コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 世界の果てで、ダンスを踊る ‐ ブレイジングダンスマカブル‐
- 日時: 2017/02/08 03:39
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: b92MFW9H)
第三次世界大戦後、世界は破局的な大戦から実に数十余年を経ていたが、今だ情勢は不安定であり、戦硝は消える事無く燻ぶり続けていた。
国連に当たる世界統治機構『アイオーン』は事態の早期的収拾、及び鎮静化を目的とした超国際的集権組織を設立。
その管理下に置かれ、争乱の芽を摘むため暗躍する非合法特殊武装部隊・『エグリゴリ』。
そのトップに君臨する、『ネフィリムの死神』と呼ばれるひとりの少女の存在があった。
今より少し未来、こことは異なる世界。
混沌が舞踏し、死が抱擁する世界。
生きるために戦い、そして出逢う少女たち。
その運命が交錯するとき、そこに生まれるものとは————。
皆様如何お過ごしでしょうか、Frill(フリル)です。基本複・ファで活動しております。ネタ、厨二満載の駄作ですが、皆様が楽しんで下されば幸いです。※中傷、批判、宣伝広告等は荒らし行為とさせて戴きます。御注意下さい。
目次
登場人物紹介
>>8 >>14 >>26
本編
-1 舞い降りる死神 >>1
-2 幽愁の誅戮者 >>2
-3 暗紅の双演 >>3
-4 永銀(とこがね)の愛我 >>4
-5 傀儡なる稀人 >>6
-6 ケモノとヒトと >>7
-7 戦場という園に咲く花 >>9
-8 凍える闇、その奥底に灯火を >>11
-9 産まれ出でるもの >>12
-10 慟哭、目覚め >>13
-11 やすらぎは愛しき者の腕の中で >>15
-12 明けない夜も、共にあらんことを >>16
-13 強襲、鋼の殺意 >>17
-14 空の狩人、猛禽の刺客 >>18
-15 狩る者、狩られる者 >>19
-16 共存する闘争 >>20
-17 異質 >>21
-18 告げるもの >>22
-19 戦慄、其は現に在らず >>23
-20 秩序と混沌 その身に満たすものは >>24
-21 戦士の休息、平穏の在り処 >>25
-22 研ぎ澄ますは牙、狙い澄ますは刃 >>27
-23 見定めるものは >>28
-24 二匹の獣、そしてもう一匹 >>29
-25 超越 >>30
-26 畏怖 >>31
-27 異端の翼、片翼の羽 >>32
-28 力の渇望 >>33
-29 堕天 >>34
-30 成し得ること、求めること >>35
-31 彷徨う残影 >>36
-32 未来を切り開いて >>37
-33 再誕 >>38
-34 力(ちから)の行方 >>39
-35 長い夜が明けて >>40
-36 追憶と疑念と忘れかけた想い >>41
-37 大隊進軍 >>42
閲覧者様コメント欄
>>5 >>10
※皆様。お忙しい中、ご感想有難う御座います。
駄作者はリアル多忙であり、更新で手一杯なので基本的に返信のお返事が非常に難しいです。何とか返信は努力します。
大変まことに申し訳ございません。何卒ご理解のほどを。
それでも構わないという読者様、そしてコメントは大いに歓迎いたします。
これからも拙い駄文をお楽しみくだされば、とても嬉しく想います。
——— Frill
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ‐ ブレイジングダンスマカブル‐ ( No.33 )
- 日時: 2015/09/19 11:34
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: jFPmKbnp)
—28 力の渇望
雄大な巨躯を誇る白銀の狼は、自分の周りで飛び交う二頭の蒼紅の虎を一瞥し、僅かに口元を広げて静かに息を吐いた。
『・・・何ダカ、身体ガムズ痒イト思ッタラ、羽虫ガ二匹モイル』
銀毛の魔狼と化したアンリが抑揚の無い、それでいて美麗なボイスが紡がれる。
