コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ルミエール・エグゾルシスト
- 日時: 2014/11/08 00:24
- 名前: 凪乃 (ID: KCZsNao/)
どうも、凪乃(なぎの)と申す者です。
今回は閲覧いただきありがとうございます。
発音しにくいタイトルですが、何卒よろしくお願いいたします。
タイトルはフランス語を使っております。『ルミエール』が光、『エグゾルシスト』は悪魔祓いという意味の『エグゾルシズム』を、悪魔祓いする人、ということで『エグゾルシスト』と少し変えちゃってます。
大体の意味としては『光の悪魔祓い』でしょうかね。
この作品には悪魔は出てきませんが、魔人が出てきます。
そしてそれを退治する『滅凶師(めっきょうし)』というものも出ます。
『滅凶師』と魔人の熱いバトルアクション! ——になる予定です。
出来るだけ個性的なキャラで、読者様に印象を与えるキャラを作っていきたいと思います!
では、応援? よろしくお願いしますっ!
- Re: ルミエール・エグゾルシスト ( No.25 )
- 日時: 2015/07/08 07:15
- 名前: 凪乃 (ID: SDJp1hu/)
3
学校に向けて全力で疾走する双太、依瑠華、風鈴の三人。
今日『いるか屋』に向かう時はそれほど遠く感じなかったが、学校に向かう時は逆に感じた。それが単なる体感的な問題なのか、もしくは状況が状況だからなのかは分からない。
学校の場所を知らない依瑠華を先導するように、双太が先を走っている。風鈴は依瑠華の後ろを走っている。
今日咲桜は竹宮あかりに呼び出され、話が長引いていれば今も学校にいるはずだ。いや、水晶に表示される桃色の表示は咲桜のものなのだ。だとしたら、咲桜がまだ学校にいるということになる。
そして彼女の傍に魔人が現れた。これは咲桜だけではなく、彼女と一緒にいるあかりにも危険が及ぶことになる。
成り行きで滅凶師となったわけだが、手を伸ばせば届く距離に救えるものああるのならば、動かないわけにはいかない。それに今回は幼馴染や友達の命がかかっているのだ。動かずにいることなどできなかった。
双太は学校の正門をくぐり、咲桜が何処にいるのか辺りを見回してみるが、ここから見える距離にはいないらしい。
「くそっ、何処だ!?」
早く見つけないと咲桜が危ない。
その事実が双太を焦らせ、彼の頭から冷静な判断力を奪っていく。そんな双太を落ち着かせたのは、風鈴だった。彼は双太の肩に優しく手を置き、彼の目を真っ直ぐに見つめながら、
「落ち着きましょう。居場所の特定は難しいかもしれませんが、場所を絞ることは出来ます」
「……え?」
その時に依瑠華は既に校舎の中に入っていた。彼女は上へ向かう階段には向かわず下駄箱の辺りをうろうろしている。何をしているのか分からず、双太は風鈴とともに依瑠華の元へと駆け寄った。
「依瑠華さん、何してんだ?」
「うん? 咲桜の下駄箱を探している。どこだ?」
何故今そんなものを探しているのか、双太には理由がよく分からなかった。首を傾げていると、風鈴が双太に説明してくれる。
「下駄箱に靴があればまだ校舎内に、なければ外にいるということになります。双太くん、小野さんの下駄箱はどこですか?」
双太はハッとして、咲桜の下駄箱の場所へと歩いて行く。
言われてみればそうだ。外で話をしているのなら校舎の中にはもういない。中にいるのなら、下駄箱に入っているのは上履きのはずだ。
双太は咲桜の下駄箱の前に立ち、勢いよく扉を開ける。中に入っていたのは上履きだった。つまり咲桜は校舎の中にはもういない。彼女が今いるのは校舎の外だ。
双太たちが踵を返そうとした瞬間、ぞわっと、不気味な気配が全身を襲った。
「……っ、何だ今の感覚……ッ!?」
