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*16*
「今日は釣れねえなぁ……。場所を変えるか」
「おーいおっちゃん!」
「お、カンタか。さっきは悪かったな」
不動の目には、カンタの隣に見覚えのある顔が映った。
「なるほどな。ウワサを聞いてきたが、やはりお前だったか」と長身の男は言った。
不動は目を見開いて、叫ぶように言った。
「お前は、辺見……!」
「ひさしぶりだな、不動」
「なんでお前がここにいる?」
「連れない反応だな、元相棒だろ?」
不動はあきらかに辺見を敵視しており、睨み付けていた。
「カンタ、そいつから離れろ」
「わ、わかったでやんす。おっちゃん、この人と知り合いなんでやんすか?」
不動は沈黙している。辺見がその質問に答えた。
「俺たちはむかし組んでたんだ。不動も俺もMFだったが、不動が攻撃的、俺が守備的な役割でな。俺たちけっこういいコンビだったよなあ? 事故さえなけりゃあな」
「あれが事故だと!? ……さっさと消えろ辺見、俺に殺されないうちにな」
不動の剣幕にも怖じず、フン、と辺見は鼻で笑う。
「まあせいぜい草サッカーでがんばれよ。こっちも勝手にやらせてもらうんでな。あばよ」
辺見が去っていく背中を、不動はずっとにらみ続けていた。
カンタが、怯えながらも、「おっちゃん」と声をかけた。不動は我に返って、カンタのほうを振り向く。
「なにがあったんでやんすか。ただごとじゃねーでやんす。あの人、またきっとおっちゃんの前にあらわれる気がするでやんす」
「心配すんな。お前は俺が守ってやるよ。あいつとはちっとばかし因縁があるんだ」
不動は視線を落とし、過去に思いをめぐらす。
「事故、って言ってたでやんす」
「ああ」
不動は空を見上げると、ゆっくりと川のほとりまで歩き腰をおろした。カンタもついていって横に座り、小石を川に投げる。
「むかし、あるところにプロのサッカー選手を目指してた男がいたんだ。そいつは高校でも大活躍だったのに、なぜかみんなの記憶からは残らなかった」