コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】
日時: 2015/08/05 15:47
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=39198

 こんにちは、またははじめまして。
 朔良サクラと申します。
 
 溜まった短編案や長編になりそうでならなかったもの、ボツ案を書きたい! と思いスレ立てしました。

 色々な形の恋愛を中心に書いていきたいと思います。
 更新は遅めです。1週間に1〜2回。忙しくなれば2週間に1回程。

 ちなみにタイトルは≪とても甘い恋愛:甘美≫と≪酸味も苦味もある恋愛:果実≫をかけたものです。〜微かな吐息〜はインスピです、はい。

 目標である「朔良の世界に浸ってもらう」を胸に頑張っていきたいと思います! 
 

 一つでも貴方様に気に入って頂ける作品がありますように。


【contents】
「漆黒の蝶に酔いしれて」>>01
 『こんな自由人に恋に落ちるなんて、私も相当おかしいみたい』
「紅い印」  >>07
 『首筋の紅い印。触れる度に君を思い出す』
「束縛と独占」>>11
 『私だけの君じゃなきゃ嫌なのに』
「妖艶な薫」>>12
 『彼女のその顔は僕だけに。彼女の身体も僕だけに』
「戸惑い」>>21
 『期待させないで。戸惑わせないで。君の好きな人は私じゃない……そう、思ってた』
「銀の狐」>>25
 『人間なんて、アヤカシにとっては敵なのに、どうして記憶に残るのだろう』
「泡沫—うたかた—」>>26
 『もう少しだけ、貴女を想う泡沫の時間を私に下さい』
「君にかまってほしい」>>30
 『五分待って? 長い! 今かまえ馬鹿!』
「嘘つき男は女に堕ちていく」>>33
 『本当に嘘が上手いのは女なのよ?』
「心の中で叫んでる」>>37
 『彼を想って泣く君がとても綺麗で、愛おしくて、僕は』
「それだけの関係」>>41
 『一瞬だけのキスの時間。それが私のぬくもりになる』
「恋とか愛とか執事とか」>>42
 『その視線に犯される。貴方なんかに堕ちるわけがないのに——』
「おやすみ、僕の仔猫」>>48
 『私を刺激のある世界へ連れ去って』
「あなたでいいから」>>51
 『あなたでいいから、私を抱き締めて』
「同化して消えてしまう、」>>52
 『ゆらゆら揺れて、貴方と』
「くちづけ」>>55
 『貴方に愛される為に、くちづけは与えない』
「海月—かいげつ—」>>62
 『海に輝く大きな月が、僕を呼んでいるみたいだから』
「隣の彼は」>>64
 『制服を脱いだら、私はもう“生徒”じゃない』
「優しい嘘なんて」>>65
 『そんな残酷なキスを残さないで』
「海底のエレジー」>>68 >>71
 『いつか貴方に届けばいい、この愛の詩が』
「ひとりぼっち」>>74
 『ひとりぼっちの寂しい女の独り言です』
「キスとチョーカー」>>77
 『貴方になら窒息死されたっていいと思えるの』
「儚くて、恋しくて」>>78
 『愛に飢えた獣たちの如く』
「ロリポップ」>>83 >>84
 『ずっとずっとだいすきだった。これからも大好きだよ』
「カラメルたっぷりプリン」>>85
 『私の極上プリンを食べるなんて切腹覚悟の上での行動か!』
「愛を込めて、君に。さよなら、私。」>>89
 『この人を抱き締める権利は私にないから』
「今夜、君のぬくもりに抱かれながら」>>90
 『君のぬくもりに抱かれる夜がこんなに幸せだなんて知らなかった』
「aitai……」>>93
 『私と貴方の“aitai”は違うの?』
「生徒会長の犬」>>96
 『恋人兼犬って……え?』
「血染めのドレスもよく似合い、」>>100 >>101
 『甘くてとろける、その感覚に捕らわれる』
「それでも、好きだ」>>104
 『君が僕を見てくれなくても、好きだ』
「one way」>>105
 『始まらないのに終わらない恋なんていらない』
「詩集め」>>108
 『*星空にお願い *すーぱーびーむ *ギルティ *そうなんでしょ? *捨てないで *タカラモノ *ポラリス』
「狂愛シンドローム」>>111
 『ずっとこの愛の監獄の中で、僕のためだけに呼吸をして』
「Please stay with me」>>132
 『兄妹でも愛してる。離れないでほしいのに』
「星屑メランコリー」>>133
 『微熱を帯びた記憶に寄り添いながら、前を向く』