感じたことのない気味の悪い感覚に双太が表情を歪める。見れば風鈴も同じような表情をしていた。双太と風鈴がよく分からずに首を傾げている中、依瑠華だけが帽子を上から押さえながら、
「……校舎の裏からだな。今のは魔人の魔力だな」
言われて双太たちは校舎から出て裏手に回る。
心の中で、咲桜の無事を祈りながら、いつもよりも速くなったような気がする足を懸命に前に動かす。
校舎裏に着いた双太たちは、その光景に驚愕した。
黒い翼を生やした、少女の後姿が見える。その人物の前には黒い茨の木が生えている。その茨の木の上の方には一人の少女が気を失ったまま捕らわれている。その少女に双太は見覚えがあった。
「……さ、咲桜っ!!」
気を失っているのは双太の幼馴染である小野咲桜だった。
双太は右手に光のグローブを装着し、こちらに背を向けている黒い翼の少女に向かって駆け出していた。依瑠華と風鈴の驚いたような、それでいて止めるような声が聞こえたが、今の双太はそれを聞き入れられるほどの余裕はなかった。
「お前、咲桜に……俺の幼馴染に何してやがんだこの野郎ッ!!」
双太は渾身の力を込めて殴りかかる。
それに対して、黒い翼を生やした少女は、
「んー?」
軽い調子で振り返った。
その顔を見た瞬間、前に着き出そうとしていた双太の腕が止まった。
何故なら、その少女の顔は竹宮あかりにそっくり——いや、正真正銘竹宮あかりだったからである。
「……お前、竹宮……?」
動揺を露わにする双太を見て、一瞬驚いたような表情を見せたあかりだったが、すぐにその表情を怪しげな笑みへと変えた。
「あはぁ♪」
嬉しそうな声を上げて、あかりの下半身から生えている黒く先が尖った尾が双太に襲い掛かる。寸前で攻撃に気付き、身をよじって回避する双太。それでも完全にはかわし切れず、左肩を浅く切りつけられる。
双太は後方に大きく飛び退き、折角詰めた距離をまた開けることになってしまった。
「……どういうことだ、竹宮!? どうしてお前が……」
「あちゃあ、気付かれちゃったー。俺的には今日中に気付かれる可能性は低いと思ってたんだけどなー」
いつもとは違うあかりの口調に双太は何かがおかしいことに気付く。
しかし彼女の身に何が起きているのか具体的に分からない。双太が戸惑っていると、依瑠華が一歩前に出た。彼女の表情は、一般市民には向けないであろう酷く冷徹なものだった。
「……貴様、魔人か」
依瑠華の言葉に双太と風鈴が驚愕した。
竹宮あかりが魔人——そんなことはないと思っていたが、あかりは高笑いをしながら、依瑠華の言葉を肯定した。
「鋭いなあ、アンタは。でもそれじゃ不正解だねぇ。合格点はあげられないかなあ」
気軽にそう言うあかりに対し、依瑠華は刀を握った。柄が赤く、刀身もほんのりと赤みを帯びた綺麗な日本刀だ。構えず、あくまでいつでも攻撃出来る、という意味合いで握ったのだろう。
「そうだな。正確にはその女に憑依した魔人——といったところか。しかし身体と精神の結合率が以上に高い。お前、その女に何をした?」
「人聞きの悪い聞き方するなよ。俺は何もしちゃいないって。ただ、この女が俺を信用しちまったってだけだ。ひゃっひゃっひゃっ」
不気味な笑い声を上げるあかり。正しくは彼女に憑依した魔人。
依瑠華が目つきを鋭くすると、あかりは黒い翼を羽ばたかせ、茨の木に捕らわれている咲桜を抱える。
「待て、何をする気だ!?」
双太があかりを止めると、あかりは楽しそうな表情を浮かべながら、
「決まってんだろ? こいつの中にある力——〝巫力〟を喰らうんだよ! こいつごとなあ!」
「……なっ……!」
依瑠華が話していた、昔に行われていた〝巫力〟を持つ巫女を使った、魔人の討伐方法。
巫女を餌にして、強力な魔人をおびき寄せる。魔人の討伐が出来なければ、その巫女は喰われてしまう。今まさに、その状況なのだ。
