コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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女神と二人の契約者 truth and lie 
日時: 2011/09/07 20:40
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: WbbkKfUP)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode=view&no=17448



重要なお知らせ>>71

クリックありがとうございます!!

ここには何度か投稿させていただいている者です。
上のURLは最近書き始めたシリアス・ダークの小説です。

※初めての方は最初にご覧くださいませ

Ⅰ、スレ主が大大嫌い!!

Ⅱ、荒しに来たぜ☆

以上に当てはまる方は戻るボタンを連打してください!!!!


読むにあたってのご注意 >>7

それ以外の方は是非とも見ていって下さいww

コメントもどしどしお待ちしております。
誤字脱字があったら教えていただけるとありがたいです。
しょっちゅうミスをするもので……
このお話はシリアス50%、恋愛30%、後の20%は色々アクションなど……みたいな感じで進んで行きます!!
(良い加減でごめんなさい)
切ない感じで進んで行けたら良いなぁと思っております。
少し流血シーンがあるので苦手な方はごめんなさい
。さっきから謝ってばかりですね……

【スレ主の呟き】

岩手県から帰ってまいりました。
更新再開です。

♪大切すぎるお客様紹介♪

そう言えばこしょうの味知らない様【コメディ・ライトにて『トゥモロー&トゥモロー&トゥモロー』執筆中】
月読 愛様【コメディ・ライトにて『古本少女!』執筆中】
野宮詩織様【コメディ・ライトにて『おいでませ、助太刀部!! 』執筆中】

現在3名様です!!
いつもいつもありがとうございます<m(__)m>
コメントは私にとって凄いエネルギーになっています!!

※来て下さったお客様の小説は拝見させていただきたいです。小説読むのが大大大好きなので!!小説のタイトルを教えていただけると、とても嬉しいです。

あらすじ>>51
山下愁様に書いていただいた紹介文です!!
だいぶ話が進んできたので、こんなに読めないと思った人はあらすじを読んでいただければ分かると思います。
山下様、本当にありがとうございます。


〜story〜

プロローグ 楓編 >>1 天界編 >>2

第一章 過去からの逃れと二度目の出逢い 第一話>>3 第二話>>4 第三話>>6 第四話>>8 第五話>>10 第六話>>16 第七話>>21 第八話>>24

第二章 ただ誰も傷つけたくなくて 第一話>>28 第二話>>31 第三話>>34 第四話>>35 第五話>>38 第六話>>39 第七話>>40 第八話>>41 第九話>>42 第十話>>47 第十一話>>48 第十二話>>49 第十三話>>50

第三章 途切れない導きの連鎖 第一話>>53 第二話>>54 第三話>>55 第四話>>57 第五話>>59 第六話>>60 第七話>>65 第八話>>68 第九話>>69 第十話>>70


*cast*

地上界

神風 楓 huu kamikaze (騎士) >>5

氷崎 由羅 yura koorizaki (主) >>56

金時 時雨 sigure kinntoki (騎士)

春椙 花月 kagetu harusugi (主)

黒田 羽狗 haku kuroda (主)

白川 大牙 taiga sirakawa (騎士)

天界

愛と美の女神 ヴィーナス

天の主神 ジュピター

神々の使いの神 マーキュリー

軍の神 マーズ

天空の神 ウラヌス

農耕の神 サターン

海の神 ネプチューン

 
 ——start—— 2月 19日

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Re: 女神と二人の契約者 —更新— ( No.37 )
日時: 2011/04/02 21:13
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: rLJ4eDXw)



>>月読 愛様

春休みの内に進めておかなくては……と思ってまして(^^ゞ
喜んでもらえた様で嬉しいですww

お褒め言葉ありがとうございます。
そ、そんな……謙遜しすぎですよ!!!!

“思い”と言う言葉は大切になっていくので頭の隅っこにでも置いといてくれると、良いかも知れませんw

是非ともまた来て下さい☆

第二章 ただ誰も傷つけたくなくて (5) ( No.38 )
日時: 2011/04/05 19:59
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: rLJ4eDXw)



楓は路面電車の中から外の景色をぼんやりと、座りながら眺める。車内は土曜日だと言うのに人が疎らにしか乗っていなかった。線路と電車のタイヤが擦れると、時々キィキィと音を鳴らしていた。電車がゆっくりと揺れる度に、楓の体もあわせて揺れる。楓はちらりと一瞬だけ心配そうな視線を由羅のほうに向ける。