瞬間、振りぬかれる銀の前肢。
撫でるように繰り出された獣の拳。
しかし明らかにこの場の誰にも捉えることが出来ないスピードで中空で攻撃態勢に移ろうとしたリエルの胴体に直撃し、ドームの壁面まで躰は弾き飛ばされて激突した。
『グハァアアァッッッ!!?』
『リエルッッッ!!?』
突然吹き飛ばされた妹に驚愕し、目を見張るファエルの視界に白銀の影が映りこみ、鈍重な衝撃が全身を余すところなく貫いた。
『ガフゥウァアッッッ!!?』
鋭い鉤爪に四肢を引き裂かれ、床一面に叩きつけられファエルは鮮血を吐き噴いた。
銀装の体躯をしならせ、アンリが一歩前足を踏み出す。
床面の亀裂に埋没し咽せ伏せるファエルに近づき押し潰すように掌を掲げる。
『マ、待テ・・・ッ! オ前ノ相手ハ、アタシ、ダ・・・ッ!!』
よろよろとふらつきながら鋭い咆哮を放つリエルにアンリが目を細め見やる。
『・・・ソウ。ナラ、貴方カラ、ネ』
『・・・ッ!!』
冷ややかな声が発せられ、隕石でも振ってきたのかという衝撃の波が迫り
全身の体毛を逆立てたリエルは咄嗟にその場から飛ぶ。
遅れて地面が銀の獣によって無残に砕かれ瓦礫と化す。
『・・・敏捷性ハ、マアマア次第点。デモ些カ注意力ガ疎カ・・・』
アンリの眼は既に回避した先のリエルを収めており、爪拳の切っ先が緩やかに獲物を攫おうとしていた。
『サセルカッ!!』
同時に、紅い虎が凄まじい勢いで滑空し、アンリの背後から襲い掛かる。
『・・・自己治癒力ハ合格点。スタミナモ申シ分ハナイ。ケド・・・』
しなやかな白銀の剛尾が床に穿たれ、瓦礫の山を薙ぎ払う。
『グッ!?』
夥しい床面の建材物が破片となり礫の雨がファエルに飛来する。
致命となる物はかろうじて躱す。他は装甲並みに耐久性を持つ獣皮で瓦礫の攻撃を全身で受ける。
『ファエルッ!! ウゥッ!?』
悲鳴にも似た叫びで瓦礫の礫を食らう姉の身を案ずるリエルに地を抉りながら突貫する魔狼の爪が迫る。
『・・・気ヲ取ラレスギ。仲間ノ身ヲ案ジルノハ良イケド、ソレ以上二自身ノ現状ヲ把握スルベキ』
リエルは肩口から肉を削がれる感触を感じながらも、身を素早く捻り、襲い来る豪爪から勢いのまま跳躍し後方へと逃れる。
「そんな、リエルとファエルがあれほど苦戦するなんて・・・! 私が造り上げた『CC細胞』は決してオリジナルに引けを取らないはず・・・!! 一体、何故・・・っ!?」
防護窓に噛り付くように身を預け、捲し立てるガブリエラ。
それを興味を示さず、一瞥たりともしない怜薙。
「・・・貴女方は、本当の意味で理解していないのでしょうね。本当に恐るべきは忌むべき“力”ではなく、それらを世に産み出した“人間(ひと)”の“業”、なのだと・・・」
呟くように溢す言葉は隣で激昂する女には届くことは無かった。
『ハア・・・ハア・・・』
『フウ・・・フウ・・・』
佇む白銀の魔狼を挟むように対峙するファエルとリエル。
二人とも全身から鮮血を垂らし、呼吸すら儘ならない。
シュウシュウと傷口が泡立ち蒸気が煤煙さながらに上がる。
しかし、その自己再生頻度も落ち、四肢に入る力も心持たず立っているのがやっとの有り様だった。
絶望的な状況であった。
幼いながらも圧倒的な戦闘力を有し、自分たちと同じように『CC細胞』の適格者を幾度となく退けた。
数多くの敵を仕留めてきた。
高い知能と圧倒的なパワーを併せ持つ彼女たちに敵う者など微塵も存在しない筈だった。
だが、それは存在する。
今、眼の前に。
本能の奥秘かに縫い込められた感情。
畏怖であり、恐怖であり、諦めであり、嘆きでもある。
このままでは、己らはただ屠られるのを待つのみだった。
理不尽。
低い呻りを上げ眼前の魔狼を見れば、静かに此方をじっと見詰めている。
あざけりとも違う、哄笑されるならまだしも自身たちの存在をまるで関知していない、どうでもいい眼差し。
自分たちの存在など、はなから歯牙にもかけていない。
圧倒的なまでの差による途方もない距離感。
一矢も報いることができない口惜(くや)しさが血潮が零れる咢を強く噛み締めさせる。
憎い。 憎いっ! 憎いっっ!! 憎いっっっ!!!
