コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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女神と二人の契約者 truth and lie 
日時: 2011/09/07 20:40
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: WbbkKfUP)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode=view&no=17448



重要なお知らせ>>71

クリックありがとうございます!!

ここには何度か投稿させていただいている者です。
上のURLは最近書き始めたシリアス・ダークの小説です。

※初めての方は最初にご覧くださいませ

Ⅰ、スレ主が大大嫌い!!

Ⅱ、荒しに来たぜ☆

以上に当てはまる方は戻るボタンを連打してください!!!!


読むにあたってのご注意 >>7

それ以外の方は是非とも見ていって下さいww

コメントもどしどしお待ちしております。
誤字脱字があったら教えていただけるとありがたいです。
しょっちゅうミスをするもので……
このお話はシリアス50%、恋愛30%、後の20%は色々アクションなど……みたいな感じで進んで行きます!!
(良い加減でごめんなさい)
切ない感じで進んで行けたら良いなぁと思っております。
少し流血シーンがあるので苦手な方はごめんなさい
。さっきから謝ってばかりですね……

【スレ主の呟き】

岩手県から帰ってまいりました。
更新再開です。

♪大切すぎるお客様紹介♪

そう言えばこしょうの味知らない様【コメディ・ライトにて『トゥモロー&トゥモロー&トゥモロー』執筆中】
月読 愛様【コメディ・ライトにて『古本少女!』執筆中】
野宮詩織様【コメディ・ライトにて『おいでませ、助太刀部!! 』執筆中】

現在3名様です!!
いつもいつもありがとうございます<m(__)m>
コメントは私にとって凄いエネルギーになっています!!

※来て下さったお客様の小説は拝見させていただきたいです。小説読むのが大大大好きなので!!小説のタイトルを教えていただけると、とても嬉しいです。

あらすじ>>51
山下愁様に書いていただいた紹介文です!!
だいぶ話が進んできたので、こんなに読めないと思った人はあらすじを読んでいただければ分かると思います。
山下様、本当にありがとうございます。


〜story〜

プロローグ 楓編 >>1 天界編 >>2

第一章 過去からの逃れと二度目の出逢い 第一話>>3 第二話>>4 第三話>>6 第四話>>8 第五話>>10 第六話>>16 第七話>>21 第八話>>24

第二章 ただ誰も傷つけたくなくて 第一話>>28 第二話>>31 第三話>>34 第四話>>35 第五話>>38 第六話>>39 第七話>>40 第八話>>41 第九話>>42 第十話>>47 第十一話>>48 第十二話>>49 第十三話>>50

第三章 途切れない導きの連鎖 第一話>>53 第二話>>54 第三話>>55 第四話>>57 第五話>>59 第六話>>60 第七話>>65 第八話>>68 第九話>>69 第十話>>70


*cast*

地上界

神風 楓 huu kamikaze (騎士) >>5

氷崎 由羅 yura koorizaki (主) >>56

金時 時雨 sigure kinntoki (騎士)

春椙 花月 kagetu harusugi (主)

黒田 羽狗 haku kuroda (主)

白川 大牙 taiga sirakawa (騎士)

天界

愛と美の女神 ヴィーナス

天の主神 ジュピター

神々の使いの神 マーキュリー

軍の神 マーズ

天空の神 ウラヌス

農耕の神 サターン

海の神 ネプチューン

 
 ——start—— 2月 19日

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第二章 ただ誰も傷つけたくなくて (10) ( No.47 )
日時: 2011/05/09 19:38
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: 9nQU0Vbj)



「待っ……て、下さ……い」

 由羅はその声を聞くと立ち止まり、楓の横に片膝をついて座るも楓の視線から逃れたいかのように楓の両手を握りしめ、顔を俯かす。予想をはるかに上回る言葉を聞いた楓は、こんな状況にも関わらず瞳が飛び出しそうなくらい開け、呆然と由羅を見つめていた。そして何か言いたそうに口を開こうとするが、魔獣の攻撃で唇が切れたのか声を出そうにも痛くて出なかった。由羅は顔を上げ、一瞬だけ楓と目があってしまう。そんな痛々しい様を見た由羅は言いたい事は分かっているという風に手で制す。