「マスター……本当に、一緒に住んでも良いんですか?」

 手摺りに腰をもたれ掛かりながら、楓の右側に立っていた由羅は苦笑いをする。視線は窓の外の景色を見ていたが、横顔でもそれは分かった。

「何度も言うけど大丈夫だよ。あの家は俺一人で住んでるようなものだし」

 楓を安心させるように実に落ち着いた声で話す。しかし、楓は無言になってしまい、少しだけ微笑みながら頷くだけだった。楓はいつまで“嘘”を突き通すのかと由羅の心境を考えてしまう。由羅は気づかれていないと思っているのだろうか。楓はそんな由羅をいつのまにか、じっと見つめてしまっていた。楓の視線に気がついたのか、由羅が顔を楓のほうに向けようとする。しかし停留所を知らせる、若い男の人のアナウンスが車内に響き渡った。そのおかげで由羅は動作を止め、視線を窓に向けた。楓は内心で、安堵の息をもらしていた。

 視線を外の景色に向ければ、辺りは家や小さなお店がちらほらと建ち並んでいるくらいであった。乗ったばかりの頃は家やビル、デパートなどがぎゅうぎゅう詰めに建ち並んでいた。楓にとっては今、自分の瞳に写し出されている自然が多く感じられる景色のほうが好きらしく、口の端をきゅっと上げながら眺めていた。

「マスター、席空いてますし座りましょうよ」

 いつのまにか由羅のほうに視線を向けていた楓は、自分の左側の空いている席を手でアピールする。しかし由羅は、楓に促されても首を横に振り座ろうとはしなかった。楓が何でですか?と聞こうとした時だった。楓達が降りる停留所の名前がアナウンスで流れる。由羅は自然な動作で体の正面をドアに向ける。

「もう着くから大丈夫だよ」

 顔だけを楓に向けながら頬を緩める。楓は忘れていたと言うように、笑っていた。楓も座席からゆっくり立ち上がり、由羅の横に並ぶ。段々と電車の速度が遅くなり、止まりだす。電車が止まった反動で手摺りに捕まってなかった楓は、よろめいた。しかし直ぐに体制を持ち直し、由羅の隣に並び、自分と由羅のドアに写し出されている姿を眺める。そんな初めての体験に楓は、ドキドキしながらも楽しんでいた。

 ドアが錆びれた音を響かせながら、ゆっくりと開く。全部開き終わると由羅は、路面電車に設置されている地面へと続く階段を降りていく。楓も後を追い、これから行く場所を楽しみにしていた。

 楓も由羅の後に追いつき、隣に並ぶ。すると楓がいきなり「あっ!!」と声を上げる。由羅は隣で驚いたように目を丸くしていた。

「マスター、お金払ってませんよ」

 楓が困ったようにうろたえる。そんな楓の様子を由羅はぽかんとした表情で見ていたが、しだいに優しい笑みへと変わっていく。

「大丈夫。楓が追いつく前に俺が二人分払っておいたから」

 由羅はニコッと楓に微笑みかけ、歩みを進める。それを聞いた楓は胸を撫で下ろしホッとした顔を見せる。

「そうなんですか……良かったぁ」

 楓の口からは無意識に内心思っていたことが出てしまう。辺りを見回せば、これといった建物はなく、家がぽつんといくつかあるくらいだった。由羅は目的地へと向け、歩いているのだがその方角の先は全く建物もなく、人も見当たらない。楓はついつい不安になってしまい、きょろきょろとしてしまう。隣にいた楓の異変に気がついたのか、由羅は悪戯をした男の子のような笑みを見せる。

「後少しで着くから。……秘密の場所に」

 由羅の笑みに、楓は眉をひそめ戸惑いながら頷く。どんどん歩んで行けば、家がさらに少なくなりコンクリートではなく砂利道になる。道幅も狭く、由羅の後ろを楓が歩く。視線を道脇に向ければ雑草が覆い茂り、所々にはオレンジや紫の小さい花が見られる。

「なんだかドキドキしてきちゃいました」

 自分の胸に手をあてながら、楓は由羅の後ろ姿に視線をやる。しかし由羅は口を開かず、走り出す。楓は驚きながらも小走りをして由羅を追いかける。しだいに砂利道もなくなり、雑草に覆いつくされている。すると小さい丘のような場所に出る。そして由羅が立ち止まっている場所に楓も並ぶ。