狡い。 狡いっ! 狡いっっ!! 狡いっっっ!!!
恨めしい。 恨めしいっ! 恨めしいっっ!! 恨めしいっっっ!!!
羨ましい。 羨ましいっ! 羨ましいっ!! 羨ましいっっっ!!!
自分たちにも、自分たちにも同じ“力”さえあれば・・・!!!。
それは本能に抗い理性を貪るように焼き切る。
“憎悪”となって。
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ‐ ブレイジングダンスマカブル‐ ( No.34 )
- 日時: 2015/09/20 09:37
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: GTJkb1BT)
—29 堕天
『憎イ・・・オ前ノ存在、スベテガ・・・ッ!!!』
『認ナイ・・・ヨリ優レタ種ハ、アタシタチ、ダッ!!!』
ファエルとリエルふたりの言葉が連なる。
暗澹としたふたりの気配の変化にアンリはすぐに気付き、その身を低く屈める。
何だ?
この嫌な感じは。
こう、脳の奥底に響く・・・いや、違う。
訴えかけているのだ。
畑は違えど、同じ“種子”を持つ者の存在。
遠い記憶が蘇える。
いつも心が欲していた。
戦え、と。
喰らえ、と。
戦い、喰らい、蹂躙し、貪り、己が血肉となせ、と。
身を突き破り今にも躍り出そうな飢餓感。
似ている。
その感覚に。
己の内に潜む凶悪な意志。
『『グゥオォオオオオオォォオオオオオオッッッ!!!!!』』
アンリの思考にかぶさるように、けたたましく凄まじい咆哮がドームを研究所全体を揺るがした。
視線の先にいつの間にか二頭並ぶ虎を模す獣。
その二頭が突然大きく牙を剥き、喰らい付いた。
己たちの肉体を。
互いの躰を貪り始めたのだ。
『!?』
「な、何を・・・! ファエル!! リエル!! 何をしているの!?ま、まさか活動限界の細胞の暴走!?」
驚愕するガブリエラ。
「これは・・・お互いを食っている? いや、違う。取り込んでいる・・・“融合”しているというのか」
興味深そうに眼鏡の奥の瞳を光らせる怜薙。
地響き鳴動するドーム内に立ちこめる粉塵が視界に降り注ぐ。
煤煙の向こうに、巨大な影がゆらりと蠢く。
続く叫びが衝撃波となって、瓦礫の壁を砕き、轟音のトンネルを木霊させる。
ずしゃりと空洞を通して、身を起こす巨獣の姿が徐々にはっきりと見えてきた。
双眸から憤怒の炎をたぎらせ、長い鼻先から蒸気のような息が白く噴出する。
黒い。
ゆらゆらと揺らめく巨大な黒い鬣。
十メートルはあるだろうか物体の塊。
まるで黒炎を纏ったかのように全身が燻ぶり波打ち、形を変えながら蠢いていた。
あまりにも巨大な、不気味さを持つ黒い獅子。
かろうじて獣の原型だけは留めているのが解る。
アンリの表情がわずかに曇る。
あの瞳。
そこにどれだけの感情が秘められているのか、アンリには痛いほど判った。
憎悪の雄叫びをあげ、破壊の衝動を解き放つ、ふたりの少女だった成れの果ての虚獣。
咆哮をあげ、身を震い、黒く蠢く肉塊の足を踏み出す。
一歩、また一歩と踏み出すたびにドームを振動が揺るがす。
伸び上がる体躯がブチブチと筋組織を引き千切りながら異臭と異音をない交ぜに無理矢理自己修復を繰り返しながら歩く。
すでに限界を超えてるのが傍目で理解出来る。
故に互いの細胞を強制的に融合させ補ったのだろう。
再び虚獣が咆哮を放った瞬間、揺らめく肉体から黒い触肢が形成され無数に生えてきた。
『!!』
無数に伸びて襲い来る形容しがたい肉塊の触手。
アンリは全身の白銀の体毛を瞬時に超硬化させ、複数の刃の鎧骨格で覆う。
飛襲し埋め尽くす触肢。