「詳しい事は後で話すから、楓は休んでろ」

 由羅は楓の両手を包み込んでいた自分の両手を優しく話すと、今度こそ魔獣の元へと走って行った。

「気を……つけて下さい、ね」

 楓は小さい声をなるべく張り上げて、由羅の後ろ姿へと言葉をかける。そのせいで唇は切れてしまったらしく、血が滲みだすが楓は気にしなかった。その声が由羅に届いたのかは分からなかったが、楓の瞳には手を軽く振っている由羅の姿が映し出されていた。その光景を見た楓は少しだけ顔を綻ばせ、そのまま意識を失った。

「……もう誰も傷つけさせない。母上と父上に誓ったあの日から」

 由羅は暗示のように呟き、魔獣の目の前へとキリッとした目で突っ立つ。魔獣は瀕死状態ではない“獲物”を前にしてなのか、赤い目を寄り一層血に近いような色に変え、ぎらぎらとなめ回すように見つめていた。しかし由羅も負けず劣らず、睨みつける……殺意のこもったような輝きをしていた。

「……俺はお前を許せない。魔術者が悪い事なんて分かってる……だからお前から魔力を消す。」

 由羅は右腕を空へと突き上げ、手の平を開くとその上に薄い白く透き通った物が集まって来る。それは由羅に導かれやがて球体へと変化していった。由羅はその様子を見ても表情は微塵も変わらず、ただ憎しみへと注がれていた。

「陽の魔術解放!! 陰の魔力を消す事を主の名において許可をする……消失魔術ロスト」

 由羅が魔法を発動させる術を唱えると、手の平にあった球体は大きく長い竜のような姿へと形を変え、魔獣へと向かっていく。その姿は神々しくきらびやかに白い光を発し、体をうねらせながら魔獣の体へと入り込む。魔獣には竜をかわす時間もなく、簡単に侵入を許していた。竜の尾まで魔獣の体に入り込むと、魔獣の下に魔法陣が広がり結界が四方にはられる。

「……発動!!」

 由羅の掛け声と共に魔法陣が光を帯び、魔獣の体から黒い靄が溢れ出てくる。魔獣は苦しいのか、逃れるために結界を破ろうと体当たりをしていた。由羅は決して綻びる事がないように、魔力を強めつつも一定に注入していた。

「ウゥゥオォォギャアァァ」

 遂に耐え切れなくなったらしく魔獣は悲痛な唸り声を上げている。目には滴が溜まり、顔を覆っている黒い鎧を所々濡らしていた。由羅もだいぶ魔力を消耗したのか額を汗がつたい、少し苦しそうに息をしていた。流石に由羅も魔獣の苦しそうな姿を見て決心が揺らいだのか、さけるように瞳をそらす。だが魔法をとめる事はなく、遂行していた。

「終わりにしよう……ごめんな」

 由羅の口からぽつりとそんな謝罪の言葉が無意識の内にもれてしまう。そしてまだ残っている力を振り絞り、“陰の魔力”を消そうとする。それが……約束だから。

「ダメ!! 魔獣から、魔力を、抜いたら……し、死んじゃう」

 由羅の耳に途絶え途絶えに聞こえてきたのは、死なせたくない人の必死な声だった。楓はあちこち服が破け、血が流れている自分の事を気にせずに、引きずっている左足を庇うように長剣を杖にして由羅の元へと歩んで来る。由羅は驚いたように目を丸くさせながらも楓の元には駆け寄らず、くるりと背を向けてしまう。その行為を予想できていたのか、楓は顔色一つ変えずに止まる事なく由羅目掛けて進む。

