完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*28*
その日の配達の仕事を終えて不動が商店に戻ると、貴子がケーキを作って待っていてくれた。ホールの半分の量はあったが、腹が減っていた不動は30秒もかからず食べ終えた。
「ど、どうだった? あんまり自信はないんだけど」と貴子が聞いた。
「急いで食ったからよく覚えてねえな。ま、うまかったんじゃねえの?」
「よかった! また作ってみるね」
「おう不動! もう帰るのか、ちょっと待った!」
近所の老人と将棋を打っていた山口が、手をとめて立ち上がり、不動の前に来た。
「時々不定期で仕事が入るからよ、携帯番号教えろよ、な!」
「あー。わりいが持ってねえんだ」
「お前、携帯持ってないのか! 今時の人間にしては珍しいなぁ。お、そうだ。前ここで働いてたやつに渡してたのがあるんだった! それをお前に貸してやるよ!」
「え? いいのか」
不動はきょとんとしている。
「いいからいいから。お前はうちの従業員なんだから!」
「いや、別に従業員ではねえよ……」不動はサッカーのことを考えながら苦笑した。
「じゃあ、これからメールで仕事の日を教えるから頼むな! あと来れない日は二週間前に教えろよ」
「ああ。ありがたく使わせてもらうぜ」
また夕飯を馳走になり、風呂も使わせてもらってから不動は商店を後にした。
自分は運が良いな、と感じながら不動が商店街を歩いていると、ポケットに入れていたケータイが鳴った。
画面を開いてみたが、不動には操作がまったくわからないので、とりあえず適当にボタンを何個か押しているうちに今届いたメールを開くことができた。
『お疲れ様です。今度は三日後に来て欲しいそうです。晩御飯用意してますから、がんばってくださいね』
メールは貴子からだった。不動はメールをもらえたことが嬉しく、思わず笑みをこぼしそうになったが口元を押さえて防いだ。
(ま、悪くねえな)