「待ちやがれ!」
「どいてください、双太くん!」
双太が追いかけようとすると、風鈴の声が双太に届く。
風鈴は何処から出したのか銀色の弓を構えており、魔力で生み出した風の矢を構えていた。おそらくあかりを射ようとしているのだろうが、
「待て上沢! あれは竹宮の身体だぞ!?」
「そんなこと言ってる場合ですかっ!? このままじゃ小野さんが——!」
二人が言い争っている内にあかりは咲桜を抱えたまま、空に黒い穴を出現させる。
「まあそんなすぐには喰わないさ。この女を助けたければ、生界と亡界の狭間にある境界世界——〝黒流(こくりゅう)〟に来い。まあ、来られれば、だがなあ」
けけけっ、と不気味な笑いを残してあかりが咲桜を抱えたまま、空に出現させた黒い穴に入ると、その穴は消滅し咲桜を捕えていた黒い茨の木も消滅した。
「……咲桜……!」
いつも通りの光景になった校舎裏の空を見つめながら、双太が呆然と呟いた。
- Re: ルミエール・エグゾルシスト ( No.26 )
- 日時: 2015/07/14 00:40
- 名前: 凪乃 (ID: 4/G.K5v4)
4
咲桜が、あかりに憑依した魔人に攫われた後、これからの方針を決めるべく双太たちは一旦『いるか屋』に戻ってきていた。
だが、咲桜を守れなかったショックか、双太は顔を俯かせており、そんな双太を見つめて依瑠華と風鈴も中々口を開けずにいた。重く苦しい空気が部屋の中に充満していた。
「……咲桜……」
ふと双太が呟くと、風鈴が彼を非難するかのように、鋭い口調と瞳で告げてくる。
今までの彼が、双太に決して見せないような表情だ。
「あの時、君が止めなければ小野さんを助けることが出来ていました」
その言葉に双太は黙り込んでしまう。
魔人に憑依されたあかりが、咲桜を連れ去ろうとするのを阻止するため、風鈴は矢で彼女を射るために構えていた。だが、あれはあかりの身体で撃つのを止めたのは双太本人だった。
あの時の風鈴の行動と判断は正しかったといえる。
「だが、咲桜を救う代わりに、竹宮あかりが魔人もろとも死んでいた」
「彼女は魔人に憑依されています。救う術がありません」
風鈴としても、あかりごと魔人を倒そうなどと思っていない。ただ、方法がそれしかないから、確実に助けられる命を助けるべきだと考えたのだ。あの状況なら、魔人に憑依されたあかりではなく、そのあかりをどうにかすれば助けられた咲桜を優先するべきだっただろう。
今までずっと俯いていた双太がゆっくりと顔を上げた。彼はどこか縋りつくような表情で依瑠華を見つめる。
「……依瑠華さん、魔人に憑依された人間を助ける方法ってないのか?」
「君はまだ……!」
風鈴が双太を睨みつける。
この期に及んでまだ二人とも救おうとしている、聞き分けがない双太に風鈴が本気で腹を立てた。
「まだ言ってるんですか!? 魔人に憑依された人間を救う方法なんてない。あなたは、小野さんを殺したいんですか!?」
風鈴の怒りはもっともだ。
先ほどは二人とも救おうとして、結果咲桜を一番危険な目に遭わせてしまっている。今度同じようなことをして、まだ咲桜が無事な保証はない。犠牲が二人出るより一人の方がいいはずだ。
もちろん、ゼロに抑えられるならそうしたいが、そうすることが出来ないのなら仕方がない。
「やってみなきゃ分からないだろ!」
「やるも何も方法がないと言っているんです! あなたは材料が何もないのに物を作ることが出来るんですか!? 小学生じゃあるまいし、大人になってください!」
「……んだと……!」
双太が仇でも見るかのような鋭い目つきで風鈴を睨みつけた。一瞬怯む風鈴だが、目を逸らさず睨み返す。
二人が思わず立ち上がり睨みながらお互いの言葉をぶつけ合う。
だがどこまでいっても風鈴が正しい。双太の意見は無茶苦茶すぎる。
「落ち着けお前ら。小学生か」