「……優しかったあの頃の由羅は、どこに行ってしまったんですか!! 貴方が何かの命を奪うなんて…………そんな姿を私は見たくないです」

 楓は我慢出来なくなったのか、体の痛さも忘れて後ろから由羅に思い切り抱き着く。由羅はびっくりしたように体を少し震わしたが、振り向こうとはせずに空いている左手で腰の位置にある楓の頭を優しく撫でる。楓はその事に気がつくと、自然と由羅から離れる。それ以後何も言葉を発しない由羅を疑問に思い、由羅と正面から向かい合うために左から回り込む。楓が回り込んだ時の由羅の顔はどのくらい泣いたのか、頬全体が濡れていた。

「マスター……私は“生きているんです。”怪我は生きている事が出来れば必ず癒えますから……マスターが何かの命を奪うなんて、絶対にそんな姿見たくないです」

 呆然と立ち尽くし、楓を見つめていた由羅に楓はにこりと笑いかける。そして由羅の瞳から一滴の涙が頬を伝う。

「……ごめん。俺間違ってた」

 由羅は楓をしっかりと見つめると、左の拳で両目をごしごしと拭う。そのせいか、目の周りが赤くなっていた。

「もう休んでもらいたいんですが、お願いがあります。陰の魔術を唯一打ち消せる魔術が一つあります……マスターの陽の魔術で打ち消して下さい。そうすれば魔獣は死にません」

 楓はきっぱりとした口調で断言をする。その事を聞いた由羅は何かを思い出すかのように、天を仰ぐ。

「……分かった。ありがとう、楓。君のおかげで思い出せたよ……打ち消しの魔術ディナイ」

 由羅は冷静になれたのか目元は優しさを帯び、涙は乾き太陽の光があたっても頬が輝く事はなかった。その由羅の様子を見た楓は安心し、微笑む。反乱の地と化していた場所にようやく終わりが見えはじめていた。

第二章 ただ誰も傷つけたくなくて (11) ( No.48 )
日時: 2011/05/14 16:32
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: 9nQU0Vbj)



「陰の魔力を打ち消す事を我が主の名において許可する。打ち消し魔術ディナイ!!」

 由羅がごく穏やかな声で魔術を唱えると、魔獣の体内に入り込んでいた靄が出て来てまた竜の姿に戻る。しかし次の瞬間、靄が崩れまた別の形へと変わる。よろよろと今にも倒れそうな楓だったが、それを見ると怪我も忘れたかのように呆気にとられ口がわずかに開いていた。

「……天使ですか?」

 楓と由羅の目の前で大きな翼を持った女の子が微笑んでいたのだった。楓は由羅にした質問の返答をしばらく待っていたが、いくら待っても返ってこないため由羅に視線を向ける。しかし、由羅は女の子を目を見開いて見つめているだけだった。ようやく楓の視線に気づいたのか楓に顔だけを向ける。

「あの女の子……何者?」

 由羅はさっぱり分からないと言うように、左手の人差し指を女の子に向けながら楓に質問で返す。楓は由羅まで知らないと思っていたらしく、私も知りませんと、言おうとした時に誰かの声に遮られる。

「あの……私は由羅様の陽の魔術の仮の姿です。名前は凛音と言います」

 その声の主が女の子の物だと二人が気がついて、リアクションをとるには約二分程かかった。まぁこれが一般人としてはいたって普通なのかもしれないが……

「えっと……もう一度言って下さい。聞き間違えたと思うんで」

 由羅はともかくなんとか頭を整理しようとする思考回路までいった楓は、右手で頭を抑えながら凛音と名乗る女の子に聞く。凛音は深くため息をつき仁王立ちになると、先程言った事と全く同じ内容を呟く。

「だから私は由羅様の陽の魔術の仮姿の凛音です。このことは、何千回聞いても変わらない事実ですよ」

 凛音はきっぱりと事実とは思えない事を事実だと断言をする。しかし、仁王立ちをするにも楓と由羅よりは十センチ以上背が低く、可愛らしい顔立ちのためあまり迫力がない。着ている服も淡いミルク色のレースのついたワンピースのため、実際は十二、三歳なのだろうがもっと幼く見える。見る限り普通の可愛らしい女の子にしか見えない……羽が生えているのを除いてだが。

