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しりとりシリーズ
作者: 彩都  (総ページ数: 51ページ)
関連タグ: しりとり 
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*4*

 『笑顔』

 可愛いなぁ、可愛いなぁ、やっぱりお前の笑顔は可愛いなぁ、妻に笑われながらも、私は5歳の娘を抱き抱える。
 瑠璃と名前が付いた私の娘は、天性の笑顔を持っているのではないか、と想う程、笑顔が可愛かった。
 ただ、妻は笑うだけ、病室の一角で、皮が骨に付いた位に痩せこけて、妻は笑う。
 うるうると、泣く娘も可愛かったが、妻の寿命は長く無かった。
 ただ、死に近付くだけ、誰も死を止める事は出来ない、どれだけ、延命治療をしようとも、無駄だった。

 太陽が照っている、外は夏だった、病院はクーラーが効いていた、私と、瑠璃は、妻の病室に居た。
 ただ、虚しく、妻は命の花を散らせたのだ、妻は延命治療なんて、もういらない、瑠璃を抱いて死にたい……、と言って、瑠璃を抱いたまま、涙を流しながら、命の花を……私は悔しかった、アメリカや、他に良い、大きな病院に連れて行けばよかったのに、薄給な上、貯金も無かったから、この、街一番の病院に連れて行ったのだが……矢張り、妻は助からなかった……私は悔しかった、何も出来ない?出来たけどやらなかっただけ、そんな自問自答を繰り返しては憂鬱な気分に、成るだけだった。
 ただ、もっと悲しかった事が一つ、娘の瑠璃が『笑わなくなった』と言う事だった。
 単純に、笑わなくなったのも、私は悲しんだ理由の一つだが、私の持ち芸である、『ベンチョッボン』でも笑わなくなってしまったのだ、これは私の一大事だった。
 ただ、笑わないのは、悲しい、なぁ、笑ってくれよ、なぁ?………………無言である。
 瑠璃が笑わなくなったのは、何が原因か?私は悩みに悩む、だが、思いつかない。
 いくら笑える話をしても、瑠璃は笑わない、私はそれが苦しかったのだ、可愛い娘の笑顔がもう、見れないとなると、私は生きる気力を無くしてしまった、ただの飛べない鳥の様になってしまっていた。

 太陽が照っている、空が太陽をてらてらと主張している、私は家で、ぐったりしていた、やる事は無い、妻も居ない、娘の笑顔も無い……私は生きる価値があるのだろうか……?それは分からないが、空腹は免れない……私は仕方なく、ご飯を作る事に。
 煮凝りの様に固まった、私の心を溶かすのは誰だろうと、思いながら、味噌汁にご飯をかけ、食す。
 涼しい、冷たいご飯に冷えた味噌汁は良く合うなぁ、と思いながら、仕事の準備をする、こんな暑い日に仕事なんてしたくないのだが、社会人なので、文句は言えない、とてもめんどくさいなぁ、と思っていた時に、瑠璃が帰ってきた、私は仕事に行くから、適当に食いなさい、と言い、千円を渡す、瑠璃は、分かった……と、涙が出そうな声がした気がしたが、私には関係無いと思い、家を出た。
 その時、ちゃんと顔を見ればよかったと思ったがもう、遅かった。

 太陽が沈む、もう、夜だ、私は仕事から帰ってきたばっかだった、もう、疲れたな……他の仕事したいな……何てほざいていた、そして、家の近く迄、歩いた、すると、ウーウー、カンカンと、消防車の音が鳴る。
 瑠璃は煩いと思ってるだろなー、とか思っていた、だが、そんなことは関係無しに、打ち砕かれる。
 瑠璃と私の家、その他、近隣が火事だったのだ、私は急いで、走った、瑠璃は!?瑠璃は!?消防隊員に言っても、分からない、の一点張り、私は急いで、消防隊員を退け、自宅に入った。
 ただ、探す、瑠璃ー!!瑠璃ー!!と叫ぶが、返事は無い、まさか……と厭な予感が走る、私は全ての部屋を見回った、すると、布団に蹲っている何かを発見!!私はそれをひっくり返す、そこには、瑠璃が何時も抱き締めている、くまのぬいぐるみだった。
 ただ単に、ドキドキして見たのに、こんなオチは無いだろ……そう思いながら、くまのぬいぐるみを抱き締め、家を出た。
 ただ、頑張って見たのが、全て水の泡だ……と言わんばかりに項垂れる……ハァ、何て駄目な父親なんだろう、そう思って、出ると、一人の女の子が喚いていた、父がどうとか……まぁ、私と同じ、人探しか……と思っていると、お父さん!!と大きな声が聞こえた、まさか……そのまさかだった、瑠璃は、買い物袋を持ってただ呆然と立ち尽くしていた。
 ただ、探していた人が、案外簡単に見つかると……呆れてしまった……私の努力も水の泡か……でも、生きてて良かった、瑠璃も失ってしまえば、私は自殺するしかない……妻に会わせる顔も無い……そう思うと、目から、水が……少し塩辛い、涙が流れた、瑠璃が生きてて良かった……私はまた、生きる活力を取り戻したのだから。

 ラッキー、妻の形見のカメラを見つけた私は喜ぶ、これは、妻の大切な物、失ってはならない、遺産だ。
 だけれども、死んでから、もう、八年か……私は感慨深いな……と思いながら、空を見た、妻の命日と同じ様な、太陽が照っている夏の終わり頃だった、瑠璃はもう中学生だ、結構立派に育ちました、私が料理を作らなくても、レシピ本さえ、渡したら、プロ顔負けの美味さです、もう……カメラの中身は見せていいかな?私はそう思いながら、目を閉じた。

 太陽はもう、沈んでいる、瑠璃は、二十歳になり、結婚する事に、私は何とか、妻の遺言を守り、二十歳になったら、このカメラの映像を見せる、と言う掟に従い、瑠璃に見せた。
 ただ、充電しないと見れない、古いタイプ、私は頑張って、コードを繋いだ、画面がテレビに移った、死ぬ前の、母の姿に唖然となる、瑠璃は、あまり母の記憶が無いのだ。
 だが、唖然とした顔のまま、瑠璃は聞いた、母の病気や、母が生きられない事を……気が付くと、瑠璃は泣いていた、大粒の涙を、大量に。
 ニコニコと母は笑いながら、『成人おめでとう』と言って、ビデオは切れた。
 ただ、瑠璃は泣いていた、私も泣いていた、此処迄育ってくれて有難う……感動しかない……すると、瑠璃は笑った。
 太陽の様に明るい笑顔を……かれこれ、何年笑っている所を見た事は無かったろう……その笑顔は……死んだ妻に良く似ていた……。
 
 太陽が、照っている、外は暑い、夏のある、明るい二時頃……私と瑠璃は、瑠璃の夫に、写真を撮って貰った。
 太陽の様に明るい、笑顔の瑠璃を写真に収めて……

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