そんな二人の間に割って入る依瑠華。
二人を落ち着かせると、依瑠華は腕を組んで頷きながら、
「お互いの言い分は分かった。たしかに、滅凶師としては風鈴の言い分が正しいだろう。だが助けられる見込みがある命を救おうとする、それこそがまず人間として、双太が正しい」
「でも、救うったって……」
これ以上言えばまた言い合いになる。風鈴はすんでのところで口を噤んだ。
「方法がない。そう言いたいんだろう? まあ……間違っちゃいないんだが、厳密にはあるんだよ、一つだけ」
依瑠華の言葉に二人が驚愕した。
「……あるのか?」
「そんな馬鹿な……」
驚く二人を見て満足したのか、依瑠華は自慢気に語り出す。
「あるが、出来る確率がほぼゼロだから、私も選択肢から除外していたんだが、遠距離攻撃ができる人間がいることだし、視野に入れるくらいはいいだろう」
「どうすればいいんだ!? どうすれば竹宮を助けられる!?」
思わず顔を依瑠華に近付ける双太。彼自身は全く気になっていないようだが、お姉さん属性のある依瑠華は、男性とのお付き合い経験がまだまだ乏しいため、顔を僅かに赤くして、顔を逸らしてしまう。
気を取り直すように帽子の位置を調整すると、
「滅凶師の属性については説明したな。実はそれぞれの属性の滅凶師に、奥義と呼ばれる秘技が存在する。数は属性ごとに違うが、大体が三個か四個だ」
「……奥義……?」
風鈴も初めて知ったのか、黙って依瑠華の言葉を聞いている。
「ああ。中でも光は特殊でな。私がさっき言ったことを憶えているか?」
言われて双太がうーん、と唸りながら考える。
ハッとして双太は顔を上げた。
「小学生か……?」
「何故今の話でそこに遡る?」
依瑠華ははあ、と溜息をついて綺麗に本が収納されている本棚に背を預け、
「光の滅凶師は魔を滅するのにも、人間を救うのにも一番向いている。憶えて……ないな。うん」
そんなこと言ったっけ、と首を傾げる双太に諦めたように依瑠華が言葉を紡ぐ。ちなみに風鈴は憶えていたらしく、首を上下に振って頷いている。
「光の滅凶奥義は唯一、魔人に憑依された人間を救うことが出来る技がある。だが、奥義というだけあって、そう簡単なことじゃない」
「……どれくらい難しいんだ……?」
「……そうだな。言葉にするのは難しいが……私は今まで百人近くの光の滅凶師を見てきたが……その技を使えた者を見たことがない。私が一番強いと思う光の滅凶師でさえも、不可能だと言っていた」
その言葉が双太にかつてないプレッシャーを与えてくる。
それを聞いた風鈴が首を振る。まるで、無理だ、出来っこない、と言いたそうな仕草だ。
だが、
「……やるよ」
双太が呟くように言う。
「可能性が低いってだけだろ? ゼロじゃない。ならやるよ。ほんの少しでも助けられる可能性があるのなら!」
双太の言葉を聞いて、風鈴は諦めたかのように溜息をついた。ここまでくれば、もう止めることは出来ない、と渋々了承してくれた、ということでいいのだろう。
「だがあくまで優先順位は咲桜の救出だぞ。無理だと判断したら風鈴に撃ってもらう……いいな?」
「ああ!」
依瑠華は小さく笑って帽子を深く被った。
そこで双太は思い出したように、
「あ、そういえばアイツが何処にいるのか知らねえぞ!?」
「たしか、“黒流”で待っているとか——どうやって行けば」
双太と風鈴が顎に手を添え悩んでいると、鞘に収まった柄が赤い、鞘も真紅色の日本刀を持ち、颯爽と扉に向かう依瑠華が二人の視界に入った。
そんな依瑠華を不思議そうに眺めていると、振り返った依瑠華がきょとんとした顔で二人を見返す。
「……何をぼーっとしている。行くぞ、表に出ろ」
- Re: ルミエール・エグゾルシスト ( No.27 )
- 日時: 2015/07/20 23:02
- 名前: 凪乃 (ID: 4/G.K5v4)