「マ、マスター!! こんな可愛い女の子いつの間に拉致したんですか!? 犯罪、犯罪ですよ。今なら間に合いますから一緒に警察署まで行きましょう」

 凛音の発言を聞いた楓は壊れたらしく、まだかろうじて壊れていない由羅の肩を掴みぐわんぐわんと揺する。パニクっている楓に言われるがままに、由羅の体は不安定に揺れる。楓のどこにこのエネルギーがあったのかは謎だった。やっと思考回路が直った由羅は、額をぴくりと震わせると息を思い切り吸い込む。

「勝手な事べらべら言うな!! まずそこの幼女、俺の魔術だとか意味分からない事言うな!! そして楓、俺が拉致する暇がいつあった!? 俺が興味のあるのは……!! へっ……ち、違う。何言ってるの俺?」

 由羅の思考は破壊されたものの、変なタイミングで直ぐに直ったらしい。自分の訳の分からないまま、言ってはいけなかった事も言ってしまったらしく顔を真っ赤に染めながら何故か俯く。楓と凛音はその説教をぽかんとした表情のまま聞いていた。それを聞き終わった楓はおかげさまで冷静になり、どっとため息を吐く。しかし痺れを切らした凛音は楓と由羅目掛けてお腹の底から叫ぶ。

「……由羅様も楓様も、もう少しこの状況を理解して下さい!! あの魔獣にかけられた陰の魔術を消すために私を呼んだのでしょう?」

 どこからその大きな声が出てくるのだと、楓と由羅は両耳を両手で抑えながら考えていた。しかし凛音に勝を入れられた事で、緊張感が蘇ったのか二人の瞳が真剣な面差しになる。それを瞬時に読み取った凛音は先程のような優しい笑みを見せる。三人の意志がしっかりしたところで凛音が呟く。

「では由羅様、行って参ります」

 凛音は表情を凛としたものに変えて羽ばたくと、一瞬だけ由羅と楓に顔だけを向けて頷く。そしてそれに応えるように由羅は神経を集中させ、右手に力を込める。対象的に楓は右手をグーにして突き出し、親指を上げる。

「凛音ちゃん、後はお願いします」
 その声を聞いた凛音は口元を緩ませ、魔獣の目の前に降り立つ。魔獣は戦えなくなっていたものの、地面に突っ伏しながら地の底のような唸り声を出している。しかし凛音は恐れることなく、一歩を踏み出す。
 その動作に反応したのか、魔獣が震えながらも立ち上がり口を小さくだが開き、凛音に噛み付こうとしていた。

「危ない!!」

 気がついた楓は声を張り上げて叫ぶが、凛音は慌てずに更に魔獣との距離を詰めていた。慌てている楓を由羅が落ち着かせるように声をかける。

「大丈夫だよ」

 短い言葉だったが、優しく落ち着き凛音を信頼しきっているその声色に楓はほっとすることが出来た。

「そなたの中にある醜悪に満ちた陰の魔力よ、希望に満ちた陽の魔力を注ぎ今消し去る!!」

 凛音が鈴のように綺麗な声を上げると、魔獣の頭に両手を置く。 その途端、魔獣の体から漆黒の闇のような靄が溢れ出す。そしてその靄ーー陰の魔力ーーが凛音の両手へとどんどん吸い込まれていく。しだいに吸い込まれる靄が少なくなると、魔獣の体を覆っていた鎧が消えだし虎本来の橙色の毛並みが浮かび上がる。しかし、それと同時に凛音の体が透き通り始めていた。由羅のほうは額に汗が滴り、苦しそうに魔術をコントロールしているため気がつかないが、ただ見ている事しかできない楓はいち早く気づく。

