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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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*5*



「お目覚めかい?」

 ふかふかしたソファに座らされ眠っていた私が目を覚ますと、丁度正面の扉が開いてさっきの男が現れた。
 私は抵抗する気力もなく、男の方にも敵意は感じられなかったため、じっとしていることにしよう。本当は、跡を引く眠気に身を任せていたいが為である。

 男は両手に持っていたマグカップを片方、私へ差し出した。素直に受け取り、暫く手の中に収める。
 カップの中身は紅茶であった。紅茶は、湯気を立たせて私の手を温める。
 冬の屋外で長時間活動していた私の手は冷たく震え、動かなかった。

「気分はどう?」

 男は笑った。

「あんな危ない所で寝てるからさ、連れてきちゃったよ」

 溶けかけた私が、再び凍りついた。
 目も覚める。体温がさっと下がっていくのが自分でも分かる。
 どういうことであろう。

「ま」

 掠れた声を搾り出した。

「待って。私が、どこで寝てたって?」
「あの貧民街の路地の隅の方だって。覚えてないの?」

 それじゃあ、あの紙袋を被った物騒な男たちは?
 夢だったとでも言うのだろうか。それとも、この男がしらばっくれているだけだろうか? いやしかし、落ちるというのも馬鹿な話であるから、やはり夢だったのだろうか。
 考え込む私に、男は言う。

「まあ、飲みなよ。寒かっただろう?」

 男の表情はなんとも不気味であった。さっきの笑顔とは違い、口元を釣り上げこちらを小馬鹿にしたような。
 ふらふらと歩き回る男を横目に、私は言われるがままに紅茶を啜った。
 美味しかった。飲んでから気づく、迂闊だった。
 この紅茶に毒や薬が入っていたら終わりであった。どうやら彼は、警戒心を解くのが得意らしい。
 彼はじいっと睨む私を見て、くすくすと笑った。

「きっと君は僕に聞きたいことがたくさんあるだろう。だけど、まあ、待て。時は直に、自らのこのこやって来るさ」

 私のソファに手を置いて、彼が言う。

「取り敢えず、今の君に必要なのは紅茶と休養だね」

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