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*15*
宇月さんがもし学校に居たら絶対仲良くなれないむうですが
ある意味コイツが一番人間らしいんじゃないかなとは思ってます
はよそのプライド捨てやぁ(親)
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〈コマリside〉
宇月さんを一言で表すなら、『台風の目』だ。
突如現れ、私たちを自分のペースに巻き込み、翻弄し、そしてすぐに去る。その際に、新たな災いを引き寄せる。
出口へ移動するのをずっと目で追っていたわたしは、彼が尻餅をついた音で肩を震わせた。
す、すっごい音したけど、大丈夫かな……?
この位置からじゃ宇月さんの背中しか確認できないけれど、周りのざわめきから察するに、人とぶつかってしまったようだ。
「すっげえ音したな」
「で、ですね」
トキ兄とこいとちゃんも、お互い顔を見合わせる。時間の経過と共に、険しかった二人の表情は、穏やかなものに戻っている。
「あ、頭とか打ってないといいけど……」
「アイツ石頭だからな。大概の衝撃には耐えられるだろ」
トキ兄はフンと腹を鳴らして腕を組む。
散々ひどい目にあわされたので、こういうのは見てて気持ちいいんだろうな。
で、でも、そんな漫画みたいなことにはならないんじゃないかなあ。
あの感じ、わりと派手に転んでるよ……?
「あんな奴なんかほっとけよコマリ。おまえだって操られただろ」
「それはまあ、そうだけど……」
出会って数分しか経ってないけれど、プライドが異常に高いことは充分把握できた。ただ聞いた感じ、あれが素の状態というわけでもなさそうだ。
なんだか話しづらそうにしていたし、声もところどころ裏返ったりかすれたり。スラスラと一定のトーンで喋る、ということがなかなかなかったように感じる。
うーん、よく分からないなあ。
意地悪なことは意地悪なんだけど、かといってめっちゃ悪い人でもなさそうだし……。
それとも私の認識が甘いのかな?
普段使わない頭を一生懸命動かしていると。
「あれ、月森!?」
聞きなれた声が耳に飛び込んできて、私は反射的に顔を上げる。明るいハキハキした口調。
「だ、大福!」
宇月さんの真ん前で倒れていた男の子が起き上がった。その人物を私はよく知っている。
ストレートの短髪。程よく日焼けした肌。155㎝と、男子にしては若干低い身長。
クラスメートで私の友達・福野大吉の声は、私に会えた嬉しさと驚きでいつもより大きかった。
「な、なんで大福がこのスーパーに? 地区違うのに」
大福の家と、私が住んでいるアパートは正反対の方向。
自転車で三十分もかかる距離なのに、なんでわざわざこっちのお店に? 支店なら大福の家の近くにあるじゃん。
「叔母さんちがこっち方面でさ。今日は親戚みんなで集まる日だったんだ。母ちゃんが叔母さんの家まで車で送ってくれたんだ。俺は食材調達係ってことで、スーパーの近くに降ろされたけどな」
「そうなんだ。杏里がいないから珍しいと思って。よくお買い物デートとかしてるもん」
「デートって言うな」
大福は恥ずかしそうに顔をそらした。
杏里に好意を抱いてるのはバレバレなんだから、隠さなくてもいいのにな。
「俺のことはいいんだよ。月森こそ、横にいる人って彼氏? だよな?」
「「あ」」
……………あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(恥辱+涙)!!
そうだ。私たち、先日カップルと盛大に誤解されたんだったぁぁ。
「え、えっと……」
「うわ、イケメン! しかもめっちゃオシャレ~。高校生っすか? すげえ!」
「いや、その、あの」
トキ兄の今日のファッションは、鎖やらボタンやらがたくさんついた、ゲーマー風のパーカーに黒いズボンだ。蛍光ピンクの髪と相まって、本当にプロゲーマーみたい。
こういう服持ってるなら、着る頻度増やしたらいいのに。
(コマリ……! マジどうするよ)
あああ、トキ兄、目で訴えかけるのやめてぇぇ。
こちらまで居たたまれなくなってくるよ!
ど、どうしよう。流石にこの状況では逃げられない。
こいとちゃんはあの時いなかったから、この件をそもそも知らないし。
「どどどど、どういうことですかっ? カップルって何ですかっ? めっちゃ気になるっ! わあああ」
大福の霊感がないのをいいことに、観戦者としてひとりで盛り上がってる恋愛の神様(ゴースト)。
「トキマリってカップル名つけよっかなあ。萌えるなあぁ、いいなあ」
宇月さんは、一瞬『何が起こった?』と目を白黒させていたが……。
数秒後、全てを悟ったのか、口パクで「たすけてあげようか」としきりにサインを出し始めた。
……ほんっとうに憎たらしい。
(ど、どうするトキ兄。カップルの振りでもしてごまかしとく?)
(いや、気まずすぎるだろ。あの恋愛マスターこいとは使えないのかよ)
(ラブコンボールだよ!? お店の商品壊しちゃうよ!)
改めてラブコンボールってひどいな、名前。
もっと、トゥインクル★とか、トキメキ★とか、なかったんだろうか。
(もう真実打ち明けたほうがよくないか?)
(打ち明けてからのコレだからね。勝手に脳内でカップル変換してるからさ……)
(うう、やる、しかないのか?? マジで? さっき事故でやったばかりなのに?)
再び宇月さんの口パク伝言「たすけてあげようか」が発令される。
うう、なんでこの人の能力がよりによって心を操る能力なんだろう。
「彼氏となんかやったりすんの? ちゅ、ちゅーとかさ」
「!? ……え、えと………」
ああ、大福、その純粋無垢な目をこっちに向けないで。
そしてこいとちゃんも、私たち二人が黙ってるのをいいことに「キース、キース」とか言わないでぇぇ!! そして宇月さん、口元が震えてますよ笑わないでください!
「…………仕方ない。コマリ、ちょっと我慢しろよ」
と、トキ兄が小声で告げる。
な、なに? と尋ねようとした瞬間、くいっと右手を引っ張られた。
私の指とトキ兄の指が絡まり合う。
あっという間にわたしの右手は、がっちり握られてしまった。し、しかも、これってその、あの。
こ、恋人繋ぎってやつ、だよね……?
(え、ええええええええええええええええええええええっっ)
やばい、心臓がうるさい。頭が、ぼうっとして体がふらふらして。
今、宇月さんの術はかかっていない。ということはこれは、私の……?
「そうです、俺はコイツの彼氏です。何か問題でもありますか」
トキ兄はややつっけんどんに言うと、大福を下から見上げた。
(ちょ、ちょっとトキ兄、本気―――――――――?)