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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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終章 創世記


「参っちゃうよね」

 彼女はそう言って、悲しそうに笑った。

「すっかり家庭崩壊しちゃって。離婚するらしいんだけど、どっちも私なんていらないって」

 白いワイシャツが、教室の窓から差し込む斜陽を受けて、オレンジ色に染まっていた。
 そして、言うのだ。

「世界が悪いよね、こんなの」

 校庭から聞こえてくるボールの音、声。風も、木も、すっかり秋めいてきたのにまだ、幻のように蝉の声が聞こえる。どこか遠くで。

「私のお話ではね、幸せな世界があるの。みんながみんな幸せで、綺麗な街があって、私は子供たちに駄菓子を売るの」

 輝かしき、子供時代を象徴する駄菓子が、彼女は好きだった。「あの頃見ていた世界は、絶対に、今よりももっと綺麗で楽しかった」と、よく言った。

 俺は、ジオラマを創った。

 それでも、彼女は死を選んだ。
 彼女は、もう居ない。ジオラマの片隅で暮らし、笑う彼女を見るうち、それを考えついた。
 俺も、身を投げてしまおう。
 ああ。俺がいなくなってしまえば、世界は神を亡くして、途方に暮れるかもしれない。しばらくは、もうひとり自分を創って、神様を代理してもらおう。制服を着た、白っぽい、自分。
 そして、最後にもうひとり。もし、世界を終わらせたくなったら。

*

「君が、終わらせてくれ」

 柔らかくて、甘くて、哀愁を含んだ声。
 それから、曖昧になる視界。恍惚としながら、暖かい場所に飲まれていく感覚。
 温かさが、消えていく。体に、重みが生まれる。

 私は目を開いた。

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