「……どう? 気に入ってくれた?」

 由羅は視線を“それ”に向けたまま楓の反応を待つ。楓はもう開かないと言うくらい、瞳を見開き見つめている。

「黄色い“桜”!! 凄い……輝いてるみたい」

 楓は驚きながらも満面の笑みを見せる。由羅もそんな楓を見て、安心したように、瞳を伏せる。
 この瞬間、風が心地好く吹き渡り、金色に輝く桜を奮わせる。青空と風と桜が程良く混ざり合い、最高のシチュエーションを演じていた。

第二章 ただ誰も傷つけたくなくて (6) ( No.39 )
日時: 2011/04/09 21:29
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: rLJ4eDXw)



金色に輝く桜の花を呆気にとられながら楓は見つめていた。口を開く事はなかったがその面差しからは綺麗な笑みが見られた。それはいつもよりずっと大人びていた。由羅は桜を眺めつつも、横目ではそんな楓をついつい見つめてしまっていた。楓が瞳を閉じ、肺の奥いっぱいまで澄んだ空気を吸い込む。そして瞳を開くと、桜の花々で作られた木陰へと寄って行き大木に触れる。その様子を視界にとらえた由羅もゆっくりと近づいて行く。

「この桜の木、大きいですね」

 楓は大木を優しくさすりながら口を開く。そしてもたれ掛かるようにして、目をゆっくり閉じる。由羅は楓の横に来ると、顔を俯かせ、黙り込む。楓は隣に人の存在を感じたらしく、目を開きぱちくりとしていた。由羅の表情は分からないものの、仕種だけで何か思い出しているのだと感じていた。

「俺は…………!!」

 由羅が話し出そうとした時だった。由羅の瞳が見開かれ、表情は緊迫さを表していた。楓はその様子にいち早く気づき、由羅の視線の先を追った。そして直ぐに楓の表情も、驚きの色へと変わっていく。

「マスター……あれは何ですか!?」

 楓が驚きと唖然さが入り混じった声で呟く。丘の上から少し先を見渡せば、由羅の家がある場所からは少し遠い町並みが壊されているのが分かる。人々は逃げ惑い、混乱している姿も目につく。そしてその悲劇の中央にいたのは……“魔獣”だった。その姿は虎の原形をかろうじて留めているものの、魔力と融合されたためかとても大きく、鎧のような物で体を覆っていた。暴走しているらしく、辺り構わず目の前にある“存在”(もの)を壊していく。

「このままじゃ…………マスターはここにいてください。私は魔獣を止めてきます」

 楓は走りながら振り返り、手短にそれだけを告げると、今来た道を戻ろうとする。しかし、そんな楓の行動を由羅が許すはずがなかった。由羅は俯きながら楓に駆け寄り自分の右手で、細い左腕を思い切り掴む。情景反射で楓は驚いたように勢いよく振り返る。

「もう俺の言葉忘れたの? 命令だ、ここにいろ」

 由羅の声は楓の耳に届いたなかで一番低く、怖かった。決して自分の言った事を変えない……そんな決意もこもった声だった。楓は何も答えられずに俯いていると、腕を掴んでいる由羅の手の力がどんどん強くなり食い込んでくる。楓は視線を腕へと向け、痛いらしく顔を少し歪める。しかしどんなに痛くても、首を縦に振ろうはとしなかった。

「…………ごめんなさい。“守れない”なんて、私には無理なんです。だから私はマスターの命令に従えません」

 楓はその体制のまま深々と腰を折る。由羅はいつまでも頭を上げない楓に、冷たい視線を投げ掛けていた。

「なんで……なんで俺の周りの人達は無茶ばかりするんだよ。」

 由羅は少しだけ手の力を緩ませ、いつになく寂しそうな声になる。楓は「えっ?」と一緒驚いたように声を出してしまう。由羅は楓の反応ではっとした顔になり、視線があった楓の瞳とそらす。楓は意味が分からないらしく困惑した面差しを覗かせている。由羅はそんな楓を見ても唇を結んだまま、開こうとはしない。そんな無言の時間が数分続くと思った時だった。

「大丈夫ですよ。私は……“死んだりしません”から」

 楓はにこやかに微笑みかけ、由羅の右腕に自分の右手を触れる。由羅は瞳を少し潤ませながら、楓をじっと眺める。楓はもう一度、由羅に「大丈夫ですから」と告げる。由羅は諦めたのか力無く腕を掴んでいた手をゆっくりと離す。楓由羅の右手から右手を離し、その手で肩にかけた刀に触れる。由羅はどっと深くため息を吐き、少し困ったように微笑む。

