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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~

*3*




 それはまるで、かまいたちのようであった。

 ふと気がつくと、三人の男が同時にその場に崩れ落ち、汚い地面に転がっている。特に轟音がしたわけでもなく、何かが通ったわけでもなく、私にはそよ風が地面を撫でただけなように感じられた。
 何が起きたのか。
 混乱する私を前に、すっと伸びた黒い影のような男が佇んでいる。
 男は徐に、私に向けて手を振った。

「やあお嬢さん」

 さっきまでそこには誰も居なかったのに。
 男は私が挨拶に答えぬのを不満に思ったのか、困ったような表情をして隣に転がる物騒な方の一人を見た。

「いやあ、危ないところだったね。全くもって本当に危なかった。俺が来なければ多分、いや確実に」

 落ち着きがなく歩き回るのをやめ、鋭い視線がこちらに向けられ、

「君は死んでいただろうね?」

 私はまた、射竦められたように動けなくなった。


 そこからは男の一人劇であった。
 こちらは相槌をうてぬのに、構わずぺらぺらと、時にさも深刻な様子で、時に陽気に、時に不機嫌そうに、それはまた飽きぬスピーチであったが、おおかたごてごてに飾りは付けられているものの中身のない話であったため、ここではそのごてごてを省いて私が要約の役を買って出よう。
 男の話ははこうである。
「俺は君を助けるために来た。そして、これから君を誘拐する」
 いろいろな話をされたが呆れたことに中身のあることは、ほんのこれだけ。

*

「さて、話はこれで終わりだ。ところで、俺はこれから君を誘拐しようと思うのだが」

 男の話が終わった頃には、私も口が聞けるようになり、緊張感もすっかりとけてしまって、

「終わりなの、そう。ああ、うん……今なんて?」

 などと言えるようにまでなった。
 まったく恐ろしい話術である。無駄な話が多すぎて、うっかり大事な所までするりと抜けてしまいそうだった。

「君の許可など必要ないさ、まあちょっと、じっとしてておくれよ」

 逃げるまもなく。
 彼がドラマチックに指を鳴らすと、地面に亀裂が走りバラバラと脆く崩れるような、自分が地面のかけらとともに、深い奈落に落ちていくような感覚があり、なぜだかとても眠く、不意に私は眠りに落ちた。

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