「Thank you!——作品数三十突破——」>>119
 『紅い印〜Afterstory〜』 >>120
 『恋とか愛とか執事とか』 >>121
 『生徒会長の犬』     >>124
 『君にかまってほしい』  >>125



【Visitor】
いろはうた様
珠紀様
暁様
ミム様
御子柴様
ゴマ猫様
noa様
緑茶様
苑様
莉遠様 
赤い海の住人様
妖狐様
村雨様
はるた様
街角乙女様 
錦歌赤兎様 
夕陽様
蒼様 
miru*様

 

 
 コメント下さった皆様、ありがとうございます!
 基本的にはコメントを下さった作者様の作品にも伺わせて頂いてます。 
 

 URLは同時進行中の長編
「狼どもと同居中。〜狼さんちの赤ずきん〜」です。
 


 

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28



Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】 ( No.100 )
日時: 2015/01/06 19:20
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

「血染めのドレスもよく似合い、」


 その紅い瞳に、その鋭い牙に、惹かれてしまったの。
 私の純白のドレスも真っ赤な血で汚してほしいの。

 広い広い洋館の大学の中の鍵のかかった一室。グランドピアノが置かれているスタジオの中に響く不協和音。奏でているのではなく、ただ鳴らしているだけの幾つもの音が意味もない羅列を並べる。
 不協和音の終幕はストレス発散しきったような勢いで迎える。それでも長年ピアノをやっているからか自然に上手く閉めてしまうことが逆に腹を立たせる。

「……どうして、綺麗に終わっちゃうの」

 感覚で覚えた指が、どの和音が綺麗になるのかを知っている。それなのに汚い音楽を生み出すことができないもどかしさにイライラした。
 溜息をついたと同時にやる気がない拍手が聞こえた。私は反射的に扉の方を見る。そこには半分ほど開いた扉にもたれかかっている見知らぬ一人のやたらと顔の整った青年が立っていた。

「……不協和音を奏でるんだな」
「……貴方、どうやって入ってきたの? 鍵は閉めていたはずだけど」
「どうやってでもいいだろ」

 青年はゆっくりとピアノに近づいてくる。私は椅子から立ち上がって身構えた。
 彼の紅い瞳はまるで血のようだった。獲物を狩る前の威嚇を感じさせて恐ろしくさせる。彼の手がこちらに伸びてくる。私は震える身体を悟られないように右手を左腕に回し、全身を守るようにした。
 彼はそんな私を見て笑い、左手で鍵盤を鳴らした。そこから両手を伸ばし、かろやかに指を動かす。氷のように冷たくて静寂を感じさせる音楽だった。とても綺麗なのに時々耳を抉るような不協和音が奏でられる。どこかグロテスクな薫を漂わせる音だった。

「不協和音の旋律なんて、心が汚れている人じゃないと弾けないよ」

 彼はそう言って自嘲するように笑い、真っ直ぐに私の瞳を射抜いた。魂を持っていかれたように動けなくなった。
 その瞬間、首筋に冷たい何かが触れた。その感触で身体の自由を得たが、目の前に彼はいない。そして首筋に感じる冷たいものを背中に回った彼の指先なのだと気付いた。いつの間に私の背中に回ったのだろうか。一瞬気を取られた隙に後ろに回るなんてほぼ不可能だ。

「……何をしたの?」 
「別に何も? ただ、触れているだけさ」

 そう言いながら彼の細い指が私の首筋を這っていく。ゆっくり、ゆっくりと人差指で上に這っていくのだ。私は戸惑いと恐ろしさで呼吸がままならなかった。彼の冷たい指が私の唇に触れる。一瞬動きが止まるが、すぐにそのまま彼の人差指ではなく右手が私の唇を覆った。