「主の命令に従わない騎士っているんだな。でもこの命令には必ず従え……絶対に“死ぬな”」

 由羅はにニカッと笑いかけ、楓の頭を優しく撫でる。楓は瞳の奥まで見開き嬉しそうに頷く。そう……これが初めて見た由羅の作り笑いではない“笑顔”だった。まだ少し表情は硬いものの、十五歳の少年らしい笑みだった。楓は足を揃え、由羅の真っ正面に立ち向き合う。

「分かりました。必ずやもう一度マスターの側に戻ります」

 楓がまたペコッとお辞儀をすると、由羅は表情を引き締め力強く頷く。楓は頭を上げると迷いもせず、今来た道を走って戻っていった。楓の後ろ姿が見えなくなると由羅は丘の上から、魔獣の姿を憎らしげな目で見ていた。
 そして何の前触れもなしに、右手を上げ空を握り締める。しかし次の瞬間に開いたその手の平には白く輝く小さい何かが浮いていた。由羅がその光景に少し頬を緩ませるとそれは消えてしまっていた。そして目を閉じ深呼吸をゆっくりする。目を開いた時の由羅の顔は、とても神々しく、瞳には一天の陰りもなく決意に満ち溢れていた。

「この力が役に立つかもな。だったら俺も行かなきゃ…………誰も奪わせない」

 由羅は振り返り楓の後を足取りを大きくしながら追って行った。輝かしく咲き誇る黄金の桜は二人の救済者の後ろ姿を、最後まで見届けていた。

第二章 ただ誰も傷つけたくなくて (7) ( No.40 )
日時: 2011/04/17 16:08
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: rLJ4eDXw)



「……あの威力何とかなりませんかね?」

 そんな屈託のないことをもらしながら、楓は血のついた口元を手の甲で拭う。由羅が追ってきていることを知らない楓は、一人で魔獣に立ち向かっていた。周りの者達は逃げ切ったあとのようで、辺りは建物の残骸が広がっていた。そんな中に幼い少女と大きい獣が向き合い、戦っていた。獣は楓を敵だと見なしたようで、先程から踏み付けようとしたり、手で払いのけようとしている。しかし、楓は運動神経が飛び抜けて良いため魔獣の攻撃もあっさりかわしていた。

「……私は早く戻らないとなんで、消えて下さい!!」

 楓は肩にかけてある鞘に手を伸ばし、おもむろに長剣を抜く。楓の手に握られた長剣は柄の部分が鉛のような銀色に輝き、色々な細工が施してある。そして空を切り裂きそうな程、鋭い剣先はぎらぎらと太陽の日差しを反射して光っていた。
 楓は右手に長剣を持ち、今まで以上の速さで魔獣の懐まで駆けていく。そして人並み以上の高さまで跳ねると長剣を上にかかげ、魔獣に振り落とそうとする。

「これで終わりです!!」

 楓は掛け声と共に魔獣を切り裂いた……はずだった。

「…………嘘!! なんで、かすり傷一つ出来てないの!?」

 楓は反対側に着地をし、振り返って見たがそこには無傷の固い鎧が鈍く光っていた。鎧を身に纏っていた魔獣は微動だにせず、吠えていた。楓は驚いていたが、大分体力を使ったためか息切れが激しくなっていた。魔獣はゆっくりと振り返り、真っ赤に燃えるような眼差しで楓を見る。楓は殺気が強くなったのを感じたらしく足をじりじりと下げる。すると魔獣は楓の異変に気がつき、勢いよく地を蹴り、躊躇いもなく右前足で楓を吹っ飛ばす。

「っつあぁぁ…………」

 数メートル先に飛ばされた楓は地面にたたき付けられる。その影響で顔に切り傷ができ、血がじわじわと浮き上がる。しかしそれ以上に魔獣の爪で引き裂かれた右肩は、血がどくどくと溢れ、動かすにはきつそうだった。

「……こんなに強いなんて誤算でしたね」

 余裕はないはずなのに楓の表情からは笑みが見え隠れする。この笑みの意味は、楓にしか分からないであろう。右腕をだらりと下げながらも顔をしかめるだけで、楓はふらつきながら立ち上がる。少し俯いていた顔を上げれば、そこにはまだ鋭い眼差しがあった。そしてかたかたと震える左手だけで長剣を構え、最初よりは遅くなったものの、魔獣の元へ走って行く。