「凛音ちゃん!! 体が透けちゃってます!!」

 楓は悲鳴に近い声を上げながら、止めに入ろうと激痛の走る体を無理に動かそうとする。楓の言葉がかろうじて耳に入ってきた由羅は、左手で汗を拭うと視界がぼやけているため目を細める。そしてようやくその事に気がついたのか、少しだけ驚いたように凛音と目をあわせる。凛音は顔を苦しそうに歪めながらも何故か頷き、魔術を途切れる事がないようにまた魔獣に顔を向けていた。

第二章 ただ誰も傷つけたくなくて (12) ( No.49 )
日時: 2011/05/24 20:08
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: 9nQU0Vbj)



「楓、凛音の元へ行くな!! お前も魔術の影響をうけるぞ」

 由羅の妙に落ち着いた声を聞いた楓は、信じられないと言うように大きく頭を振る。その目には痛みからきた涙ではなく、悲しみの涙が少し浮かんでいた。

「マスター何言ってるんですか? 私は凛音ちゃんをさっき知ったばかりですが、たとえ凛音ちゃんが魔術で出来た姿だったとしても消えるのを黙って見てる訳には行きません」

 強い口調っぷりからは揺るがない思いが込められていた。由羅は唇を軽く噛み、目をぎゅっと閉じて自分に向けられた罪の刃となる言葉を完全に打ち消そうとする。由羅が迷っている事で、魔術自体に影響が出始めたため凛音の体の至る所に切り傷が切り刻まれる。

「由羅様、私は大丈夫なんで魔力をもう少し送って下さい」

 凛音は血が入り込んだ右目を閉じ、両手を魔獣に触れたまま真後ろにいる由羅目掛けて叫ぶ。由羅は苦い顔をしながらも分かったというように左手を上げ、右の拳をさらに強く握りしめ、力を入れようとする。そんな二人を見た楓はやるせない気持ちで泣き声と言葉を必至に抑えていた。ーー自分には何もできないと心の中で歎きながらーー

「楓様しばらくの間、由羅様をよろしくお願いします!!」

 凛音は顔を楓の方に向け、大丈夫と言わんばかりに微笑む。

「消えないで凛音ちゃん、嫌だよ」

 楓が我慢出来ずに凛音の元へ駆け寄り、自分へと手を振ったその左手を掴もうと走る。楓は凛音にたった今会ったばかりなのに、何故か“失いたくなかった。手放したくなかった”ーー無意識に溢れ出す右目からの涙は血の赤だったーー
 楓の右手の指先が凛音の左手に触れるその瞬間、凛音は砂のようにサラサラと消えていった。楓にはスローモーションのように感じられていた。楓には自分の目がいつも以上に見開かれていくのが分かっていた。楓はぎこちない人形のように走るのをやめ、数歩だけ歩くと膝から崩れ落ちる。自分のズボンをくしゃくしゃと掴む。そして壊れたシャワーのコントロールがきかなくなったように、楓の瞳からは滴がポタポタと降っていた。

「紀咲、消えないで!! 私は貴方が……」

 俯いていた顔を上げた楓は涙でぐしょぐしょなまま、天を見上げて叫ぶ。
 由羅はそんな楓をやるせない思いで見つめていたが、“紀咲”と言う名が楓の間違いなのか、それとも何か裏があるのかと辛い心境を掻き消すように考えていた。

