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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
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 〈宇月side >>56の続きから コマリsideと同時刻〉

 黒女(くろめ)市立体育館は、市街地のはずれにある県立体育館である。築50年。剥がれた塗装や、窓ガラスに貼られたガムテープが建物の劣化を物語っている。昔は多くの市民が訪れたようだが、現在館内に居る人間は二人のみ。体育館前の道路は歩行者はおろか、車も通っていない。

 体育館は二階建て。一階はバスケットボールのコート、二階は室内プールとなっている。
 少子高齢化による利用者激減を受けて、この体育館は数年前に使用禁止になった。建物自体が古いので、遊ぶとケガをするかもしれない。無くなるのは嫌だけど、安全が一番大事だ。当時の館長はそう考え、建物の撤去を求めたらしい。

 しかし、とある理由で工事は中断。よって建物はまだ、この閑静とした農村の中にある。
 現在一階はトラテープで封鎖。プールの水は全て抜かれ、代わりに何の品種かもわからない植物の葉が底に溜まった。取り壊しを事業者に相談した年以来、何と一度も掃除されていない。


「やから、住民さんは皆汚い言うて、近う寄れんのやって。小学校低学年の子は、興味方位でたまに来るけど、怖なって途中で帰りはるって」
「へえー。確かにジメジメしてますね。センパイの心みたいだ」
 
 さて、ボクこと夜芽宇月は先ほど、黒女体育館が使用禁止だと言った。それなのに、後輩を連れて堂々と体育館のベンチに座っている。
 なんなら数分前、倉庫から取ってきたバスケットボールをゴールの中に放り込んだ。そのあと後輩がダンクしようとして、思いっきり頭をぶつけてきた。

 ベンチの隣に座り、首にかけたタオルで汗を拭いている水色髪の少年が、ボクにぶつかってきた後輩だ。名前は番飛燕(つがいひえん)。ボクと同じ怪異討伐組織に所属する、新人の霊能力者。

 怪異討伐組織・ACEは、都内の霊能力者およそ1000人が所属している、霊能力の教育機関だ。
 霊能力者は単独での任務が基本だが、ひとりで怪異を討伐するには訓練が必要だ。小学生から高校生までの術師は一人前になるまで、この組織に入って技を磨く。組織を出た人間も、希望書を出せば再所属することができ、その場合は講師として後輩の指導につく。

 地元である京都にもACEの支部はあったけど、ボクは一度もACEに入ったことがない。
 というのもボクの扱う〈操心術〉は霊能力者の間で嫌悪されている能力だ。くわえてその術を使う少年は、意地が悪いことで有名だった。
 よって、面接どころか招待のチラシさえ回ってこなかったのだ。自業自得なんやけど。

 昔のボクは「集団行動なんか知らん。嫌いたいなら嫌ってください。ボクもお前らのこと嫌いなんで」と一匹狼を気取っていた。その名残か、今も多少、人付き合いの面で苦労している。
 前と違うことは、そんな自分を認められなくなったことだ。このまま進んでいったら、ろくな大人にならへんなと急に実感した。遅すぎやろ。
 ということで心機一転、自分にも他人にも優しい術使いとして更生するため、講師という形で再スタートを切ったのだ。

 それなのに、まさかこんなことになるとは。
 ボクはぷっくりと腫れあがった額のタンコブを手でさすり、大声で怒鳴る。

「~~ッ。お前が身長低いのにダンクシュートしようとするからやアホ! あんなん、勢い余って倒れるにきまっとるやん。見てコレ。こんなに赤なって! ゴツン言うたで。ゴツンて」

「いや、ゴツンじゃなくて、ゴッッッッでしょ」
「余計あかんやんけ! ほんまええ加減にせえよ。普通の18歳はな、模擬戦100本終わった後に質問攻めに合うたら瀕死になんのや。なのにお前は気にせんとウッキウキでバスケを勧めた。狂ってるでほんま。もう辞めたろか。教えるの、もう辞めたろか!!」
 
「うわガチギレかよ。こわ」
「ちょっとは反省しろやこのクソガキッッ! マジで辞めたるからな! 辞表出すでほんまに!」
「うわ、ごめんって、ごめんなさい! 腕を振りあげないで怖いっ。175㎝に見下ろされんのマジで怖いから。悪かったからああああ」

