コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- リンゴと毒
- 日時: 2014/05/23 21:53
- 名前: Tao: (ID: ARSa.OgH)
START…2014・05・09
気軽に立ち読みしてください/ 登場人物の記載はのちほど/
内容はまだちゃんとまとめていません。すいません。
just a minutes...
*登場人物紹介*
寿和ソウ(すわ・−)
平和と時間を貴重とするというかこよなく愛する高校1年生。ずばりツッコミ担当。
赤井凛狐(あかい・りんこ)
毒リンゴを作る謎の少女。年齢不詳。感情表現をあまりしない。
坂屋純一郎(さかや・じゅんいちろう)
小夜子に本気になる、根はやさしい男。
小松恭平(こまつ・きょうへい)
だいたい落ち着いているソウの友人。
藤島篠花(ふじしま・しのか)
家庭事情で学校にはほぼ行かないで働くソウの幼馴染。ヤキモチやき。
里中小夜子(さとなか・さよこ)
昼ドラ大好き国語教師。白雪姫になぜか重点を置く。
- Re: リンゴと毒 ( No.28 )
- 日時: 2014/06/07 07:39
- 名前: Tao: (ID: ARSa.OgH)
エピソード28
「ごめんくださーい」
その日の依頼主は陽気な男性だった。
凛弧はいつもの路地の物陰でひっそりと座っていた。
見上げるとそこには、ホスト姿の格好をした男が悪い笑顔をして立っている。
「どうもなぁお嬢さん」
「はじめまして」
そっけなく挨拶をすると、男は一応周りを確認しながら言葉を発する。
「毒リンゴってあるんやてな。それオレにちょうだいよ」
少し関西なまりのある口調だった。
その軽い言葉に凛弧は無言で、リンゴを出す。
以外と容易かったではないか———男はそう思いながら、リンゴを受け取ろうとする。
すると寸前で凛弧がたずねる。
「どういう主旨で使うんですか」
「あ?——は、そうだねー恋人に昔の愛を思い出してほしくて、かな」
男は誰にでも分かるようなわざとらしい言い方をする。
凛弧はただ黙って男を目でとらえていた。
その氷のような視線に男は少しおどけて、ぷはっと吹き出す。
「うそやってー!まあ本当の目的っつーいうのが————お嬢さん悪いけどこれ人殺すのに使ってええか?」
男は、急に低い声でそう聞いた。
「殺したい人がいるんですか」
「まあな。あ、まあ殺すことせんでも、脅しの道具には使えそうやしな」
男はリンゴを見つめながらケラケラ笑う。
「—————大丈夫やて、お嬢さん。殺人沙汰なったとしても、アンタのことは言わんし誰もリンゴで殺されたなんて思わへんやろ。アンタはこの商売続けとってええよ」
男は安心させたいのか、凛弧の肩に手をおいて子供をなだめるようにそう言った。
凛弧は表情を変えなかった。
リンゴを、そういう方向に利用されるのは初めてじゃない。
今までだって、色んな人たちが色んな目的でこの毒リンゴを利用していた。
今更、不安なんて————ない。
だけど、凛弧はうずくまっていた。
顔はたれさがって、虚ろな目をしている。
そんな凛弧が聞く。
「それを使って、誰を殺めようと?」
「女や」
「恋人ですか」
「いや、俺の会社のオーナー社長やねん」
裏社会の闇がその男の顔に広がっている。
「もう殺したくてうずうずしとんのや。本当はこの手でやってしもうたいけど、俺には大事な奴らがおんねん。そいつらのこと面倒見なあかんのじゃ」
「あなたは———」
「ん?」
「人を死なせてしまったあとの—————恐怖を知ってますか」
男の悪い笑みに負けず、凛弧の黒い笑みが冴えわたる。
男は体が少しビクッと震えたのを感じる。
「私はなにも手出ししませんが、崩れていくのは確実にあなたの精神ですよ」
「別にいまさら怖ないわ」
男と凛弧の黒い視線が交差する。