黒の群れに銀の閃光がほとばしると、瞬時に木っ端微塵に打ち斬り裂かれ黒い泡の芥となり果てた。
『!? コノ細胞片ハ・・・』
打ち砕いた触手の欠片がアンリの銀装の体躯に触れると、じゅわりと嫌な音を立て熔解させたのだ。
アンリはいまだ蠢く触手群を一瞥するとともに鋭利な眼光の切っ先を真っ直ぐに黒い虚獣に向ける。
『『・・・邪魔モノハ消ス・・・存在ヲ認メナイ・・・』』
聞こえたのは怨嗟をともなう濁った声だった。
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ‐ ブレイジングダンスマカブル‐ ( No.35 )
- 日時: 2015/09/20 15:17
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: GTJkb1BT)
—30 成し得ること、求めること
ドームの天井、床、壁、至る所に歪な樹の根のような————不気味な血管を思わせる、黒く禍々しさをはらんだ触肢を縦横に這わせ描く虚獣。
それひとつひとつ自体が何かしらの意志を持ち、得体の知れない異様さを醸し出している。
呪わしい虚獣が重々しい顎先を開く。
澱(おり)のように濁り淀んだ吐息が噴出し、並び揃う醜唾に濡れる歯列を撫で、暗がりの中で飢えた獣の眼が煌々と光った。
『『・・・モウ誰ニモ見下サセナイ・・・スベテヲ見返ス・・・認メサセル・・・自分タチガ最高ノ存在・・・最強ノ戦士・・・貴様ヲ超エル・・・“死神”・・・』』
ググッと唸りなのか、嗤ったのか虚獣が無造作に左手を出す。
瞬間、黒い波が一面を覆い、触手が群れなして狙い定め、アンリに襲い来る。
覆いかぶさる寸前、白銀の魔狼は前頭を屈め高く跳躍、銀の刃を旋回させ、群がる触手をことごとく斬り捌く。
刻まれた触手片が細かな粒子となり降り注ぐそれは、アンリの硬質化した体毛をも溶かし、内皮を焼き奥の肉まで届く。
辺りには建材物が焼け解ける異臭と血液と肉が焦げる嫌な匂いがドームに満ちる。
『・・・分子レベルデ結合阻害ヲ引キ起コス物質破壊細胞・・・。ヤレヤレ相当厄介ナ能力ヲ発露シタヨウネ』
自身の躰のいたる所が腐食し、ボロボロと崩れていく。
その都度自己再生で修復を試みるが、殆ど回復が追いつかず少しずつダメージが蓄積されていく。
アンリが首を巡らせ、虚獣を見た。
黒炎に揺らぐ巨体は炭化した屍のようであり、自身の肉体さえも絶え間なく破壊と修復が繰り返されて肉塊が蠢く。
その黒い獅子の眼にはありありと妄念が滲み、此方の一挙手一投足に投げ掛ける。
自らが滅んでも自身の敵を屠る————。
そんな気配をまざまざと感じさせた。
無限の暗闇を思わせる黒々とした怪物。
すべてを震わせる咆哮を放ち、その巨体を軋ませて黒い獅子は銀装の狼に躍り掛かる。
『『消エロッ! 偽物ハ、オマエダッ!! アタシタチガ本物二ナルッ!! オマエハ消エテ無クナレッ!!!』』
黒い巨体が変則的に形を変え、アンリの行動を制限するように広がりざわつき、逃がさんとばかりに啖(くら)いつく。
何処までも付け回す何本もの悍ましい肉腫の追っ手を返す装刃と四肢の剛爪で流れるように叩き斬るアンリ。
強力な硫酸などなら問題なく対処可能だが、それよりもたちの悪い細胞事態に働きかける肉の飛沫を極力避ける。
それでも降り掛かる毒の雨礫が容赦なく己の肉体を破壊していく。
今、この状態が継続するのは分が悪い。
アンリは切っても切っても後から増殖再生する触手をまた数本斬り伏せ事態の先行きに思考を巡らせる。
一方この予測だにしない異常事態に髪を振り乱しガブリエラは防護板の強化窓を強く何度も叩く。