「ふうっ……うー!」
「もっと色気ある声出せないわけ? ああ、でもお前の香りは誘われるな……」

 彼の吐息が首筋にかかる。身体全身が震え上げる。この人に喰われてしまうのではないか、という感覚に襲われて。
 瞬間、首筋に熱い濡れたものを感じた。彼の舌が触れているのだと感じると顔が真っ赤に染まった。

「甘くてとろける香りがする……」

 彼の艶めいた声がスタジオに響く。口と身体を抑えつけている手も、首に触れる熱い舌と吐息も私を捕えたように動かせなくさせる。
 このままどこか知らない場所へ連れて行かれるのではないかと思った時、扉を思い切り叩く音がした。それに気付いて彼は私の身体から離れた。

「澄香お嬢様! もうピアノを弾く時間は終わりましたよ。次は英会話の先生の元へ行って下さい!」

 私のお世話をしてくれているメイドの声だと気付き、慌てて「今行きます」と声をかけた。

「ちっ……邪魔が入ったか」

 彼はピアノの先にある窓に近寄った。

「な、何して……!」
「またな、澄香」

 そう彼は私の名を呼んで——窓から外へと飛び降りた。
 驚きで声が出なかった。ワンテンポ遅れて窓に近寄ると、下にはもう誰もいなかった。ここは3階。飛び下りれば大怪我、いや運が悪ければ死だってあり得る。

「どういうこと……?」

 彼は「またな」と言って去って行った。
 彼に触れられると甘くてとろけるような感覚に陥る。触れてほしくないのに触れてほしい——私にそんな想いを残して行ってしまった。触れられたところが火傷したように熱い。身体中が疼くのは何故なのだろう。あんな得体も知れない男に触られて、どうして私は「またな」の意味を期待しているのだろう。

Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】【1/6更新】 ( No.101 )
日時: 2015/04/03 10:29
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

「血染めのドレスもよく似合い、2」

 神内財閥は大手医療メーカーを経営している。そんな神内家の一人娘である私、神内澄香は周りに蝶よ花よと育てられてきた。
 ——そして、躾けられてきた。ピアノに茶道、華道、習字や英会話まで一通りにやってきたつもりだ。両親の言うことには何でも従ってきて、従順な「いい子ちゃん」を上手くやってきたと思う。
「どこにお嫁に行っても、どこからか婿を貰っても、いい女性でいなさい」という母の言葉に忠誠を示して生きてきたら、本当にこの時がやってきてしまった。

「——お見合い?」
「そうよ。澄香も十八歳になったことだし、相手はいつも仲良くさせて頂いている新城さんの息子さんなのよ」
「十八歳になったって……まだ十八歳なんですよ」
「いいじゃない。法律では許されているんだから」

 そういう問題ではない、と言っても何も変わらないだろう。私は心の中で溜息をついてから精一杯の笑顔を作って母に言った。

「そうですね。お見合い、お受けします」

 母は満面の笑みで頷いた。




 夜になり、たくさんのお稽古で疲れた身体をベッドに投げるように飛び込んだ。
 こんな風に誰かに操られて生きている身体なんて、私のモノではない。両親と立場に拘束されているただのお人形でしかない。それならいっそ、こんな身体どこかに捨ててしまおうか。

「——ならその身体、俺に寄こせよ」

 そんな声が聞こえてすぐ、私の身体の背中に重みがかかった。その触り方や声で正体が分かってしまう。私に甘い麻痺を残していった朝の男だと。

「は、離してっ……」
「どうして? いらないんだろ、その身体。それなら俺のモノになれよ」

 どうして、この男は私が心の中で思ったことが分かるのだろう。不思議なオーラを放った人だとは思っていたけれど、これでは超能力者の類になってしまう。
 うつ伏せになり、背中に彼の重みがあるため動くことができない。やめて、と言っても彼は私を離しはしない。
 ——それなのに、どうして嫌だと思えないんだろうか。ただ、願っている。この人が誰も私を知らないところへ連れて行ってくれたらいいのに、と。
 彼が背中から朝会った時のように首に触れる。私はその瞬間彼の動きを止めるように声を上げた。