- Re: リンゴと毒 ( No.29 )
- 日時: 2014/06/08 20:16
- 名前: Tao: (ID: ARSa.OgH)
エピソード29
——————悪いけどこれ人殺すのに使ってええか
凛弧の足はいつもと違って重たかった。その足で街の中を歩くともう何人もの人たちから抜かされてゆく。
彼女の目は暗かった。いつも以上に。
普段表情のない顔なのに、今日はわかりやすいぐらい暗く、顔を下に向けていた。
前に左右の足が進んでいくのを見ながら、虚ろな目だった。
ぶつかろうと足を踏まれようと———彼女は進む。
——人を殺す…。
こんなの別に初めてなことじゃない。
今までだって、なかったわけでは———…ない。
けれど——————————……凛弧は答えが見つからずにいた。
グラン
視界が揺らぐ。凛弧は足のバランスを崩した。
とっさに近くの電柱に体ごと飛びついて、小さく荒い呼吸をする。
暗く染まった瞳で、彼女は街を、人を、一望した。
こっちを見る人は一人だっていない。みんな、前を見ている。
周りを見ていない人だらけだ。
そんなこと、今わかったことじゃない。いつだってそうだ——すれ違う人は他人であって自分に何があろうとその人には関係のないことで。1ミリだって自分の人生には関わりなんてない。
この街は、この街を行きかう人のどれぐらいが人のことをしっかり考える人なんだろうか。
とても冷え切っていた。ただ冷たくて冷たくて、息苦しい。
凛弧は電柱に両手で体を支えたまま、動こうとしなかった。
違う、立てないのだ。
両足でどうやって立つのか……………立ち方を…忘れた。
「………っ」
ギリッと歯切りする。
(崩れる……ッ————————くずれるッ…)
体も、心も、全部————。
暗い底に落ちていくなか、誰かの手が前髪に触れる。
(誰…)
凛弧はゆっくり見上げた。
そこにいるのは、最近出会ったばかりの記憶に新しい人物だった。
寿和ソウ。
凛弧の瞳孔が広がった。
「「あ」」
二人の声は重なった。
「赤井——?!」
ソウは驚いたと同時に、手をすっと戻した。
どうやら学校帰りだと思われる。
ソウは凛弧であることに気づいていなかったらしい。
凛弧はぽかんとしてソウを眺めていた。
「なにやってんだ?」
「あ…いえ」
「具合悪いのか…」
凛弧の表情を見ながら、そう察したようだ。
「そんなことないです」
ついそっけなく言葉を返し、電柱から体を離す。
すると、まだ両足に力が入っておらず、グラリと体が崩れた。
「あ、おい」
ソウがあわてて凛弧の体を支える。
「大丈夫かよ……顔色悪そうだけど」
凛弧は眉間にしわをよせながら、表情を歪めた。
ゆっくり両足の重心をかけた。
慎重に立ち上がる。——————体はしっかり立った。
それを実感し、安堵する。
ソウは怪訝そうに首をかしげる。
「すいません、もう大丈夫」
目線を合わさないまま、半強引にソウの体から離れた。
「大丈夫そうじゃないけど…」
「いえ…。もともとこういう顔つきなので」
「いやちがうっしょ」
「ですね…、それじゃ」
そう言って、くるりと方向を変える。
目の前の人混みを見た途端、また息苦しさが襲う。
「気持ち悪い」
ふいに発した言葉———。
ソウは「は?」と声をあげる。
凛弧は歩き出そうとした。すると、ソウがその手を引っ張った。
「え?」
「やっぱ駄目だわ、顔色わるいってアンタ」
そう言い、ソウはずかずか歩き始める。
「ちょっ…どこに行くんですか」
「そこらへんの安い店。座って何か飲み物飲んだほうがいいって」
ソウは振り返ることなく、強く凛弧の手を握っていた。
不思議だった。凛弧はその手のひらの温かさに安心を感じたのだ。
- Re: リンゴと毒 ( No.30 )
- 日時: 2014/06/10 19:35
- 名前: Tao: (ID: ARSa.OgH)
エピソード30