「楓、凛音は消えちゃったけど“死んでない”からまた会えるよ。魔獣も無事に元の虎に戻ったよ。手当もしたいし……帰ろう」

 由羅には確信がなかったが凛音はまだ存在している気がした。

「…………はい、分かりました。マスターの言う事信じます。お腹減ったので、帰ったら私が腕によりをかけて美味しい物作りますからね。」

 楓には由羅の声が通じたのか、目を数回しばたかせると綺麗な細長い指で目元を拭う。そして由羅の傷痕までも癒すように微笑むのだった。



「あぁーあ……予想外の展開になっちゃったね。まさかあいつに邪魔されるなんて思ってなかったなぁ。しかも俺とじゃ相性最悪だし。こりゃ少なからず影響でるね。」

 一部始終を見ていた、いや……行っていた張本人は珍しく少しイライラとした表情で、独り言をもらしていた。そんな羽狗を宥めようともせず、大牙はきつい口当たりになる。

「そんなん分かりきってる。だけど“失敗”は出来ないだろ……特にお前はな。」

 大牙は壁に背を持たれ、顔を少しだけ上げる。長めの前髪が表情を隠し、口元からしかうかがえない。かすかに見える二つの瞳が鈍い輝きを放つ。羽狗はつんと顔を楓と由羅の方からずらすと大牙と向き合う。

「国にとっては調査でも、俺にとって楓を調査をするんじゃない……過ちを繰り返させないためだ。所詮出来損ないの俺は“国の玩具”さ。いつ消されるのかとびくびくしながら生き続ける……ずっと」

 心なしか羽狗は顔を歪め、諦めたように笑む。それを聞いた大牙はぴくりと眉を動かし、深いため息をつくと指輪のついた右手で髪をかきあげる。それは大牙にとってもはや戯れ事にしか聞こえないのであろう。

「あの時代の“トップスリー”と呼ばれた者の内一人は死んだ……あと二人の内の一人は目の前にいる楓。残る一人は……」

「楓ともう一人も俺と同じ道を歩むのか? きっと楓には耐えられないだろうな。出来た子が出来ない子になるのはそんなにいけない事なんかなぁ?」

 いつもの性格からは考えなれないほど大牙の声は頼りがいがなく、消えてしまいそうだった。それにいち早く気がつき見ているのが辛くなったのか、羽狗は大牙が言いかけた言葉を打ち消す。
 そして二人して顔を見合わせると、その視線を楓へと向けていた。

「……楓には俺と同じ道を歩ませやしない…………絶対に国に縛りつけさせない」

第二章 ただ誰も傷つけたくなくて (13) ( No.50 )
日時: 2011/06/05 20:07
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: NH7CSp9S)


家に着き、昼ご飯と晩御飯を一遍に食べ終えた楓と由羅は疲れたらしく二人して同時に欠伸をする。
 楓にいたっては絆創膏や包帯が体のあちこちを覆っていた。傷が痛むのか顔を少し歪める。目の端に涙を少し浮かべた由羅は、黙ってテーブルに肘をついたまま楓を眺めていた。

「楓の料理美味しかったよ……まだ傷が痛むの?」

 由羅はにこりと微笑む。楓は驚いたように由羅を見て瞬きを数回する。その顔から険しさが消え、微笑しながら口を開く。

「本当ですか!! オムライスは私の得意料理なんで喜んでもらえて良かったです。怪我はマスターが手当てをしてくれたので大丈夫です。ありがとうございます」

 楓は褒められたのがよほど嬉しかったのか照れ臭そうに頬を赤く染めている。しかしその頬に目線がいくと、痛々しげに血の少しにじんでいる絆創膏が目にとまる。由羅は細い眉をやや眉間に寄せ、楓の様子を探っていた。
 “紀咲”という人物が楓にとって何なのかと由羅はふと考えていた。あの凛音が消えそうになった時に何故、その名前が楓の口からこぼれ落ちたのか……由羅がいくら考えても分からないが、ただ一つ言えるのだとしたらーー紀咲がもうこの世には存在しないーーという決定的な事実だけだった。それ以上の事を知るには楓に聞かなくてはならないが、由羅にはそんな事が出来ないであろう。楓の心の内が分からなすぎて、由羅はつい深いため息をもらす。

——自分の事も何一つ満足に話せていないのに——

「マスター、考え事ですか? ……私に出来ることがあったら言って下さいね」

 楓は食べ終わった食器を重ねながら、心配そうに由羅の顔を窺う。楓の声で自分自身に飲み込まれていた由羅は現実へと呼び戻される。視線を上げた由羅の瞳と楓の瞳が合う。しかし楓は何故か一瞬だけで顔を背け、皿を急いで片付けだす。由羅はその様子を不信に思いながら、皿を台所へと運んでいく楓を呼び止める。