依瑠華は鞘から刀を抜きながら店の外に出る。
こんな姿誰かに見られたらちょっとしたじゃ済まない騒動に発展しかねないが、幸いというべきか店の外に人は誰もいなかった。
どころか誰かがやって来そうな、あるいは近くに人がいそうな気配もしない。風鈴もそれに気付いたのか、双太と二人で顔を見合わせながら不思議そうな表情を浮かべている。
そんな二人を気にせずに依瑠華は二人から三メートルほど前方に立つと、瞳をゆっくりと閉じながら刀の切っ先を下に向ける。そのまま刀を地面に突き立て、瞳を閉じたまま依瑠華は片膝をついた。
彼女は小さな言葉で何事か呟いているが、双太と風鈴のいる距離からじゃ何を言っているのかよく分からないが、日本語ではないことと、英語や他の外国語のような二人が分かる言葉じゃないことは分かった。
何やら儀式めいた依瑠華の行動に二人が視線を奪われていると、地面に大きな円が浮かび、濃い橙色の光を放ち始める。
しかもその円はただの円ではなく、よく見たら中心に六芒星のような紋様が刻まれているし、淵には読むことさえもできない文字みたいなものが刻まれている。
RPGや漫画などでよく見る魔法陣のようなものだ。
すると魔法陣の中心辺りから十メートルほどの幅を持った大きな壁がせりあがってくる。徐々に姿を現していくにつれ、その壁が扉であることが分かる。
灰色の淵に赤い色の扉の中心には人間より太い鎖と真紅の南京錠がつけられていた。
扉が姿を現すと魔法陣が消え、依瑠華も目を開け刀を地面から抜き鞘に納める。
「さて」
一仕事終えた、みたいに腰に手を当てた依瑠華は後ろできょとんとしている双太と風鈴に振り返ると、
「行くぞ」
「まず説明しろッ!!」
状況が全然理解していない双太は思わず叫んでしまっていた。
「まずなんであたりに人がいないんだ!? アンタは何してたんだ!? あの魔法陣は何だ!? そんでこのバカでかい扉は何だぁー!!」
聞きたいことの全てを依瑠華に詰め寄り問い質す双太。
依瑠華はあまりの勢いに一瞬驚いたが、両手で双太をいさめると、
「一度に聞くな答えられん。じゃあ最初の質問から答えていくとしようか」
言いながら依瑠華は懐から一枚の紙を取り出した。長方形のその髪は赤い模様のようなものが描かれている。
「周りに人がいないのはこの札のおかげだ」
「……札だあ?」
双太が聞き返すと依瑠華は頷き、
「この付近にこの札をあらかじめ貼っておいた。この札は人払いの効果があってな。滅凶師でも魔人でも巫女でもないただの人間には、私たちの存在はおろか、この辺りに道があるなどとも思わんよ」
もちろん簡単に出来るものじゃないが、と依瑠華は後から付け加えた。
むしろこういう呪術的なものは滅凶師ではなく巫女の役割らしく、依瑠華もいつか必要になるかなー、と思って習得したまでで、習得に五年はかかったらしい。
「そして二つ目の質問に答えるとすると、あとすべての質問に答えることになるな」
依瑠華は大きな扉を見上げながら答える。
「私はあの扉を出すための儀式をしていたんだよ。魔法陣は扉が出現するためのマーキング……そして、この扉こそ生界と亡界の境界世界〝黒流〟に行くための扉だ」
双太と風鈴はその言葉に息を呑んだ。
「生界から亡界、亡界から生界に行く時もこの扉を使う。とはいっても、こんな非常事態でなければ使わんから、もう使う機会が来ないように願っておくとするか」
「……依瑠華さん。そもそも〝黒流〟というのはなんなんですか? 生界でも亡界でもないんですよね?」
風鈴が話が終わった隙に問いかける。
「……ああ。その解釈で間違いない。どちらかというと亡界寄りだが……そうだな。解答としては『憑依する魔人の巣窟』とでも言おうか。憑依できる魔人は極めて脆弱だ。故に、彼らより強い力を持つ魔人がうじゃうじゃいる亡界では生きていけんからな」