「待って! 貴方は……何者なの?」
「俺か? 俺は……」

 少しの沈黙が生まれる。扉が閉まり、静寂の中にいるとここだけ妙に現実感がある。早く口を開いてくれればいいのにと思った。

「——しがないヴァンパイアさ」
「え? ひ、あっ?!」

 瞬間、首筋に鈍い痛みが走った。そこから全身へと広がっていく甘美な感覚。堕ちるのが怖くて無意識に顔を手で隠していたのだろう。彼が私の腕の自由を奪った。

「何するのっ……」
「聞かせて、お前の声。見せて、お前の顔。感じさせて……お前の全部」

 そう楽しげに言う彼が憎いけれど、憎みきれない。このままこの感覚の中に浸っていたいと思う。身体全身に彼の熱が伝わってくるようだった。身体を少しでもよじらすと壊れてしまうのではないかという恐怖。それでもいいと思ってしまう恐怖が私を襲う。この人はヴァンパイアなのだと嫌でも感じてしまう。
 

「あ、あ……」
「何? もう限界?」

 彼がそう言って私の身体から離れる。口元を軽く拭ってから私を見つめた。真っ白なシーツには紅い花弁が落ちていた。
 私の身体はこのまま溶けてしまうのではないかというくらいに力が入らない。

「さて、食事も終えたことだし俺は帰るよ」

 そう言って踵を返す彼を呼び止めた。力が入らない身体に鞭を打って無理やり立たせる。

「私にこんなことをした責任をどうやって取るの?」

 彼は一瞬驚きを見せたが、にやりと笑ってゆっくりと私に近付いた。崩れ落ちて行く私の体を支えながら顔を近くに寄せて言った。

「覚悟があるのなら来いよ。俺の餌として生きて絶えろ。代わりに死ぬまで愛してやる」

 その言葉を、本当は待ってた。

「……貴方の名前は?」
「葉月。よろしく、澄香」
 
 葉月は私を抱き抱えて窓に近寄った。
 このまま私をどこかに連れて行って。誰も知らない、自由な場所へ。
 純白なままの何も知らない私なんかいらない。
 赤く、紅く染まりながら貴方の隣にいたい。


**********
*神内澄香 Sumika Kamiuchi
*葉月 Hazuki

 何となく雰囲気が危険になってしまった……
 ヴァンパイアを書くということでディアラバやり返しました。ええ、幸せな時間を過ごしました←
 
 この作品でスレ100突破、作品数30突破になりましたー!
 今まで読んで下さった方々本当にありがとうございました。
 今後とも頑張ります! 

*この作品のタイトルは根緒様に頂いたものです。ありがとうございます!

Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】【1/6更新】 ( No.102 )
日時: 2015/01/11 11:55
名前: 夕陽 (ID: jP/CIWxs)

こんにちは。

どれも素敵な短編ですごいと思いました!

中でも一番すきなのは結構前ですが「君にかまってほしい」です。
結局一枚上手なのは女の子の方というのが私的に好きでしたw

これからも更新がんばってください!

Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】【1/6更新】 ( No.103 )
日時: 2015/01/18 12:58
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

夕陽さん
 返信たいへん遅くなってしまい申し訳ありません!
 スライディング土下座で訪問感謝致します←
 
 素敵な短編だなんて嬉しいです!///
 そう言って頂けて本望です。

「君にかまってほしい」を気に入って下さったんですね。
 男の子の強気な部分と可愛い部分を両方書きたい! と思って作った作品です。
 雫は今後も彼を振り回していくのだと思いますw

 更新頑張りますね。今日更新しますので!
 コメントありがとうございました<m(__)m>

Re: 甘美な果実〜微かな吐息〜【短編集】【1/6更新】 ( No.104 )
日時: 2015/01/18 13:52
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