「私はまだ死ねない。この約束だけは絶対に守りたいの!!」

 楓はいつも以上に大きい叫び声を上げる。その声に反応したかのように、魔獣は体制を楓の方に向ける。魔獣は余裕なのか大きく欠伸をする。そんな魔獣の仕草を内心いらいらと感じながらも、油断は全くできなかった。
 魔獣が右前足を動かした瞬間楓は何か気がついたのか、はっとした表情になる。そしてさっきの少し引き攣った笑みとは違い、少し余裕な笑みを浮かべた。魔獣がどんどん加速してくるのにもかかわらず、楓は目を閉じゆっくり深呼吸をしていた。

「貴方の弱点分かりました。これならどうですか?」

 魔獣がまたも右前足で楓をさっきよりも遠くへ飛ばそうとした時だった。楓は目をパチッと開き、魔獣の攻撃をあっさりと右上に少し跳ねる。魔獣の足は空気しか捕らえる事が出来ず、少し困惑したような表情を見せきょろきょろとしている。

「どうですか? これは痛いはずですよね……」

 楓が着地したのは魔獣の右前足の側で魔獣の視界からは全く見えない場所にいた。その声で楓の位置が分かったのか、また右前足を上げようとする。しかし楓はそれを見逃さず、長剣の刃を下に向けたまま勢いよく振り下ろす。

「ウオオォォォォォォォォ」

 その瞬間痛々しい雄叫びが空を切り裂くかのように、辺り一面に響き渡る。魔獣の右前足には楓の長剣が刺さり、血が地面に飛び散り今も溢れ出ている。楓は雄叫びを間近で聞いていたためか五月蝿そうに、それでいてどこか辛そうに顔を歪めていた。

「……貴方の弱点は“鎧”なんですよ。体は覆われていても、足の甲だけはそれがついていなかった。足を狙えと言われてるようなものです。それに足を動かすことが出来なければあの早さの動きは、不可能でしょう」

 楓は左手で強く柄を握り、長剣を引き抜く。その顔は俯いていて表情は分からなかったが、頬には何か光るものが見えた。楓が何歩か後ろへ下がった時、魔獣は四本の足の内の一本を失いバランスが崩れ、前のめりに倒れ込んだ。「ドスン」と辺りに音と震動が伝わっ行く。近くにいた楓はその一部始終を相変わらず俯いたまま見ていた。

「…………貴方は悪くないのに……ごめんね」

 楓の口から溢れ出るのは“謝罪”の言葉だけだった。そして怒りの矛先は魔獣を造った“魔術者”へと向けられた。楓はこの時気づいていたのだろうか……いや、気付いていなかったであろう…………“魔術者”が数メートル先にいた事に。

第二章 ただ誰も傷つけたくなくて (8) ( No.41 )
日時: 2011/04/29 21:13
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: rLJ4eDXw)



「あちゃぁ……殺られちゃったよ」

 まだ倒壊していない建物の影から、青いジーンズを履き、派手な柄のTシャツに身を包んだ情けない少年の声が無惨にも響き渡る。楓がいる場所からは数十メートル離れ、建物が視角で見えない。おもむろに、先程とは違う黒い帽子を深めにかぶりカーキ色の短パン、こちらはシンプルな白いパーカーを着ているあくまで冷静な少年がぼそりと、口をあまり開かずに呟く。

「……だってあれ……“あの”神風楓だ。あれだけの魔獣じゃ倒せて当たり前だろ?」

 語尾は疑問形だったが、ほとんど断定したようにも聞こえる口調だった。冷静な少し長めの明るい茶髪の少年はあたふたしている漆黒のツンツンな黒髪の少年に耳打ちをする。黒髪の少年は一瞬肩をビクリと震わしたが、大人しくその内容に耳を傾けていた。しかし、吐息がかかるらしく少しくすぐったそう肩に力を入れ、首をすくめている。

「あの魔力普段の10%のくせに……羽狗、お前まだ“いける”よな?」

 茶髪の少年は呆れたように羽狗に語りかける。当の本人は「ちぇっ」と軽く舌打ちをする。自分にとって不都合なのか、唇を尖んがらせ頬を膨らませている。羽狗は従いたくないらしく、自分の肩に乗せられていた茶髪の少年の左手を右手で乱雑に払い落とす。