「楓待って。知りたいんでしょ? あの時俺が言いかけた事を……」

 由羅は全てを見透かしたような口調になり、椅子から立ち上がる。呼び止められた楓は少し目を伏せながら振り返る。由羅はそのまま綺麗に磨かれた窓へと近づく。外はもう真っ暗で所々に輝く光が何故か眩しく感じられた。それを見ているのが辛いかのようにバサァッとオレンジ色のカーテンを閉める。

「…………どうして私にマスター自身の過去を話すんですか?」

 楓は台所へは行かずにテーブルへと戻って来ると、音をたてないように静かに食器を置く。楓は少し、けねんそうな表情を浮かべながら由羅をじとっと見つめる。由羅はちらりと一瞬だけ顔を楓の方へ向けてる。

「……知っておいて欲しいから。俺にとって一番身近な人には聞いてもらいたいんだ。」

 由羅は強張っている楓をよそに困ったように微笑む。そして直ぐに視線をネオンの世界を閉ざしたカーテンを見つめる。

「さっきも話したように俺は騎士の一族で、それは俺自身が七歳の時のあの日をむかえるまでは変わらない事実だった。なんかさ、運命が変わっちゃったんだ……もしかしたら誰かの運命と変わっちゃったのかもしれない。俺は主と騎士のどちらになるのかを発表される日に“主”となったんだ。」

 由羅は振り返りざまに、呆然としている楓に信じられないよな、と言う風に苦笑いをする。楓の事を知らない由羅にとってはその沈黙が何を意味するのかなんて理解出来るはずがなかった……あの日の記憶さえ埋もれているのに。“思い出してほしい”そう願っているのに何故か“思い出さないでほしい”と願っている矛盾している自分がいる事も楓には分かっていた。はっきりとした答えが出来ないのはもどかしさと後味の悪さが残る。楓は包帯がぐるぐるに巻かれている右手を上げ、苦しそうに自分の胸倉を掴む。

——そのくらいで全てが知れた訳じゃない——

「……そう、だったんです、か。マスターも大変だったんですね。あっ!! 私そろそろ食器洗いますね。早くしないと汚れ落ちなくなりますし……」

 楓はあからさまに動揺しているのがばればれだったが、必死に隠すように椅子からすくっと立ち上がり、背もたれにかけていたチェックの紫色のシンプルなエプロンを手に取る。由羅は大した反応を見せない楓を予想していたのか、本の少しだけ寂しそうに顔を俯ける。楓はまた遠くに行ってしまう……あの時の事を覚えている“楓が何なのか”を知っていると言ったらどうするかと由羅は思う。でも自分から言ってしまえば意味がなかった。ただあの初めて逢った時の楓からは純粋さしか感じなかったが、今は楓を捕らえている漆黒の闇が見える気がした。

「楓もさ…………いつか過去の事話してね。全てとは言わないし、辛い事は話さなくていいから。ただ俺も楓の事知りたいから」

 由羅は優しく目を細めながら微笑む。その笑顔が楓を傷つけているという事実も知らぬまま。

あらすじ ( No.51 )
日時: 2011/05/31 21:39
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: 9nQU0Vbj)



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たとえ私が傷つき、命が尽きようとも——あなたをお守りします。

私は騎士。さぁ、ご命令をお願いします。


楓は代々『主』の家系——今年で7歳になった楓は、主か騎士になるのかを決める日なのだ。

だがしかし、彼女に待ち受けた運命は過酷なものだった。

『主』としての家伝を汚した悪魔なんて言われてしまう楓。


「私は、あの時に誓ったんだもん」


『主』としてではなく、『騎士』として生きる。
それが彼女に与えられた運命——。


コメディライトで連載中。
女神と騎士と主が織りなす壮絶なファンタジー。




   女神と二人の契約者 truth and lie



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