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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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*4*




「は?」

 疑問符をぽんぽんと浮かべる俺を見て、男は眉を下げ、小さな子供の悪意なき失敗を許すような顔をした。
 
「まあ分からねえってのは俺にも分かるよ。急にそんなこと言われてもな? そうだよなあ」

 この男は俺を馬鹿にしているのだろうか。
 また沸々と湧き上がる怒りを、我慢の二文字で押さえつける。こちらが怒れば相手は何も教えてくれないだろう。今はとにかくここからの脱出が最優先であるから、それを思えば難なく怒りは大人しくなった。

「分からないから、ちょっと教えてくれると嬉しいな」
「俺はそうするつもりだよ。でも待て、そう焦るな。案ずるな、そんな焦りが、命取り」

 ふふんと鼻を鳴らし、一句詠んだ彼は得意げである。
 これは面倒だと気づいた俺はついにあれこれ尋ねるのを止め、男が俺の聞きたいことを喋るまで気長に待とうという結論に至った。
 こちらが下手に出れば出るほど男の鼻が高くなる。それに、こんな阿呆の下に出るというのは、俺としても気分がいいものではない。
 彼は核心をするりと避けた話を延々と続けるつもりのようであったから、適当に聞き流しながら、ふと灰色の空に視線を移した時。

 あれは鳥だろうか。代わり映えのない雲の中、遠くの方に黒い物が見えた。
 それが段々と近づくにつれ、何やら平和的でない雰囲気が漂い始める。鳥にしては大きすぎる巨体。それを支える、黒く光る翼。響く羽音。
 それは大きな影を落とし、我々の頭上を通り過ぎた。
 恐ろしく巨大な、鴉であった。

 率直に、恐怖感を覚えた。
 その鴉はくるりと方向を変え、こちらに向かい通り過ぎ、またこちらに戻ることを繰り返していたが、鋭い瞳は自分の目をまっすぐと睨み、少しもずらそうとしない。
 翼が起こす風が空を走る。緊張感が、口から耳に向けて走る。

「こんな所に来るとは命知らずな野郎め」

 轟々と廻る音の中呟いたはずの男の言葉が、はっきりと聞こえた。
 男は右手の握り拳を天高く突き出し、目を閉じた。風が、短い髪を舞上げる。静かに息を吸い、吐き出す。風を読め。想像しろ、想像しろ。
 壊せ。
 男は、拳を振り下ろした。

 濁った悲鳴、羽音が消え骨が砕ける音の後、コンクリートの割れる音。
 立った埃が落ちきった頃、冷静になった俺の目に、足元で目を白くして無様に転がる鴉の姿が映った。鴉の体の場所から綺麗に亀裂が広がっている。
 鴉はどうやら、何かしらの力で地に叩きつけられたようであった。

 男は鼻を鳴らして言った。

「いい出来だろ?」

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