「そりゃそうだけどさぁ……魔力あんまし使いたくねぇんだよ」

 依然頬を膨らせたまま、羽狗はぶつくさと文句を言っている。茶髪の少年は深くため息をつき、一瞬目を閉じる。そして次に開いた時の目は恐ろしい程鋭く、冷たくまるで凍っているようだった。羽狗はその“目”に気がつき、瞳の奥いっぱいまで瞳孔を開く。恐怖で身体が支配され、指一本を動かすことすらできない。

「……羽狗、出来るよな? お前は俺の騎士で…………それともあの時の約束破る?」

「ち、違う!! そういう訳じゃ…………」

 さっきとはまた違うようにうろたえている。羽狗は目を少年とあわせようとせず、斜め右下の方に視線をおくっていた。視線の先には建物の影になっている場所に咲いている、小さな血のように赤い花があった。

「……分かったよ、大牙」

 仕方なくそう言ったのか、納得のいかない表情をしていた。おそらく大牙は気づいたであろうが、目の端だけでその様子を留めておいた。相変わらず視線を花に向けている羽狗の目は、花よりは薄いが淡い聡明な紅色だった。しかし今は時折、その瞳に靄のような影が見え隠れする。まるで嫌な記憶を無理矢理忘れようとしている、そんな様子にもとらえる事が出来た。だが所詮それは絵空事で、羽狗にしか分からない事だった。もし分かる人がいたら……それは…………

「……でさぁ、俺が神風楓と戦うの? それとも魔獣に魔力を増幅させればいいの? どっちなわけ?」

 羽狗は決心がついたのか、目を大牙の方に向けて口を開く。その様子に大牙はにこりともせず、こうなると分かっていたかの様に澄んだ鋭い視線を羽狗へとおくる。そしてようやく口の端をほんの少しだけ上げる。

「そうだな……まだあいつと関わるには早すぎる。魔獣に魔力をさっきの倍注入しろ」

 羽狗は顎に手をあて、考えているようなそぶりを見せる。羽狗は顔を引き攣らせ、それは無理だと言葉が喉まで出かかったが不意に“記憶”が頭を過ぎり、飲み込んだ。……自分が大牙の“騎士”だからとか関係なくあの事が事実である限り、逆らえはしないのだから。

「あぁ……分かった。ここからの距離なら問題なく出来る」

 羽狗は今までとは違う落ち着いた低い声のトーンに変わる。大牙は頷くだけだったが、その表情からは不気味な笑みが見られた。少年にしては大人過ぎる笑みだったのだ。
その大牙の変化に気付いたのか、羽狗は軽く鼻であしらい自分のするべき事を、実行に移そうとする。右腕を前に伸ばし、左手は右腕を強く握る。そして顔を俯かせ、瞳をゆっくりと閉じていく。

「陰の魔術……解放!!」

 羽狗は凛々しい声を張り上げて空に響き渡るくらいに叫ぶ。そして叫び声と共に、羽狗の右手に黒い靄のような球体が浮かび上がる。最初は弱々しかったがそれは段々と確かな形へとなっていく。そして数十秒後には黒い靄は人の顔の大きさまでになっていた。羽狗はその様子に戸惑う事もなく、靄を見つめている。

「…………お前の持ち主の名において命令を下す。あの魔術に魔力を注入しろ」

 静かな声で少し叫ぶと靄は砂のようにサラサラと崩れ落ち、羽狗の右腕に纏わり付く。大牙は口を開くこともなかったが心底退屈そうに、壁に背をもたれ掛けながらその様子を眺めていた。眠くなったのか、顔を俯かせうたた寝をしている。

「……注入するぞ、さっきの半分となると神風楓に命の保証は出来ないが良いんだな?」

  顔だけを大牙の方に向けながら冷酷な表情で問う。おちゃらけた羽狗の裏には今の羽狗が存在していた。うたた寝していた大牙も流石に羽狗が“本気”だという事に気がつき、唇を緩く結び、わずかな隙間から声を発する。

「良いよ。あいつ殺しちゃっても」

 大牙の何の躊躇もしないで言った言葉が、その場には無惨にも取り残されていた。羽狗はそんな大牙の言い方が何故か意外だったのか、少し驚いたようにしばらく目を丸くしていた。そして何かを言おうと口を開くがすぐに唇をきつく結び、目を細める。しかし、それも数秒で元の表情に戻る。

「んじゃ……いきますか」

 楓が知らない内に破滅へのタイムリミットはじわじわと近付いていた。


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