コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- _ほしふるまち 【短編集】
- 日時: 2015/08/30 21:19
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: HTruCSoB)
( 空には、こんなに星があるのに )
こんにちは、村雨と申します(^ω^)
最近無性に文章を書きたくなって、スレを立てましたv
多分恋愛ものが多くなると思います(
コメントやアドバイスはいつでも大歓迎です∀
***novel***
【 金魚の飼育係 】>>2
【 キラキラ 】>>4
【 Love Letter 】>>7
【 星明かりが眩しいから、 】>>8
【 別れ話 】>>9
【 愛を晒せ 】>>10
【 ラブリーライアー 】>>15
【 足立くん征服計画 】>>16-17
【 恋路は近くにありて 】>>22-23
【 浴衣と天邪鬼 】>>27
【 FLASH 】>>31-32
【 あいつは××のことが好き。 】>>33 >>
【 豆太と颯太 】>>34 >>37
【 毒針に口付けを 】>>38-39
【 あめふり 】>>40
【 立ち入り禁止区域 】>>43-44
【 泣いてもいいですか 】>>47
【 歩道橋 】>>52
【 ある日美少女に告白されたら 】>>53-54 >>56
【 じめじめ 】>>63-64
【 Good Boy…? 】>>65-67
【 元、彼氏 】>>70
【 部長と副部長 】>>73
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【 鳥籠の愛 】>>79
【 私、先輩を襲います 】>>80-81
***お客様***
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- Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.62 )
- 日時: 2015/03/21 13:27
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: SiiKM6TV)
>>60
おおおお久しぶりです朔良さま!
また来て頂けるとは…嬉しいです(^ω^*)
青柳くんが可愛いだなんてありがとうございますb
きっと彼もにやにやしながら喜んでいると思います←
完璧ではないけれど一途な人って好感がもてるので私も好きですねv
二人が最終的にどうなるのかまでは書ききれませんでしたが、そう言う風に考えて頂けたのなら嬉しいです+*
更新頑張ります!
朔良さまの小説も続き楽しみに待ってます∀
>>61
初めまして、蒼さまっ(・ω・)
コメント貰えて嬉しいです!
ぜぜ全部読んでくださったのですか!?
分量多いのに…ありがとうございます!
確かに二作とも片思いのお話ですねー
私も失恋話はけっこう好きだったりします((
このスレでも切ない感じのお話は心なしか多くなっている気がします←
そうですね、ハッピーエンドの方が読後感は良くなると思うのですが…でもついつい切ないラストにしてしまうこともあります(;
なるほど、微妙な距離感で終わるというのも良いですね! 今度書いてみたいですb
ありがとうございます、糧にして更新頑張ります(^ω^)
またいつでもお越し下さい!
- Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.63 )
- 日時: 2015/03/27 10:08
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: SiiKM6TV)
【 じめじめ 】1/2
気になる人がいる。私の隣の席で黙々と鉛筆を走らせている男子、如月崇雄(きさらぎ たかお)だ。
高校三年になってから早三ヶ月、古典や数学の先生の口から「受験」という単語が出てくる回数が増えた。そしてその度に私は、何か漠然とした不安感に包まれるのである。その一方で、美術の授業は気が楽だ。ただ鉛筆をせっせと動かしていればいいのだから。