ソウは人の少なそうな喫茶店を見つけて、凛弧を連れてそこへ入る。
まだ足に力が入らないのもあり、凛弧はフラフラと動きが弱々しい。
ソウは心配そうな顔で何度も振り返り「大丈夫か」と声をかける。
今日は珍しく構ってくる。思いがけない優しさに、凛弧は言葉を失う。
喫茶店の中は薄暗く、レトロな雰囲気を醸し出していた。
店の奥の席に二人は向かい合って座る。
「大丈夫かよ…」
「何回聞くんですか」
「いや本当顔色悪かったし何かあったのかなと思って」
「——別に」
仏頂面で目線をシラッとそらした。
ソウは真剣なまなざしでなおも凛弧を見ていた。
その視線があまりに気分を損なわせられ、凛弧はため息をつく。
「だいぶ私に関心があるようですね」
「は、はぁッ!!? べべ別にそんなんじゃねぇから!!」
「何を焦っているんですか」
ソウは、流されてたまるかと表情を無理やり固くする。
「お前、なにか悩んでんの?」
「そう見えますか」
「見える」
「・・・」
凛弧は意外にも図星という顔でコホンと咳払いする。
「なんか相談したいことあるなら聞くけどさ…」
「気持ち悪いですね今日」
「なんだと!?」
「異常に優しくしてくれて、あなたのほうこそ何かあったんじゃないですか」
「俺は…なんにもねーし」
「ふーん」と言いながら凛弧はじーっとソウを眺め続けた。
「見んなよ!」
「あなただってさっき見てきたのに」
「見てねえし!」
「尖ってますね性格」
「うるせ!」
さっきの優しさがだんだんと見えてこなくなった。いつものソウだ。
「あの幼馴染の人とあの後どうなったんですか」
「え…?!あぁ、どうにか和解できたよ」
「そうですか。それはよかったじゃないですか」
「何だよその見下したような笑顔は」
「別に」
また目線をそらす凛弧。そのときちょうど凛弧の目に、大きな時計が見えた。
近くを通ったマスターと思わしき老人に「あれ素敵な時計ですね」と話しかける。
マスターは嬉しそうに笑った。
「あれはヨーロッパから伝わった時計でね…もうずいぶん昔のものなんだ」
「風格がありますね———…」
目を細めて微笑む凛弧。
「あ——」
ソウは声を発する。
「どうしたんですか」
「初めてかも、そーいう笑顔」
「なにを言いたいんですか」
「今心から笑っただろー?」
「おかしそうに言わないでください」
「だって笑わねえんだもん。ロボットみたいだぞお前」
「そうですよ、私ロボットなので」
「嘘つけよ」
「はい」
なかなか会話にならない。凛弧とは。
それでも、前よりは関係が柔らかくなったように感じるソウ。
「あの、あなたにとってはいい話じゃないんですが、あのリンゴを目的と違うことに使われるのって————あ、やっぱりいいです」
寸前まで言ったのに断念する。
ソウはガタっと肩を崩す。
「そこまで言って止めるとか何だよ。言えよ」
「じゃあまずコーヒー頼んでからいいですか」
「…。勝手にどーぞ…」
- Re: リンゴと毒 ( No.31 )
- 日時: 2014/06/13 20:02
- 名前: Tao: (ID: ARSa.OgH)
エピソード31
コーヒーをじっくり飲んでご満悦の表情の凛弧。
ソウはそろそろ本題に入りたいところであった。
「で?さっきの話の続きは?」
凛弧は目線を合わせたかと思えば、すぐにそらす。
「さっきから目そらしすぎだろ」
「アナタがずっと怖い顔してるから」
「してねえし……」
「さっきから眉間にしわ、寄ってます」
そういって、自分の眉と眉の間に人差し指をあてた。
あおられてソウも自分の眉間に触れる。
———今日はだいぶ調子が狂う。
何かにイライラしているのか。焦っているのか。
ソウは難しい顔をしながら、凛弧が頼んだコーヒーに視線を置く。
「邪魔しないって言うなら、話しますよ」
「は?」
「私、アナタに色々話すと行動を阻止されそうなのでさっき話を切りやめました」
