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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
関連タグ: コメディ ラブコメ 妖怪幽霊 学園 未完結作品 現代ファンタジー 
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*42*

 〈猿田彦side〉

 俺—猿田彦は、13~14歳くらいのガキんちょの身体を乗っ取っている。
 名前は確か……「バン」とか言ったか。苗字なのか名前なのか、どんな字を書くのか分からないが、彼の友達がそう呼んでいたので、自分も同じように呼んでいた。

 バンを一言で表すなら、「変な奴」だな。
 コイツはとにかくお喋りで、こちらが口を挟まない限り、会話をやめない。いったいいくつネタを持っているんだと引くくらい、めちゃくちゃ喋る。こっちは、息をつく暇もない。
 
『へ? 乗っ取り? ああいいよいいよ、なんか少年漫画みたいでおもろいし俺一応霊能力持ってるし、憑依系だしこれくらい余裕余裕』

 な? 句点どこ行った? って思うだろ。
 だが正直な話、説明する手間が省けて実に助かった。彼の家が霊能力者の御三家であること、彼が妖怪幽霊を取り憑かせて戦う「憑依系」であることが、道開きの神を安堵させた。
 
 俺たちは、互いに助け合うことを第一条件とし、同じ身体を共有する仲間として仲良くなった。
 こうしてみると、ガキの癖に妙に達観しているなと思う。良家のお坊ちゃんという生い立ちが、子供をそうさせているのかもしれない。
 

 ……さて、話を戻そう。
 現在俺は、ある中学校の上空を飛んでいる。人間を助けるために。

 神である俺らは、人間の生死のタイミングが分かる。
 一つの個体がいつ、どうやって生まれるか、どのような人生を生きるか。そして、どう死ぬかを予見できる能力を持つ。
 ただし、視えるだけ。運命を変えようとする者はまずいない。よほどのことがない限り、俺らは力を使わない。これは神々における暗黙のルールだった。

 今どきの若者言葉で、分かりやすくまとめるならば。
「万物を生み出したせいで体力切れたわ、ぴえん」
「生かすも殺すも結局そいつ次第じゃね? 生きようと思えば人は生き、死のうと思えば人は死ぬ。そういうもんっしょマジで」
「あ、じゃあ俺ら、しばらく傍観者になっていいってこと? マ?」
「えー、神やん」
 って感じだ。だいぶギャルくなってしまったが、かなり伝わった気がする。たぶん。
 

【神頼み】という言葉があるが、俺からすれば「自分で何とかしろよ」って話。
 あれ、神様ってこんなゆるい生き物だったっけ……。まあいい。

 そんなこんなで人々の生活を陰から応援していた俺様だったが、ある日ふと違和感に気づいた。
 ――人が死に過ぎている。

 例えば、20代の女性とすれ違ったとする。
 俺の目には、その女性が今後どのような人生を送るかが映る。日々平穏に過ごしていたが、七月の○○日にトラックに撥ねられて死亡、とかな。

 そして自分の予見は、一度も外れたことがなかった。
 しかしここ数日、急に運命が変わる人間の数が増えてきていた。なんなんだ、この不快感。全身にまとわりつく、ねっとりとした憎悪の念……。間違いなく近日中に何かが起こる!

