は来てしまったのだ。

 思う。神は居なかった。

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