「あー…そう。そりゃあ止めるに決まってんだろ。恐ろしいことやってんだし」
ソウの目。
凛弧の目。
二人の間に火花が散る。散る。散る。
「話だけならいいだろ」
「そうですね」
「軽いな…」
サラリと事は運んでしまった。
もしかすると凛弧もうっぷんなるものを言いたかったのか。
凛弧は最後の一口をのんだ。
「————今までも何回かこういうことはあったんですが…時々、あの林檎を目的と違うことに使う人がいて」
「目的と違うことて?」
「単純な人殺しに。あの林檎だったら証拠が残らないから」
「あぁ、なるほどな」
「別に誰がどこでどうなろうと私には関係ないんですが、どうも目的と違うことをされると……」
「うーん…なんかその言葉気に食わんなぁ。誰にどこで死なれようといいっていう言い方」
「誰でもそうですよ、ニュースで殺人事件が流れてもいつものことだとアナタだって流すでしょう」
凛弧の時々見せるその強いまなざし。
ついうろたえてしまう始末だ。
「けど、これはお前が作ったリンゴによる人殺しになるってわけだし、罪悪感湧くだろ」
「知りません」
「そういうの世間様に最低て言われっからな」
「私は目的と違うことに利用されるのが少しどうかと…」
「なら、イヤだって言えばいいだろ」
簡単だろ、と語尾につけてソウは言い放つ。
凛弧は口をむぐっと閉じる。
「いや…私はリンゴをただ売る身なので———… 」
「けど人殺しに使われるっていうのが嫌なら、ちゃんと言うべきだろ」
「別に嫌というわけでは」
「どっちだよ…あぁもういいわー」
疲れたと言わんばかりに大げさにあくびをする。
そんなソウを、凛弧はなぜか少し気にくわなさそうに見ていた。
- Re: リンゴと毒 ( No.32 )
- 日時: 2014/06/15 21:34
- 名前: Tao: (ID: ARSa.OgH)
エピソード32
「でも俺ほんと思ってたわ。そういうことやってたらいつかヤバいこと起きるって」
「まだ何も起きてません。というか起きません」
冷静な凛狐が今はすこしキレ気味なご様子。
「お前なあ。ひどいことに巻き込まれて、死ぬかもしんないだろ」
「ふ。 今更そんな命だとか、惜しくない」
何もかも、とうの昔に諦めきったような———そんな笑顔。
ソウはじっと凛狐に目を留める。
スッ、とソウが彼女に手を伸ばした。
凛弧は警戒しがちに表情を硬くする。
手は凛弧の頭の上に置かれて、またいつかのようにポンポンとたたかれる。
「お前がそんなんだと、色々教えてやんないとって思うな」
「何を?それより、手」
「生意気」
「何か言いましたか」
ソウは無言で手を引っ込める。
「依頼主ってどういうヤツ?女?男?」
「男の人ですが…」
「どういう感じの?」
「あれはたぶん水商売でもやってる雰囲気……」
何をペラペラと情報を漏らしているんだ———凛狐はむぐっと口を紡ぐ。
「どうした」
「聞いてどうするんですか」
「ちょっと協力してやろうかと」
「は」
予想外の言葉。
あぁ。最初から言うのではなかった。
凛弧の表情に後悔が浮かぶ。
「協力って、アナタは止めたいんじゃないんですか私の行動を」
「そうじゃなくて、俺が今回止めるのはお前じゃなくて、依頼主のほう」
「どうしてアナタが止めるんですか」
「そりゃ簡単。おまえがいつまでも躊躇ってるから、代わりに止めてやろうってだけ」
そんなの任せておけるものじゃない。
彼女は少しあせったような声色で口にする。
「それは違反です」
「は?ルールあるとか聞いてねーし」
「駄目です」
「無理」
凛弧がすーと息を吸った。
「だめッ!」
彼女にしてはボリュームの高い声だった。
ソウは目をあけたままビックリした顔。
凛弧自身もビックリしたのか、数秒後にハッと体がビクッと震えた。
「そんぐらいのボリューム出るんかい…」
「・・・とにかく関わらないでください」
この掲示板は過去ログ化されています。