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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~

*6*



 彼が得意げな顔でフードをかぶり直した、その時である。
 地面に入っていた亀裂が音を立てて地を這って広がったのが視界の端に見え、落ちるような感覚があった。
 見上げた空が黒く蝕まれていく様子を、呆然と眺めていた。

*

「おい、大丈夫かよ」

 体を乱暴に揺すられ、俺は目を覚ました。
 傍らにしゃがみこんで俺を揺すっていたのはさっきの彼らしい。
 冷たい地面に横たわっていた体を起こすと、頭が殴られたように傷んだ。顔が歪む。

「頭を打ったか?」
「いや、大丈夫……だと思う」

 頭を押さえて立ち上がる。ここはどこだろう。
 何の変哲のない家が軒を連ねて並んでいる、狭い道路。閑静な住宅街である。
 空が青いことに、俺は少し安心する。

「さっきの場所からは出られたみたいだ」

 一通り景色を眺め彼の方を振り返ると、彼はくしゃくしゃの紙を広げて何かを考えているようであった。その紙は何かと尋ねると、彼は俺に紙を渡した。
 地図であろうか。
 ペンで描かれた簡易的なものだった。何本もの入り組んだ道があり、赤い丸印が二つかき込まれている。一方には、現在位置とあった。
 手書きの地図に現在位置、というのも可笑しな話である。

「これは?」
「これを頼りに目的地に着けと言われた」

 彼は地図を俺から取り上げると、ずんずんと歩き出した。
 どこの地図だかすらはっきりしないのに、そんなものを当てにするなど無謀だと、引きとめようとするが、彼は大丈夫だろうがというばかりだ。
 俺は諦めて、もうどうにでもなれという気持ちで彼のあとをついて歩いた。


「君はさっき、目的地に向かうように指示されたと言ったけど、それは誰なんだ?」

 代わり映えしない、細いアスファルトの上を歩きながら、彼に尋ねる。

「名前は聞いてない。すげえ感じ悪い奴で、俺らはこれからそいつに会いに行くんだよ」

 知らないことが多すぎる。
 あんなに不可思議な事が起こったのに、何事もなかったようにこうして彼と道を歩いている。何より俺には記憶がない。不安とは違った。状況を理解できないままであることが、不愉快であった。

「詳しいことはそいつが話してくれるってよ」
「そうか」

 口を閉じる。
 俺は歩きながら、深く考えた。この青年の言うことは本当に信用できるのだろうか。この青年は何者なのだろうか。俺はどうしてこんなところにいるのだろうか。何か悪い予感がした。悪いことが始まるような気がした。
 結局、俺は彼についていくことを選んだ。
 そうする他に、どうするべきかが分からなかったこともある。
 何かが始まるの出れば、その時は身を委ねようと、そう思った。


*

 目的地につくまでそう時間はかからなかった。
 彼は地図から顔を上げて、その建物をまじまじと見つめている。
 茶色いマンションだ。壁や柱には歴史が染みこんでいたが、植木はきちんと管理され、玄関前には塵一つ落ちていない。小奇麗で、どこか寂しげな印象を受けた。

「ここの四階だってよ」

 彼は両開きの扉を開け、中に入った。俺もあとに続く。
 エレベーターを使い、四階へ。その部屋の表札には、「御影」とあった。
 彼はインターホンを押した。

「……オカゲ?」
「いや、俺はミカゲだと思う」
「そうかあ?」

 チャイムが鳴ってからそんな会話をする間が十分にあり、しびれを切らした彼がもう一度インターホンを押そうと指を伸ばした時、ガタガタと玄関の奥で音がした。扉が開く。

「やあやあ、お待たせしたね。君が露木くんか」

 出てきたのは長身の男であった。
 ストライプ柄の黒いシャツに白いベスト、細身の黒いパンツを着ている。笑顔は歓迎の気持ちそのもので、何処にも感じ悪い、という要素は無いように思えたが、彼は不満げに頬を膨らませて地面を見ていた。

「そうみたいですが」
「そうなんだろうね。まあ中に入りなよ、露木氏も金堂くんも」

 男が廊下の奥へ歩いていくと、金堂と呼ばれた彼は頬を引きつらせて舌を打った。

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