つまり、これから行くのは憑依する魔人がうじゃうじゃいる場所ということだ。双太はいつか依瑠華に言われたことを思い出す。
滅凶師にも、憑依できる魔人——。
依瑠華は心配いらないだろうが、今は風鈴の実力も分からないし、何より彼らより自分自身が一番危険だ。双太は自分の心にそう言い聞かせながら、ぎゅっと右の拳を強く握り締める。
「……突入前に最終確認だ」
依瑠華が扉を背にしながら、腕を組んで双太と風鈴に告げる。
「最優先は咲桜の救出。だが、双太にはまず竹宮あかりを魔人から引き剥がすことをやってもらう。しかし私がこれ以上は難しいと判断した場合は、風鈴に魔人ごと竹宮あかりを滅してもらう。——いいな?」
双太と風鈴は同時に頷く。
依瑠華二人の気持ちいい返事に笑みを浮かべると、帽子を上から押さえながら背後にある扉の太い鎖と大きな南京錠を、ほんのりと赤みを帯びた日本刀に炎を纏わせ一息に焼き切った。
中から強烈な風を巻き起こしながら扉が開かれる。
扉の中は黒と紫と赤が混じった不気味な渦を生み出しており、中に入るのを躊躇わせる。
だが行かなければ咲桜もあかりも助けることが出来ない。
双太は不気味な渦に向かって全力で駆け出す。
「……待ってろよ、咲桜」
双太が入っていくのを見届けると、依瑠華と風鈴も双太に続いて扉の中に消えていく。
三人を呑み込んだ扉はゆっくりと閉じると、陽炎のように姿を消した。
- Re: ルミエール・エグゾルシスト ( No.28 )
- 日時: 2015/07/21 18:45
- 名前: 凪乃 (ID: 4/G.K5v4)
5
「うおおおおおあああああっ!?」
空から絶叫する声が響く。
その声は地面に突撃すると同時に止まった。
無様に地面に顔から落ちた双太を尻目に依瑠華は危なげなく着地。風鈴もよろめきはするものの、着地に失敗して顔から落下するようなことはなかった。
依瑠華は半目で無様な姿の双太を見下ろしながら、
「……何してるんだ、お前は」
冷たく言い放った。
顔を上げた双太は依瑠華に今にも襲い掛かりそうな勢いで叫ぶ。
「何してんるんだじゃねぇよ! なんで扉が空に繋がってるんだよ!! 思いっきり落ちたけど大丈夫なのかこれ!?」
双太は上空に出現している赤い扉を指差しながら言う。
やがてその扉が陽炎のように消えると、依瑠華は大きな溜息をついた。
「仕方ないだろう。こっちでの扉の出現位置は細かく設定できないんだ。だから扉をくぐったら覚悟しておけと——」
「言ってないからな!? 扉をくぐった後のことなんて、アンタ一言たりとも言ってないからな!?」
ひとしきり叫んだ双太は立ち上がって改めて周りを見渡してみる。
空は黒というより、赤や紫といった様々な色が混じった異空間のような色をしており、地上はというと一面地面が広がっているだけで、木もなければ草も一切なく、緑という色彩が見当たらなかった。
だだっ広い空間のところどころに岩のようなものがあるだけで、他には何もない。ただ周りを普通のように歩いている魔人がちょっとだけ緊張感を誘った。
「……なんか、思ったより普通なんだな。もっと混沌としてるかと思ってたけど……」
「まあな。亡界もこんな感じだ。少し拍子抜けか?」
双太としては魔人の世界だから、もっと地獄絵図のような場所を想像していた。だが、現に来てみれば閑散とした寂しい空間が広がっているだけの、これといった特徴のない場所だったことに、少し驚いていた。
「だが、よく考えてみろ。何もないんだ。それ以上に、虚しいことなどあるか?」
依瑠華が小さく笑みを浮かべながらそう言った。
双太たちの住まう生界には、物で溢れ返っている。今目の前の光景のような場所など、世界のどこを探したって見つかるものではない。
「ここに何もないのは、魔人たちが物を必要としないからだ。これが我らの世界との大きな違いだな。だが、今回二限っては好都合だ」