 彼―飛燕は霊能力者全体を取り締まってきた御三家の人間だ。年齢差や経験値の違いはあれど、実力はボクと変わらない。ほぼ互角だ。小柄な体格の彼から繰り出される技の威力はすさまじく、また動体視力や危機察知能力の数値も極めて高い。


『うちの息子を宜しくお願いする』と番家の親父さん―当主さんに頭を下げられたときはめっちゃくちゃビビった。

 指導係を担当することになったボクは、先月飛燕の家に挨拶に行った。飛燕のお父さんは柿色の着物を身にまとった大柄な男性だった。眉がシュッとしてて、凛々しくて、厳格そうな性格の。
 軽口とか叩いてもいいんですかねとおずおずと尋ねたボクに、親父さんは言った。

『お前の執拗さを見込んで頼んでいるのだ。バシバシ鍛えてやってくれ』
 うわんボクの悪評、御三家にまで届いてますやん。喜んでいいのコレ。ダメだよね。
 が、頑張ろ。良い噂を立ててもらえるように頑張ろ。
 
「はぁー。それで、教えた情報はアレでええの?」
 ボクはタオルをリュックの中にしまうと、うーんと両手を伸ばす。
「ああ、あの禍の神の話ですか」と飛燕は顎に手を当てると、「OKっす。十分すぎます」とニカッと笑った。

「てかヒエ、どこから禍津日神の話を知ったん? 普通に調べても、そんなの出てこんやろ。禍の神の文献を読んでも、それが兄の死に関わってるなんて誰が知るん。それこそボクみたいに当事者から聞かんことには何もわからんで」

 桃根ちゃんの過去話から始まった、霊能力者失踪事件。なんだか、どんどん深い話になって来たな。桃根ちゃんとユイくんが死んで、 二人を狙って悪い神様が暴れて。それを止めようと、道開きの神様と契約してた番家の長男が命かけて。いい神様は人間の霊魂と合体して。そんで今、女の子の方はボクのすぐそばにいる……。うわ頭痛なってきた。

「あー。言ってませんでしたっけ。そうっすね、さっきの模擬戦も受け身の練習でしたもんね」
 ヒエは首の後ろを手で掻きながら、ぼそぼそと続けた。

「番家の子供はそれぞれ、皆使う能力の系統が違うんです。兄ちゃんは〈憑依系〉。妹はセンパイと同じ〈操術系〉。俺は〈使役系〉を使います」

 使役系術士は、あやかしや霊と契約を結び、友に戦闘する能力者だ。一度交わした契約は術士が死ぬまで消えない。使役する怪異とは常に従属関係を持つ。使役対象は犬や猫、狐などの低級霊から、高位の妖怪まで多岐にわたる。

「へえ。使役系か。どんな怪異と契約しとるん? そうやなあ、ボクがこれまで会うてきた人は、猫・猫・猫・猫……あかん猫ばっかりや」
「一番付き合いの長いのは雲外鏡のじいちゃんっすね」
「う、うんがいきょう!?」

 雲外鏡は、未来を予知できる鏡の妖怪だ。付喪神(つくもがみ)と同じで、鏡に取りついた霊がそのまま雲外鏡になったとされている。
 ボクが驚いた理由。雲外鏡は妖怪カースト上位に君臨する高貴な妖怪だからだ。いくら御三家の次男といえど、そう簡単に契約できる相手ではない。

「はい、そうです。3歳の時―まだ術のコントロールもできなかった時期に、誤って契約してしまいまして。彼に頼んで、予知をしてもらいました。だいぶ老いぼれてるんで、1日1予知しかできないんすけどね。あはは」

 いやいや、「あはは」で終わらせんといてくれます? ツッコミが追い付かんから。
 誤って契約した……? 3歳で? ボクだって術の発現は小学校入ってからだったのに?
 正鷹さんといい飛燕といい、御三家ってやっぱエリートなんやな。

 じ、自分なんかが気軽に教えてええんかなあ……? 心配になってきたわ。
 あー、やば。頭がさらに痛くなってきた。あとでコンビニ行って頭痛薬を買おう。

 


 

 


 
 


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