今の課題は黒鉛筆一本でA3用紙に「身近な生き物」を描くこと。うちで飼っているアメリカンショートヘアを描いているのだが、どうも上手くいかない。先週も絵を見た友人に「何それ、寅?」と言われたばかりである。デッサンの才能がないのはいささか残念だけれど、私はこの時間が嫌いではない。
手が疲れたので一度机に鉛筆を置いた。
私の席は一番窓際の列の、前から四番目だ。左を見ると、土を蹴り上げるごとに泥が飛び跳ねるグラウンドで嫌々ながらも持久走をやらされている隣のクラスの人たちを見物することが出来た。さっきの授業までしとしとと降り続いていた雨は、いつのまにか上がっていたようだ。
そして私の右には、相変わらず静かに鉛筆を動かしている如月がいる。
彼はクラスの中で特異な存在だ、と私は勝手に思っている。
如月は特定の仲良しグループというものに属していない。休み時間はスマホをいじり、いつも真面目に授業を受け、昼休みになると一人で教室を出て行く。だからといって人見知りというわけではなさそうだ。私は彼がクラスの中心にいる明るい男子たちと楽しそうに騒いでいるところを何度か見たことがあるし、クラス一大人しい女子と仲良く喋っているところも見たことがある。
他に私が如月について知っていることと言えば、彼が生物部員ということくらいだ。このことは四月の自己紹介で彼が言っていた。どうやら一つ上の先輩たちが卒業してしまった今、部員は如月一人らしい。そんな状態で部活として成立していること自体が不思議だった。
作業に戻ろうと思った。アメリカンショートヘアの耳の部分を修正しようと思い、ペンケースから消しゴムを手に取る、つもりだった。────消しゴムは私の手から軽やかに滑り落ち、床をころころと転がっていく。そして如月の足元で、止まった。
「あ」
「ごめん、それ取ってくれない?」
私は消しゴムを指差して言う。
如月はまっすぐに私を見つめた後、HBの鉛筆を机において消しゴムを拾ってくれた。
「はい」
「ありがと。ごめんねー、わざわざ」
私は笑顔を作った。
そういえば、如月と話したのは初めてだ。正面からまじまじと顔を見たのも初めてだ。彼の表情は人を寄せ付けない雰囲気を纏っていなかった。でもかといって親しみも感じられない。私はあまりこういう類の人に出会ったことがない。
如月の画用紙には、細長い物体が三つ描かれている。それぞれに目らしきものが近接して二つずつ付いていて、頭と思しき部分は少し太くなっている。それは海で泳ぐカレイにしては細すぎるような気がしたし、地面を這う芋虫にしては目の位置が奇妙だった。……何じゃこりゃ。テーマは「身近な生き物」だよね? でも机の端に置かれた見本である写真には、画用紙に描かれている謎の物体とよく似た生物が写っていた。立体感や影の付け方を見る限り、少なくとも私よりは絵のセンスがありそうだ。
視線を感じたためか、不意に如月がこちらに顔を向けた。一瞬びっくりしたが、このまま視線を逸らすとかえって不自然な気がするので話を振ってみる。
「何描いてるの?」
彼は一旦自分の絵に視線を落とし、数秒間沈黙した後に口を開いた。
「プラナリア」
「ぷ、ぷならりあ?」
「違う、プラナリア」
如月はさっきよりもゆっくりと発音する。そして再びHBの鉛筆を手に取った。
「生物部で飼育してるんだ」
*
塾の先生によると、どうやらセンター試験まであと二百日と十日らしい。そんなこと言われても全然ぴんとこないよねー! と隣で笑っていた友人のテキストには、びっしりと細かい書き込みがなされていた。
私だって、そんなの聞いたって実感もへったくれもない。焦燥感も余裕な気持ちも沸いてこない。二百日と十日後、自分が時間に追われながらマークシートをせっせと塗りつぶしている光景を、私は何故だか上手く想像出来ずにいる。
- Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.64 )
- 日時: 2015/03/27 15:47
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: SiiKM6TV)
2/2
*
生物の問題集の課題提出を放ったらかしにしていたのは、クラスで私ただ一人だったようだ。いつもは数名の未提出者がいるものだけれど。皆が受験モードに切り替わっている中、私だけが取り残されているみたいで心にわだかまりを感じた。