「そして出会ったのが、あの禍野郎ってわけだ。これで疑いが晴れた。アイツは絶対何か企んでるぞ」

 俺は空中でバランスを取りながら地上へ降りる。
 風の流れを利用して体勢を整え、両足に全意識を集中。着地の衝撃を最小限に抑え、学校の中庭の地面に右足をつける。

 ストッ。

「あの鬼神か。昔からコソコソコソコソ、鼠のように闇に隠れておったが……」

 続いて着陸した大国主が、形のいい鼻を鳴らす。
 着物の裾をたくしあげ、血だまりで濡れないように注意しながら足を進める。

「敵に回すと厄介じゃな」
「ああ、まったくだ」

 俺は肯(うなず)く。

「こいつらの未来を視た。ガキ二人とも、禍の神の贄として吸収される。復活後の最初の餌として」

 地面に倒れているのは、二人の子供だ。
 白いシャツを着た少年と、セーラー服の少女。
 両方とも、服と顔を、血と泥で汚していた。



 なるほど、少年は家庭環境と勉強の不安に板挟みされ、逃げたくても逃げられず自殺。
 友人の少女は彼を助けようと、後追いで命を絶った……か。

 なんとも哀しい最期。彼らが救われる未来は、なかったのだろうか。
 ………いや、あった。俺様がみて見ぬふりをしなければ。

「俺のせいだ」
「おぬしのせいではない」

 肩を降ろした俺に、大国主が言う。
 その端正な顔を、悲哀の色で染めながら。
 
「お主は定められた規則をしっかりと守っただけじゃ。道はこれから切り拓けばよい。最悪はこれから訪れる。わしらはそれを止めるのじゃ」

 ――自らの選んだ死を、他人に利用されてはならぬ。
 ――闇の中に取り残すわけにはいかぬ。

 と、彼女は言葉を続ける。

「……なぜ奴は、こんな若造を狙うのじゃ? なにか解るか、猿田彦」
「負のオーラが強いんだろうな。死は、奴の好物だ。子供は経験が浅いがゆえに、物事を大きくとらえがちだ。綺麗なものを綺麗と言える純粋さを持ち合わせているのと同時に、一度醜いと決めつけた物はどこまでも醜く映る」

 禍津日神は、穢(けが)れから生まれた存在。その本質はどこまでも悪だ。
 どこを切り取っても、あの神には肯定できる箇所が無い。存在そのものが、我々にとっては悪でしかない。禍をつかさどる者として、当然のことかもしれない。与えられた使命を全うしているだけかもしれない。

 でも、他人の正義が必ず善とは言い切れない。

「それで、どうする。何か策はあるのか」
 大国主は俺を見上げる。

「――こいつらの身体に乗りうつるのはどうだろう。いや、こいつらの身体から発生した霊魂と合体する,と言った方が正しいのか?」
「は!?」

 大国主は、ぽかんと口を開けた。
 そりゃ、そうなるわな。横で友人が真面目な顔でおかしなことを言ったのだから。逆にこれで「わかった! うむ!」とOKされたら困る。

「正気か貴様? 通常、霊魂というのは現世に留まるものではない。乗りうつろうとする前に、体から離れた魂は冥府へと送還される。だいたい、我々も霊体みたいなものじゃろう。霊と霊が合わさって、いったい何になるというんじゃ」

 俺の提案は100パーセント無理ゲーだ。
 前例も成功の実績もない。バカな神が思いついたヘンテコなアイディアだ。もしかしたら、そもそも論理から間違っているかもしれない。

 でも、それでも。何事もやってみないと分からないだろ。
 俺だってどうやればいいかわかんねえ。言ってみただけだ。
 けれど、俺らは神だ。万物を生成し、国を作り、命の概念を作り出した神だ! 
 だから、ひょっとして……となんの根拠もないのに希望を持ってしまう。これもいけるんじゃないか?って。


 それに。お前さっき言ってたじゃん。

「道はこれから切り拓いていくんだよ! いいか、時に大胆に、だ。渡ればとにかく道になるんだ。たとえそれが獣道だったとしてもな。俺はやるぞ。おまえが何を言おうとやるぞ!」
 
 やり方はこれから神スピードで考える。とにかくやるんだ。
 やれるって思うんだ。神が自信を失ったら、いったい誰が二人の人生を肯定するんだ?



 と。ふと、ビュウウンと強い風が吹いた。
 はっとして後ろを見る。


 「おやおや。ずいぶんと楽しそうではないですか。我も入れてくださいよ」
 

 おかっぱの小柄な少年は、あごに手を当てながら静かに云ったのだった。
 

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