「ファエル! リエル! 今すぐ獣合化術(ビーストアクト)を解除しなさい!! 既に細胞組織が瓦解し始めているのが判っているでしょう!? このままでは貴女たち元に戻れなくなるわよ!! いえ、このままだと死んでしまうわ!!」
「聞こえていない筈はないのですが・・・まずい状況ですね。この地下研究施設は核の攻撃など外郭の防御に重点を置いてますが、内部、それに能力者に対しては有る程度しか対処していません」
今も暴れる怪物によって施設全体が地震のように揺るがされている。
しかし怜薙はまったくこの状況に動じることなく事の成り行きを見守っている。
己が何よりも愛する妹が死の境地に今もなお立たされているというのに。
この落ち着きようは・・・。
「・・・最悪の場合は・・・アンリ、君に頼ることになりそうだ・・・」
怜薙が誰ともなく小さく呟いた。
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ‐ ブレイジングダンスマカブル‐ ( No.36 )
- 日時: 2015/09/23 22:21
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: xDap4eTO)
—31 彷徨う残影
ファエルとリエルは歓喜した。
ついにこの時が訪れたのだと。
僅かに残った理性の片隅で、最大の障害となる仇敵が傷つき血を流しながら身悶えるさまを喜々として認識していた。
とうに自身が制御できる獣合化術(ビーストアクト)の限界点を超えてしまったことなど微塵も知りえない。
憎しみと怒りのあまり一卵性ゆえの遺伝子配列に『CC細胞』が暴走を起こし変化して、彼女たちの意識と肉体を融合させてしまったのだ。
新たに構成された巨大な身体はとても扱いやすく、またファエルとリエルのふたりを満足させるに十分な“力”を有していた。
この“力”を最大限に利用すれば、自分たちがもっと、生みの親、母親であるガブリエラの役に立てると思った。
『『・・・ママ・・・ママ・・・アタシタチ、トッテモ強クナッタヨ・・・モウ誰ニモ負ケナイヨ・・・』』
全身から凄まじい異臭を放ち、生きたまま腐りながら崩壊と再生を繰り返す肉体を誇らしげに目線の高さより下となった防護窓から見下ろす虚獣。
その姿は幼い子供が親に褒めてもらおうとしているかのようだ。
狂気。
まさに狂おしいまでの愛情。
「嗚呼・・・なんでこんなことに・・・。私が開発したCC細胞は失敗だったというの・・・? もうお終いだわ、あの子たちは遠からず自身の細胞に食い尽くされて自壊する・・・何年も実験し、何度も研究した結果がこんな結末なんて・・・」
頭を抱え、力無く項垂れるガブリエラ。
暴走する虚獣。
猫がネズミをいたぶるように、玩具を与えられた子供のように目の前の獲物を弄ぶことに夢中になる。
『『アハハハ! 死ンジャエ!! サッサト死ンジャエ!!!』』
残る理性も徐々に失われ、肉体を構成する細胞も形が保てなくなってきている。
どろどろと、不定形の軟体生物が跳梁するように様々に姿形が安定していない。
アメーバのように不気味に蠢きながら、予測不可解な攻撃の嵐。
その只中(ただなか)を紙一重で回避しながら迎撃を繰り返すアンリ。
だが、その面差しには、焦りも、諦めも、微塵も窺えなかった。
「・・・ミス・ガブリエラ。貴方は研究者としてはとても優秀なのでしょう。その類まれな探究心が何よりも貴方自身の才能の裏打ちされた結果だと思いますよ。故にCC細胞も誕生させた・・・しかし、それだけでは無いでしょう。貴方が残したものは、それだけでしたか?」
長い髪を項垂らせるガブリエラに静かに語り掛ける怜薙。