依瑠華の左手には、いつの間にか日本刀が握られている。
何もない、ということは逆に咲桜とあかりが見つけやすくなっているということだ。元々正々堂々と正面から場所を告げたりしていた辺り、目立つような位置にいるか、すぐ分かるような状態なのだろう。
「しかし、なんで相手はその場で小野さんの力を食らわなかったのでしょう? 僕らを倒すなら、小野さんの力を繰ってからの方が確実なはず……」
「さあな。何か条件があるのか、あるいは他の理由か……奴の考えは全く分からんが、今回ばかりはそれも好都合だ」
双太は拳を手の平に打ち付けると、
「んじゃ、手遅れになる前にさっさと二人を捜そうぜ!」
「ああ、そうだな。だが一つ言わせてくれ」
依瑠華の言葉に双太と風鈴の視線が集中する。
二人の視線を受けながら、依瑠華は背後から襲ってきた魔人を一瞥することもなく頭を右手で鷲掴み、
「自分の身は自分で守れ。私も二人分の面倒は見切れんからな」
ボッ、と魔人の顔が発火し炎が魔人の身体の全身を包み込んだ。断末魔を上げながら燃えていく魔人には目もくれず、
「寄ってくる魔人だけでいい。行くぞ、双太」
「あ、ああ!」
依瑠華の高い戦闘能力に驚きながらも、双太は依瑠華と風鈴の数歩先の距離で走り出す。
そんな双太の後ろで風鈴は心配そうな声で依瑠華に訊ねた。
「……依瑠華さん、どう思います?」
「ん? ああ。あんな派手に宣戦布告してきたんだ。捜すのにそう時間は——」
「いえ、そっちじゃなくて」
依瑠華は始めから分かっていたかのように、口元に笑みを浮かべた。そんな依瑠華に風鈴は呆れたような視線と表情を向けるが、全く効果がないと理解したのか溜息をついて視線を逸らす。
「僕には、錐崎くんが竹宮さんを救えるとは思えません。失敗して全滅なんてお断りですよ」
「その点は安心しろ。私がいる限り犠牲は最小限で済ませるさ。しかし今更反対の意見を述べるとは、少しずるくないか?」
「うぐっ……それは……」
依瑠華に痛いところを指摘されたのか、風鈴は恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。
予想通りのリアクションに依瑠華が愉快そうに笑うと、
「まあお前の気持ちも充分に分かる。素人に滅凶奥義の可能性など、望む馬鹿はいないだろう」
錐崎双太という少年は普通の少年だった。
帰宅途中に魔人に殺され、幼馴染の少女を救うために、魔人を滅する能力を携えて生き返った。人間と呼べるかどうか微妙なところだが、一応は人間というカテゴリーでいいだろう。
つい最近までただの人間であった人間が、ただ人を救いたいという気持ちだけで成功できるほど、滅凶奥義は簡単なものじゃない。
「お前は双太に対しては大分辛口評価だが、その評価も間違っていない」
風鈴の言い分や方針は正しい。
成功する可能性が限りなくゼロに近い方法を試して、余計な犠牲を増やすよりも、より確実な方法で咲桜を救う方が安全だ。たとえそれで、竹宮あかりという一人の少女が消滅することになっても。
「だが元より滅凶師という存在は人を救うものだ。そこは否定しないだろう? それに」
依瑠華は意地悪な表情を浮かべて、
「お前はさっき『どう思います?』と問いかけてきた。それは私に双太が出来る、と言ってほしいように聞こえたのだが」
「……っ!」
風鈴は自分でも無意識のうちに、双太ならあかりを救える、という希望を抱き始めていることを指摘され、それを隠すように依瑠華から離れようと走るスピードを上げた。
そんな風鈴の姿を見つめながら、依瑠華はかつて一緒に戦った光の滅凶師のことを思い出していた。
依瑠華が唯一強いと。今まで出会った光の滅凶師の中で最強だと思える男のことを。
「——お前が辿り着けなかった境地、こいつなら辿り着けるかもしれんぞ。滅凶師の未来は明るいな、明彦(あきひこ)よ」