幸いにも生物担当の先生は菩薩のように優しい人で、今日の午後六時までに提出すれば皆と同じ扱いにしてくれるという。
先生は職員室か生物教室にいるはずだ。職員室のほうが先生のいる確率は高いような気がした。でも生物教室に行けば生物部員である如月に会えるかもしれないという期待が頭をかすめ、私の足は生物教室へと向かっていた。まず生物教室に行って、もし先生がいなかったら職員室に行くことにしよう。
私は生物教室の扉を開けた。
先生の姿は見当たらなかったが、そこには案の定如月がいた。
「如月」
「あ、春沢」
如月が顔を上げる。彼に名前を呼ばれたのは初めてだった。自分の名前が認知されていることが確認できて、少し安堵する。
生物教室には横長の机が十個ほど並んでいて、彼は一番扉に近い席にぽつりと一人で座っていた。机の上には水槽が置いてある。
「大竹先生見なかった?」
私は生物担当の先生の名前を出して言う。
「さっき用事があるって言って出て行ったよ。しばらくしたら帰ってくると思うけど」
私は水槽に視線を移した。水が張られたその中には、美術の時間に彼が描いていた芋虫みたいな物体に、よく似た生物が十何匹か泳いでいる。これは、話しかける絶好の機会かもしれない。私の気分は高まった。
「あ、それ。美術の時間に描いてたやつだよね?」
「うん」
「ぷらなりあ」
私は、今度は正確に発音した。
実際に見るプラナリアは親指の爪くらいの大きさに淡い茶色をしていて、薄っぺらかった。呑気に水槽の中をすいすいと泳いでいる。そんなプラナリアたちは勿論、受験の苦しみなんて知らないのだ。ただ泳いでいれば良いだけだなんて、少し羨ましくなる。入れ替わりたいとまでは思わないけれど。
「ノートの提出?」
如月が私の持っていた生物のノートを見て言う。
「そう! 今回未提出なのって私だけなんだよねー。皆、急に真面目になっちゃったみたい」
私は扉近くの壁にもたれて言う。吐き出した言葉は弱弱しく、すぐに空中に消えてしまった。
「ああ、確かに」
如月が笑顔を見せた。彼と話していて初めてのことだった。それはまるで十年来の親友に見せるような親しみある柔和な表情だったので、私は不思議に思った。人を遠ざけているのかと思えば、全てを受け入れるかのようなオープンな雰囲気を醸し出す。少なくとも、今の私はそんな如月の雰囲気が心地よかった。
「そもそも受験って言われたってさあ、何か実感湧かないんだよね。別に将来何をしたいか決まってるわけでもないのに、とりあえず小難しい勉強しなさい、なんて理不尽だよ」
私は独り言のように言った。
如月の表情を窺う。彼は驚いた素振りも呆れた様子も表に出さず、笑顔のままだ。
「そうだね。一理あるかもしれない」
良心的な教師か真面目な友人であれば、きっと私のぼやきに対してもっともらしい説教をしてくれるのだろうが、そんなことをしない如月が今は良い人に見える。自分の言ったことが滅茶苦茶な理屈であるのは分かっている。そんなことをぼやいたところで現状は何も変わらないということも。でも、つい言葉にせずにいられなかったのだ。
「俺だって、まだ将来何をしたいか決まってるわけじゃないし」
その言葉に安堵した。如月も私と同じように考えている部分があるのだと。
「如月の夢は生物学者なんじゃないの?」
そう訊くと、彼は声を出して笑った。
「確かに生物は好きだよ。だから生物部に入ったわけだし……でもそれを専門にして将来やっていける自信はない」
そうして如月は椅子から立ち上がった。
日焼けはしておらず羨ましいくらい色白だけど、身長は高く肩幅も広くて貧弱には見えない。弱みを話しているのに脆弱に思えないのは、親しくもないクラスメイト相手にあっさりとそういう真面目な話を出来る彼のマイペースさ故だろうか。
彼の悩みに対して的確なアドバイスを出来るだけの知識と弁舌力を持っていない私は、彼がそうしたようにやんわりと相槌を打った。
それから私たちはしばらく他愛ない会話を続けた。私は主に受験勉強の虚しさを嘆き、如月は自分の進路についての不安を話す。そしてお互いの告白に対して何ら助言をするでもなく、ただ静かに聞き入れた。それは先生が生物教室に戻ってくるまでの間続いた。
私は一体何をしているのか。親しくもないクラスメイトに向かって────いや、大して親しくないからこそ、この会話は淀みなく成立しているのだ。
