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第六話 嘘つき達
商店街の人間が集会所に集まっていた。コアラーズを打ち負かしたとはいえ、商店街を盛り上げるにはまだまだ力が足りない。今度催すイベントについての会議が名目だった。
喫茶店のテレビにサッカー中継がうつっていた。
「あ、鬼道ライトニングス勝ってるんだ。調子がいいんだねえ三連勝でしょ?」
会議にあまり積極的でない京香がのめりこむようにして見ている。不動もこの場にいるが、鬼道ライトニングスには何人か知り合いがいるためあまり見たくは無かった。
「なんですか」と奈津姫が野口に聞いた
「ん? ああ、サッカーの話だな。何年か前に名前が変わったんだっけね。渋谷キラーフィールズ・通称キラーズだったのが、弱小クラブからのイメージアップのために鬼道ライトニングスに変えたらしいな」
「ライトニングスは今年限りで解散らしいぜ。最後くらい優勝してほしいもんだな」野口の説明に米田が付け加えた。
「なんだか僕たちに似てますね」と玄武が言う。いつのまにか会議はテレビ観戦へと変わっていた。「僕らも負け続けてたけど、この間はイリュージョンに勝ちましたし」
「おいおい、イリュージョンとライトニングスは親会社が同じだぜ? 鬼道財閥だよ、鬼道財閥」
権田が言う。しかしその後はしばらく沈黙が流れ、ライトニングスの選手のひとり栗松鉄平がオウンゴールを決めるまで会議は止まったままだった。
「でも、ライトニングスは前半でもう5点とってますからね。いまさらオウンゴールは痛くないでしょう。もしかしたら、サイボーグ選手がいたりして」
玄武が栗松を擁護する。不動は座席に深くもたれていたが、体を起こして、
「サイボーグ選手ってなんのことだ?」と真剣な面持ちできいた。
「不正な肉体改造をした選手のことだよ」権田が言う。視線はテレビを向いたままである。「去年のW杯でも、人工筋肉を移植してた選手が見つかって大騒ぎになったじゃないか」
あまりニュースに関心が無い不動は、まったくそのことは初耳だった。
「サイボーグは見た目では普通の人と見分けがつかないそうだ。意外と身近にいたりしてな」
権田は不動を見た。不動の実力から言ってそう思われてもおかしくないが、不動のプレースタイルはトリックスターであり身体能力に頼らないことのほうが多い。頭脳戦が彼の持ち味でありサイボーグである可能性は無い。
「そんな人がいるならぜひビクトリーズの助っ人になってほしいけどね」京香が笑って言う。
玄武は不愉快そうに、「気持ちはわかりますが、そういう力に頼ろうとするのはあまり感心できませんよ」と言った。
不動が個人練習の合間に商店街に寄ると、けっこうな人だかりができていた。
先日の会議で言っていたとおり、ブギウギ商店街のマスコットにダチョウをモチーフに描かれたダッチョくんというのが任命されたらしい。さらに本物のダチョウも何羽か連れてきて子供と触れ合えるようにするそうだ。
商店街の人間は総出でイベントを主催しているようだ。
「ああみえてダチョウのキックは強力だからな。子供に怪我でもさせたら逆にイメージダウンになっちまう」と心配するのは野口である。
「大変です! ダチョウが何羽かいません!」
玄武が試合の時よりも早いのではないかというくらい急いで走ってきて報告した。
「よお不動。今日はダチョウの世話か?」
客に紛れて不動に近づいていたのは辺見だった。
「辺見!? まさかお前がやったのか?」
「さあてな? それよりとっととダチョウを捕まえたほうがいいんじゃねえか? 常識的に考えてな」
辺見の視線の先では、ダチョウが集団で走り去っていった。方角的に稲妻町であり、何も知らない人間には迷惑がかかる。
丸井が交番からパトカーを持ってきて道路を封鎖し、不動にバイクに乗ってもらってダチョウを人のいない道へ追い立てるという作戦を建てた。
作戦はうまくいき、なんとか騒動はおさまった。しかし、かかった労力や金はすべて水の泡である。
明日にもイベントは開催予定になっており、どうするかという話になった。「ダチョウがダメなら象かキリンはどうかな」とふざけて京香が言ってみたが誰も取り合わない。
「サッカーはどうだ?」
と言ったのは不動だった。みなどうやってサッカーでイベントをやるのかと不思議に思い顔を見合わせたが米田は賛成した。
「それしかねえ。サッカーの道具をもってきてイベントをでっちあげちまおう。ジモンから得点できたら無料券、リフティング10回でサービス券とかな!」と手をたたく。
「なるほど、他にもいろいろアイデアを出せば意外となんとかなるかもしれないな」
野口も賛成すると、すぐに全員で準備にとりかかった。
結果からいってイベントは普通の盛り上がりだったが、ダチョウよりかはサッカーのイベントのほうが盛り上がった。
後日不動は米田から呼び出され集会所に向かった。珍しく米田ひとりだった。
「実は先日のダチョウの件なんだが」
「ああ、それなら犯人はわかってるぜ。辺見って男……」
「そうじゃない。ダチョウの檻には商店街の人間以外近づいていないんだ。みんな顔見知りだから、怪しいやつがうろうろしていたらすぐにわかるんだよ」
「まさか、犯人は商店街の中にいるってことか?」
「だからこのことはお前だけに話す。商店街とビクトリーズが一致団結している今、犯人を探すのは得策じゃねえからな」
「俺にそれとなくスパイを探れってことか」
「ああ。あの時あの場にいなかった人間が怪しいがあるいはグルがいるのかもしんねえ。お前にしか頼めないことだ。慎重にな」
集会所に商店街の面々が集まった。
「こないだのイベントは上々だったな。そこで、ブギウギ商店街はしばらくの間サッカーをウリにしようと思う」
米田の計画に、権田が異を唱える。
「たかが草サッカーチームが勝ったところで宣伝効果は薄いんじゃねえですかい?」
「相乗効果ってやつだ。商店街のチラシには必ずビクトリーズの活動状況を乗せる。試合のある日は宣伝して、応援にきてくれたらサービス、試合結果に応じてサービスするのさ」
米田は得意げになって話す。
野口がうなずき、
「まあうまく行くかはわからんが、ダチョウよりはいいな」と言った。サッカー計画にはみな戸惑っていたが、野口の意見は最もだと全員思った。