 「それでも、好きだ」



 たとえ、君が僕のことを好きでなかったとしても。

 俺の好きな人には好きな人がいる。それは俺ではない人物で、俺から見ても好印象しか持てない格好いい人だ。勝ち目がないとは分かっていながらも俺は心の中で想いを育んでいた。
 そんな好きな人の好きな人——綾瀬に彼女が出来たらしい。その彼女もとてもいい人で校内では「最強カップル」なんて呼ばれている。そんなのクソくらえだと思った。俺の好きな人の気持ちを知らないとはいえ、酷い仕打ちだ。好きな人の悲しい顔を見るほど哀しいことはない。

 ——そんなことを考えながら俺は放課後に月歩の教室に向かった。

「……月歩? 帰らないのか?」

 教室に足を踏み入れると、真っ赤な夕陽の光が、席に座って一人窓の先を見ながらたそがれる月歩を照らしていた。憂いを帯びた表情は綾瀬の面影を探しているのか今にも涙が零れてきそうだった。

「……帰るけど、もう少し」

 月歩はこちらを見ずに小さくそう答えた。俺は月歩の一つ後ろの席に座った。何も言わないでいると月歩が震える声で言葉を少し詰まらせながら話し始めた。

「綾瀬君、彼女出来ちゃったんだね……当然か、あんな格好いいんもん。素敵な彼女が出来るよね」
「月歩だって綺麗だし」

 そう言うと、月歩は自嘲するように微笑んで初めてこちらを向いてくれた。目は赤く腫れていて、俺が来るまで泣いていたのだろうと思った。

「ありがと、悠は優しいね」

 俺が本当にそう思っていることに気付いていないのだろう。適当にあしらわれる。俺は少しムキになって声を張り上げた。

「嘘じゃねえからな。綺麗で、可愛くて脆くていつも守りたいと思ってる」

 月歩が戸惑うようにこちらを見上げる。何が起こっているのか分からない状況だろう。俺もよく分かっていない。口に出すつもりなんてなかったのに。しかし、今の月歩の心の隙に付け込めば月歩は俺に振り向いてくれるかもしれない。そう考えてから月歩の真っ赤になった目を見た。目を真っ赤して泣くほど好きな人に失恋して自分に振り向いてくれるとは思えない。胸が締め付けられる痛みにこらえながら俺は満面の笑みを作った。

「……俺、ずっと月歩のこと好きだったんだ」
「え……」

 月歩が心底驚いた顔をしてから、手を口元に持っていく。少し考えるような素振りをしてから勢いよく頭を下げた。

「悠、ごめん……! 私、悠の前で綾瀬君の話たくさんしてた……!」
「いいんだよ、ただ言いたかっただけだから」
「……ごめんね、私、悠のことは……」

 本当に申し訳そうな顔をしながら月歩は悲しい顔をした。
 違う、違うんだ。そんな顔をしてほしかったわけじゃない。
 それなら、嘘を吐こう。君のためならどんな嘘でも出てくるよ。

「言っただろ『好きだった』って。過去形だよ。今は月歩は大事な大事な友達だ」

 月歩が少しためらうように「そうなの?」と聞いた。俺はゆっくりと頷く。

「月歩が泣きたいときに隣にいられる友達が一番心地いいんだ」

 そう言った途端、月歩が俺の前で初めて涙を流した。俯きながら微かな嗚咽を漏らす。俺は迷いながらも月歩の頭に自分の手を置いた。

「友達」なんて綺麗事を言いながら、本当は心のどこかで月歩の想いが果てることを祈っているんだ。俺に抱きついてくれるような存在になってほしい、と。分かっている。そんなことが叶うはずないと。それでも、淡い望みを持つことの代償が失恋なら安いものだろう。

 たとえどんなに虚しい恋でも、それでも、君が好きだ。



**********
*立山悠 Haruka Tateyama
*黒木月歩 Tsukiho Kuroki
*綾瀬雅則 Masanori Ayase

 月歩は罪な女ですわ……
 悠は祈ることしか出来なくて、それでも振り向いてはくれなくて。

 好きな人と仲良くなると一番の友達になってしまって恋愛相談とか受けたりしますよね。そうなると、イライラするのに彼と関わりたいからアドバイスとかしちゃって。
「友達」で満足しているはずなのに友達の中で一番になりたいって思っちゃったり。
 恋愛には痛みがつきものですね……。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28



この掲示板は過去ログ化されています。