- Re: ルミエール・エグゾルシスト ( No.29 )
- 日時: 2015/07/26 10:07
- 名前: 凪乃 (ID: 4/G.K5v4)
第四章 救済か討伐か
1
周りが高い崖で覆われている。
まるでドーナツのように高い崖の中心に位置する部分だけが円形に窪んでいる。その円の中心に黒い茨の木が生えている。何十メートルにも及ぶその木のてっぺんには一人の少女が磔状態で眠っている。
その木の根元から、その少女を見上げる一つの人影。
翼から漆黒の翼を生やした、妖しい瞳と笑みをした竹宮あかりだ。正しくは、彼女に憑依した魔人というべきだろうか。
竹宮あかりに憑依した魔人が、巫女の力を持った小野咲桜を喰らわずにこの状態のまま放置しているのには理由がある。
ただ単に、力どころかこの少女そのものを喰らえなかったからである。
最初に試したのは、生界で彼女を捕えた時。その時は生界という本来ならば魔人がいるべき場所では不可能なだけかと思ったが、亡界で試してもその結果は同じだった。
喰らおうとすれば何かの壁に弾かれるように阻まれてしまう。
出来れば双太たちが来る前に喰らって。騙されて来たところを殺す、という手を実行しようとしたのだが、それは少し出来そうにない。
だが、彼らが自分のところに辿り着く前に、力を喰らう方法を模索するのは難しくない。
人間に憑依したことによって力が上がったようで、実際に憑依しなくても魔力を注ぐだけで、ある程度の魔人を支配下に置けるようになった。ここにるのはどれも力の弱い魔人だが、三人の滅凶師ならば足止め出来るだろう。
「……もうすぐだ」
くくっ、と喉を鳴らして笑うあかり。
「もうすぐで、俺は至高の魔人になれる。生界協会の滅凶師どもにも、どんな奴らにも負けない、絶対的な力を得られるっ! 魔人が人間どもを支配する、そんな時代が来るんだっ!!」
ひゃはははは、と下品な笑いを浮かべながら、両腕を広げる。
彼女は途端に笑い声を止めると、
「……お前らはその前座だ。光栄に思え」
ゆっくりと後ろを振り返る。
高い崖に覆われたあかりのいる場所だが、彼女の後ろには幅十メートルほどの道がずっと伸びていた。その道から、
双太、依瑠華、風鈴の三人の滅凶師がやって来た。
「まさか本当に来るとは思わなかったぜ。お前らが来る前に〝巫力〟を喰らっておきたかったんだが、まあいいや」
それを聞いた双太はあかりを睨み付ける。
あかりに憑依した魔人は、最初から双太たちを待つつもりなどなかったのだ。双太は右拳にぎゅっと力を込めると、依瑠華が口を開いた。
「……まだ咲桜が無事、ということは……力を喰らうのに、何か手間がいるのか?」
その質問にあかりは腕を組んで、難しい表情を浮かべた。
「それが俺にもよく分かんねーんだよ。力を喰らおうとすれば何かに弾かれてさー。その原因はゆっくり調べるさ」
「そんな時間、俺たちが与えると思ってんのか?」
双太の右手を眩い光が纏う。
風鈴も弓を構え、依瑠華も鞘から赤みを帯びた刀を引き抜いている。
戦う準備を整えた双太たちを見つめて、あかりは心底愉しそうな笑みを浮かべた。邪悪な、魔人らしい笑みを。
「いいねぇ、その対応! そう来なくっちゃ、こっちも楽しくないぜ!!」
周りに大量の魔人が現れる。
身体は、大きなものでも双太たちの半分くらいしかなく、どれも生物らしい形は持っていなかった。周りに溢れた魔人すべてが憑依する、という特殊な力を持った魔人たちである。
「……な、何だこの数!?」
「明らかに100は超えているな。一人ノルマ33体以上だ」
「数える余裕があるといいですね」
人間の身体を手に入れようと魔人たちが双太たちに襲い掛かる。
咲桜を助けるため、双太たちは周りの魔人を打ちのめしていく。
この掲示板は過去ログ化されています。