「見なさい。憎悪に取り憑かれた可哀そうな獣を。あの子たちは自身のしがらみよりもより役目に忠実に在ろうとし、故に苦しみ、求めたのですよ」
「・・・求めた?」
淡々と意味深に語る怜薙の言葉に少し顔を上げるガブリエラ。
「家族、とは、かけがえのないものです。例え、血の繋がりが無くても常に身近にあり、感じあえる・・・そういう存在を貴方も知っていると思いますが・・・」
振り返った怜薙は優しい微笑み見せた。
ガブリエラは眼下で暴れる黒い虚獣に視線を移した。
「・・・ファエル・・・リエル・・・」
グズグズと燻ぶる腐った巨大な肉塊が振り向く。
『『ママ? ママ? どこ? あれ、見えないよ? 真っ暗だよ・・・』』
何かを必死に手繰り寄せようと肉腫をもがき這いまわせる虚獣。
『『ママ・・・ママ・・・』』
その醜い塊の元はふたりの可愛らしい少女だったとは、この現場に立ち会っていなければ夢にも思わないだろう。
何かを探して蠢く。
まるで迷子になった幼子が泣き喚くように彷徨っていた。
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ‐ ブレイジングダンスマカブル‐ ( No.37 )
- 日時: 2016/03/06 11:32
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: AdHCgzqg)
—32 未来を切り拓いて
朽ちかけた虚獣の咆哮が研究施設全体を震わせる。
怜薙は小さく息を吐き、眼鏡を押し上げて言う。
「・・・このままでは施設全体が崩壊してしまいますね。仕方ありません、アイオーン幹部の末席に連なる者として非常事態権限の行使を敢行します」
怜薙の言葉に伏せていた顔を上げるガブリエラ。
「・・・どうやって暴走したあの子たちを止められるの? 自然自壊するまでにまだ時間があるわ・・・無理よ。貴方の妹さんでも止めることは・・・」
ガブリエラが眼下を見て自嘲気味に話す。
現に今も枢木怜薙の妹、アンリは孤軍奮闘で戦っているが、傍から見て折り合いが悪く防戦一方だ。
完全獣化状態で戦っても、リエル、ファエルの融合変異体とは力の差が歴然としているのがよく分かった。
どれだけの兵隊が応戦しても既存の火器では事態の収拾はつかないだろう。
そういう風に創られたのが彼女たち『エグリゴリ』の兵士なのだから。
これ以上事態を悪化、深刻化させないために自分たちがなんとかして被害拡大を止めなくてはならない。
最悪、地下の施設内を封鎖するしかない。
「・・・アンリ。聞こえているかい? 僕は今から非常事態権限を君に対して発令する」
拡声マイクでアンリに話しかける怜薙は苦々しく顔を曇らせる。
「・・・本当は・・・君には、こんな『力』は・・・使ってほしくなかったんだが・・・」
怜薙の懺悔するような声に重なるように鈴がなるような凛とした可憐な声が響く。
「私は大丈夫。だから命令して、兄さん。いつものように」
全身を銀と赤の鮮血で染めた狼が迷いない眼差しで怜薙を見上げていた。
「・・・すまない、アンリ」
聞こえるか聞こえない程に呟いた怜薙が唇を強く噛むと、その表情が強く決意し変わる。
「・・・アンリ。これは命令だ。眼前の敵を殲滅しろ。 ・・・『バーサーカーモード』の強制解除を許可する」
怜薙の放つ豪令が轟く。
静かに眼を瞑り、その時を待っていたアンリ。
「・・・了解。 『バーサーカーモード』強制解除・・・」
ゆっくりと開く双眸。
「・・・これより、ターゲットを・・・」
力強く、彼女が宣言する。
「————殲滅、する」
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