*
三日経った放課後、私は生物教室へと向かっていた。
今日はノートの提出はない。生物教室に忘れ物をしたわけでもない。ただ如月と二人で話したいからだ。同じクラスなのにわざわざ放課後の生物教室で話すなんて変だな、とは思うけど。
そういえば今日のホームルームで、五月の模試の結果が返ってきた。成績表の上では、自分の志望校への合格可能性がAからEまでのランクで判定される。周りの友人の一人は「うわ、うちD判定なんだけど」と言って騒ぎ、近くにいたうちの一人が「Dは大丈夫のDだよ!」と言って励ましている。
それならEはどうなるのだろう。ええじゃないかのE、えいもうどうにでもなれ! のE…………どれもいまいちだ。何か他に良い案がないものか、如月に訊いてみよう。
扉についている硝子越しに生物教室の中を窺うと、如月はこの前と同じ席で一冊の本を読んでいるのが目に入った。今日は水槽は見当たらない。本の中身を覗いてみると、英語の参考書のようだった。彼は放課後にひっそりと勉強をしていたのだ。
────急に胃の奥が嫌な感覚になった。
この前は如月と私に似ているところがあるのかもしれないと思って嬉しくなったのに。彼の今の姿は、塾のテキストに大量の書き込みをしている友人を連想させた。鬱屈した気分が頭の中を占領していくようだった。皆が良識ある大人で、私だけが現実の見えていないクソガキなのだろうか。
この三日間、雨は一滴も降っていない。もう梅雨明けらしかった。
廊下側の窓から、完全に乾ききったグラウンドとその上をランニングする陸上部員が見えた。陸上部の三年生は、五月の総体が終わると引退することになっている。だから今グラウンドで汗を流しているのは一年生と二年生だけだ。大会に出られなくても、補欠の補欠でもいいからあの中に戻りたいと思った。でも最早そんなことを言っても遅いのだ。
太陽がさんさんと照りつける。長い夏が始まろうとしていた。
-----
受験ネタを書いてみたかったのです(
全体的に糖度は低めでしたね;
あと題名はしっくりくるのが中々思いつかなかったです……
何か良い案を思いついた方がいたら教えて貰いたいです←
- Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.65 )
- 日時: 2015/04/30 19:55
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: SiiKM6TV)
【 Good Boy…? 】1/3
つまらない映画を観た。
冴えない男が彼氏持ちの美人に恋をして、何度ふられてもめげずにアプローチし続けた結果その女性と結婚するという筋書きだった。そんな上手いこと行くわけないじゃんか、とエンドロールの途中で隣に座っている瑛仁(えいじ)に言おうと思った。が、奴は口を半開きにしたままぐっすりと眠り込んでいる。
高校受験の合格発表が終わって一週間ほど経ったころ、同い年で従兄弟である瑛仁に映画に誘われた。彼曰く、この映画に大好きな女優が出演しているが純愛ストーリーということで一人で映画館に行くのは恥ずかしいから一緒に来てくれ、ということだった。──それなのに。
「起きろよっ」
僕は瑛仁を小突く。
「……ん? やあ、おはよう」
エンドロールが終わり、部屋の照明が点く。まばらに座っていた観客たちが席を立ち始める。
「それにしても中学生料金で観られてよかったな」
瑛仁が欠伸をしながら言う。僕たちはまだ正式な高校生ではないが、既に中学は卒業している。高校生料金は中学生よりも千円高いので、中学生扱いにしてもらえたことには僕も内心ほっとしていた。
「でも、寝てたじゃん」
「ははは、でも俺は石村菜々恵と付き合う夢を見たんだぜ」
石村菜々恵というのは、瑛仁の大好きな女優の名前だ。
「何か話が単調すぎて眠くなっちゃったんだよなあ」
瑛仁が呟く。何だ、僕と同じような感想じゃないか。
「だろ!? 第一さあ、人生あんなトントン拍子に行くもんじゃないって!」
そう言うと奴は、僕を哀れむような目で見た。どうせもてない男の嫉妬とでも思っているのだろう。
「そんなに僻むなよ。肇(はじめ)だって、高校に入れば彼女の一人や二人くらい出来るかもしれないだろー」
