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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
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*15*

 宇月さんがもし学校に居たら絶対仲良くなれないむうですが
 ある意味コイツが一番人間らしいんじゃないかなとは思ってます
 はよそのプライド捨てやぁ(親)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 〈コマリside〉

 宇月さんを一言で表すなら、『台風の目』だ。
 突如現れ、私たちを自分のペースに巻き込み、翻弄し、そしてすぐに去る。その際に、新たな災いを引き寄せる。

 出口へ移動するのをずっと目で追っていたわたしは、彼が尻餅をついた音で肩を震わせた。
 す、すっごい音したけど、大丈夫かな……?

 この位置からじゃ宇月さんの背中しか確認できないけれど、周りのざわめきから察するに、人とぶつかってしまったようだ。
 
「すっげえ音したな」
「で、ですね」

 トキ兄とこいとちゃんも、お互い顔を見合わせる。時間の経過と共に、険しかった二人の表情は、穏やかなものに戻っている。

「あ、頭とか打ってないといいけど……」
「アイツ石頭だからな。大概の衝撃には耐えられるだろ」

 トキ兄はフンと腹を鳴らして腕を組む。
 散々ひどい目にあわされたので、こういうのは見てて気持ちいいんだろうな。

 で、でも、そんな漫画みたいなことにはならないんじゃないかなあ。
 あの感じ、わりと派手に転んでるよ……? 

「あんな奴なんかほっとけよコマリ。おまえだって操られただろ」
「それはまあ、そうだけど……」

 出会って数分しか経ってないけれど、プライドが異常に高いことは充分把握できた。ただ聞いた感じ、あれが素の状態というわけでもなさそうだ。
 なんだか話しづらそうにしていたし、声もところどころ裏返ったりかすれたり。スラスラと一定のトーンで喋る、ということがなかなかなかったように感じる。

 うーん、よく分からないなあ。
 意地悪なことは意地悪なんだけど、かといってめっちゃ悪い人でもなさそうだし……。
 それとも私の認識が甘いのかな?

 普段使わない頭を一生懸命動かしていると。
 
「あれ、月森!?」
 聞きなれた声が耳に飛び込んできて、私は反射的に顔を上げる。明るいハキハキした口調。
「だ、大福!」

 宇月さんの真ん前で倒れていた男の子が起き上がった。その人物を私はよく知っている。
 ストレートの短髪。程よく日焼けした肌。155㎝と、男子にしては若干低い身長。
 クラスメートで私の友達・福野大吉の声は、私に会えた嬉しさと驚きでいつもより大きかった。

「な、なんで大福がこのスーパーに? 地区違うのに」

 大福の家と、私が住んでいるアパートは正反対の方向。
 自転車で三十分もかかる距離なのに、なんでわざわざこっちのお店に? 支店なら大福の家の近くにあるじゃん。

「叔母さんちがこっち方面でさ。今日は親戚みんなで集まる日だったんだ。母ちゃんが叔母さんの家まで車で送ってくれたんだ。俺は食材調達係ってことで、スーパーの近くに降ろされたけどな」
「そうなんだ。杏里がいないから珍しいと思って。よくお買い物デートとかしてるもん」
「デートって言うな」

 大福は恥ずかしそうに顔をそらした。
 杏里に好意を抱いてるのはバレバレなんだから、隠さなくてもいいのにな。

「俺のことはいいんだよ。月森こそ、横にいる人って彼氏? だよな?」
「「あ」」

 ……………あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(恥辱+涙)!!
 そうだ。私たち、先日カップルと盛大に誤解されたんだったぁぁ。

「え、えっと……」
「うわ、イケメン! しかもめっちゃオシャレ~。高校生っすか? すげえ!」
「いや、その、あの」

 トキ兄の今日のファッションは、鎖やらボタンやらがたくさんついた、ゲーマー風のパーカーに黒いズボンだ。蛍光ピンクの髪と相まって、本当にプロゲーマーみたい。
 こういう服持ってるなら、着る頻度増やしたらいいのに。

(コマリ……! マジどうするよ)
 あああ、トキ兄、目で訴えかけるのやめてぇぇ。
 こちらまで居たたまれなくなってくるよ!

 ど、どうしよう。流石にこの状況では逃げられない。
 こいとちゃんはあの時いなかったから、この件をそもそも知らないし。

「どどどど、どういうことですかっ? カップルって何ですかっ? めっちゃ気になるっ! わあああ」
 大福の霊感がないのをいいことに、観戦者としてひとりで盛り上がってる恋愛の神様(ゴースト)。
「トキマリってカップル名つけよっかなあ。萌えるなあぁ、いいなあ」
 
 宇月さんは、一瞬『何が起こった?』と目を白黒させていたが……。
 数秒後、全てを悟ったのか、口パクで「たすけてあげようか」としきりにサインを出し始めた。
 ……ほんっとうに憎たらしい。

(ど、どうするトキ兄。カップルの振りでもしてごまかしとく?)
(いや、気まずすぎるだろ。あの恋愛マスターこいとは使えないのかよ)
(ラブコンボールだよ!? お店の商品壊しちゃうよ!)

 改めてラブコンボールってひどいな、名前。
 もっと、トゥインクル★とか、トキメキ★とか、なかったんだろうか。
 
(もう真実打ち明けたほうがよくないか?)
(打ち明けてからのコレだからね。勝手に脳内でカップル変換してるからさ……)
(うう、やる、しかないのか?? マジで? さっき事故でやったばかりなのに?)

 再び宇月さんの口パク伝言「たすけてあげようか」が発令される。
 うう、なんでこの人の能力がよりによって心を操る能力なんだろう。

「彼氏となんかやったりすんの? ちゅ、ちゅーとかさ」
「!? ……え、えと………」

 ああ、大福、その純粋無垢な目をこっちに向けないで。
 そしてこいとちゃんも、私たち二人が黙ってるのをいいことに「キース、キース」とか言わないでぇぇ!! そして宇月さん、口元が震えてますよ笑わないでください!

「…………仕方ない。コマリ、ちょっと我慢しろよ」
 と、トキ兄が小声で告げる。
 な、なに? と尋ねようとした瞬間、くいっと右手を引っ張られた。

 私の指とトキ兄の指が絡まり合う。
 あっという間にわたしの右手は、がっちり握られてしまった。し、しかも、これってその、あの。
 こ、恋人繋ぎってやつ、だよね……?

(え、ええええええええええええええええええええええっっ)

 やばい、心臓がうるさい。頭が、ぼうっとして体がふらふらして。
 今、宇月さんの術はかかっていない。ということはこれは、私の……?

「そうです、俺はコイツの彼氏です。何か問題でもありますか」
 トキ兄はややつっけんどんに言うと、大福を下から見上げた。

(ちょ、ちょっとトキ兄、本気―――――――――?)

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