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*34*
「負けられねえ。この勝負なんとしてもな。俺たちは優勝なんざ狙ってねえ。俺たちの目標はイリュージョンスーパーのチーム、コアラーズを打ち負かして赤っ恥をかかせてやることだ。勝つぞお前ら!」
権田が円陣で怒声を発し、気合を入れたビクトリーズの一同は神妙な面持ちで整列した。
店長の山田は余裕の笑みを浮かべている。が、すぐにビクトリーズのチームの中に見慣れない男が何人かいることに気がついた。
「おい佐藤。変な奴らが混じってるぞ? あんなのいたか?」
「たしかに見たことないですね。もしかして奴らも外部の人間を助っ人に入れたんじゃないでしょうか」
「なん、だと!? なんて卑怯なやつらなんだ!」
「いや、ウチも中谷に助っ人にきてもらってますけど……」
やがて整列が終わり、選手たちはそれぞれの陣営に向かう。
観客席に座っていた京香とカンタの隣に、奈津姫が息を切らして到着した。
「奈津姫、どうして来たの?」と京香が聞いた。
「私もいつまでも過去は見ていられないから。あの人のいないビクトリーズを、この目で見て、受け止めないといけないと思ったのよ。それに頑張ってる彼らを応援したくなったの」
「そう。なら精一杯応援しようか」
「あれ、母ちゃんきてたでやんすか?」
「ええ。カンタと一緒に応援することにしたの」
「やった! 母さんが応援してくれるなら、おっちゃんたちはきっと勝てるでやんす!」
試合開始の笛が鳴った。最初にボールを保持するのは、コアラーズの中谷である。
「元プロなんでね。悪いけど勝たせてもらうよ」
コアラーズはパスを回していき、ビクトリーズは翻弄される。しかしビクトリーズのこの試合にかける気持ちは強く、またディフィンスリーダーの権田がうまく守備陣をまとめているため、ビクトリーズの防御は硬い。
しばらく攻め合いが続いたのち、ディノがドリブルでコアラーズに中央突破をしかけた。が、2人がかりで素早くとめられてしまい、ボールはクリアされ中盤の不動の位置に落ちてきた。
不動がコアラーズのMF五条とロングボールを競り合う。ボディバランスに絶対的な自信のある不動はこれに勝ち、ボールは彼の足元におさまった。
不動はすぐさま前線へ駆け上がると、ピッチの右を走っていたMF山口にパスを出した。そこからボールをもらいにペナルティエリア前から来たディノにパスがつながる。
不動がゴール前に移動したのを見たディノは、さらに奥に玄武がいるのを見てショートパスを出した。不動が直接シュートをうとうと足をひいたため、キーパーとDF2人が反応した。不動のすぐ後ろにくっついていたコアラーズDF福井がブロックしようと足を出す。
しかし不動はくるりと体を反転させ、パスをスルーした。不動がシュートしないことにすぐに気づいた福井は反応はしたが、不動が反転したと同時に不動の背中で体を押さえ込まれてしまい身動きができなかった。
とうぜん、もうひとりのDFとキーパーは不動から少し距離があったため反応が遅れた。玄武が思い切りシュートをたたきこみ、ボールはゴールネットを豪快に揺らした。
「そんなバカな。佐藤、これはどういうことだ!」
「私にきかれても困ります……」
「くそっ!」観客席の山田はタバコを地面にたたきつけ、足で踏み潰した。「中谷のやつ! プロのくせにだらしがない! お前ら! なにやってんだ!」
山田の怒鳴りが影響したのか、コアラーズの守備は固くなったと同時にプレスが厳しくなった。ビクトリーズ一のドリブルスピードを誇るディノが、ペナルティエリアで倒れた。軽く足が当たっただけだが、ディノは大げさに転んで見せた。
なんとこれがファウルになりビクトリーズはPKを獲得。前半だが追加点のチャンスを手にした。
蹴るのはディノ。ディノは、観客席でビクトリーズが活躍すると拍手する奈津姫と京香を見て、笑顔でウィンクしてみせた。
ディノは思い切りよく強烈にボールを蹴った。コアラーズのGKは予測が外れて逆に動いてしまい、ビクトリーズは追加点を得た。
前半はビクトリーズ優勢のまま2−0で終わった。
後半、中谷を封じることに全力を注いでいたビクトリーズのディフィンス陣に疲れがみえはじめ、左からのクロスを中谷がヘディングであわせた。このとき競り負けたのは不動であり、中谷は元プロの意地を見せたと言える。
ヘディングシュートはゴールから2mほどの距離で放たれたが、ジモンがこれを手にあて、山口がクリアした。
その後不動が山口からのパスを受けたのち、ペナルティエリア外からの強烈なミドルシュートを決め、3−0となる。
そして試合は終わった。3−0と内容的にもビクトリーズの完全勝利だった。
「さ、さとうー!? 負けてしまったんじゃないかこれ!?」
「そうですね。ぼろ負けというやつですね」
「そんなバカな……弱小のビクトリーズにウチが負ける……!? あ、ありえない! これで終わると思うなよ、ブギウギ商店街……!!」
山田はタバコの箱を握りつぶし、怒り狂って会場を出て行った。
いっぽう、ビクトリーズ陣営は歓喜にわいていた。
「いやあ、スッキリしたな。いまごろスーパーの店長さんは歯軋りしてるだろうぜ」
あまり笑わない野口も笑みをみせる。
「最高の気分なんですけどね。しょうじき、すごい疲れましたよ……今にも倒れそうです」と言うと、本当に玄武は倒れて昏倒してしまった。さらに、権田も愉快で笑いすぎたあまり嘔吐した。ふたりは医務室に運ばれ、表彰には副キャプテンの丸井が出た。