だからそんなんじゃないって、と反論しながらリュックと空になったポップコーンの容器を持って立ち上がった。
「ちょっと待てよー」
瑛仁も遅れてついてくる。僕は無視して歩調を緩めずに歩いた。椅子と椅子の間の狭い通路を通り抜け、少し広い通路に出る。
「ちょっと待って、そこの人!」
高くてよく通る声で誰かが叫んだ。驚いて、反射的に振り返る。それが自分に向けられていると気付くのに少し時間が掛かった。
声の主は、髪の長い女の子だった。女の子、と言っても僕より年上だろう。高校生くらいだろうか。僕ですか? と尋ねるようにして自分の顔を指差す。彼女はうんうん、と頷いてからこちらへ駆け寄ってきた。
「はいこれ! 落としたでしょ」
彼女はにっこりと笑い、僕にダチョウのキーホルダーの付いた自転車の鍵を手渡した。
あれ、確かズボンの尻ポケットに入れておいたはずなのに。念のため、手を入れて探ってみるが案の定何も入っていない。席を立つときに落としたのだろうか。
「あ、どうも…………」
僕は鍵を受け取る。女の子の手の温もりが伝わってきて、僕はどきりとした。上手くお礼を言えない。緊張で舌が思ったように回らないのだ。男子校で三年間過ごすとこんなにも女の子に対する免疫がなくなってしまうものなのか、と自分でも驚く。
「渡せてよかった」
彼女は、僕とは対照的に笑顔を少しも崩さない。笑うとえくぼが出来るんだな、と思った。そしてそれから、僕は少し会話しただけの彼女のことが頭から離れなくなった。
- Re: _ほしふるまち 【短編集】 ( No.66 )
- 日時: 2015/04/30 22:25
- 名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg (ID: SiiKM6TV)
2/3
*
四月、高校の入学式。
着慣れない詰襟に腕を通し、まだ馴染みのない門をくぐる。風の強い日だ。沢山の桜の花びらが空中に舞っている。
紙で作られた赤い花のコサージュを受付で受け取ると、親と一旦別れ、新入生入り口と書かれた矢印付きの看板にしたがって進む。中庭を抜け、体育館らしき建物の裏まで来たところで、桜の木を背景に自撮りをしている見知った顔が目に飛び込んできた。
「瑛仁」
「あ、入学できてよかったな、肇。落ちたんじゃないかと思って心配してたよ」
「余計なお世話だっつうの」
僕は少しむっとしたが、同時に安堵していた。同じ中学からの友人はほとんど他の高校に進学してしまっていて、瑛仁はこの高校に入学した数少ない知り合いなのである。
式が始まるまでにはまだ少し時間がある。あと五分ほどで指示があるからここで待機するように、と受付の人に言われていた。周りには僕と同じコサージュを着けた新入生が数十人ほど待っていた。中学のときからの知り合いなのだろうか、複数で喋っている集団の姿が目に付く。誰も彼もが変な緊張感に包まれているように思えた。
「あ、あの女の子、可愛くね?」
前言撤回。緊張感とは無縁の男がすぐ隣にいるのを忘れていた。
「は?」
「ほらあれだよ。入り口の近くにいる──髪が短い子」
瑛仁がそう小声で言って指差した先を見ると、十メートルほど離れた場所にそれらしき女の子が見えた。確かに、目が大きくて可愛い人だと思った。
「ちょっと石村菜々恵に似てると思わないか?」
「また石村菜々恵かよ」
正直似ているとは思えない、と心の中で答えた。
背広を着た教師が五人ほどやってきて、新入生たちに二列に並ぶようにと指示をする。僕と瑛仁も列に加わった。
体育館裏にいた数十人のうち、約半分は女の子だった。普通といえば普通なのだが、中学校三年間を男子校で過ごしてきた僕は嬉しいような気恥ずかしいような気持ちになって、それが一層今の緊張感を高めているような気がする。
「あ、あの子も可愛い」
再び瑛仁が小声で報告してきた。
「さっきからどうしてそんなに余裕でいられるんだよ」
「いいから見てみろって! 三列前の子だよ」
瑛仁は僕の問いかけを無視して喋り続ける。僕は渋々、彼の指差す先を見た。
────そこにはあの人がいた。春休みの映画館で自転車の鍵を渡してくれたあの女の子が今、僕と同じコサージュを着けて。
「運命、かもしれない」
「何が」
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