コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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ルミエール・エグゾルシスト
日時: 2014/11/08 00:24
名前: 凪乃 (ID: KCZsNao/)



 どうも、凪乃(なぎの)と申す者です。
 今回は閲覧いただきありがとうございます。

 発音しにくいタイトルですが、何卒よろしくお願いいたします。
 タイトルはフランス語を使っております。『ルミエール』が光、『エグゾルシスト』は悪魔祓いという意味の『エグゾルシズム』を、悪魔祓いする人、ということで『エグゾルシスト』と少し変えちゃってます。
 大体の意味としては『光の悪魔祓い』でしょうかね。

 この作品には悪魔は出てきませんが、魔人が出てきます。
 そしてそれを退治する『滅凶師(めっきょうし)』というものも出ます。
 『滅凶師』と魔人の熱いバトルアクション! ——になる予定です。

 出来るだけ個性的なキャラで、読者様に印象を与えるキャラを作っていきたいと思います!

 では、応援? よろしくお願いしますっ!

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Re: ルミエール・エグゾルシスト ( No.20 )
日時: 2015/05/03 03:01
名前: 凪乃 (ID: KCZsNao/)



 第三章 魔に支配された少女


 1


「おっはよー、咲桜ちゃーん!」
 双太の隣に歩いて一緒に登校していた咲桜の背後に、そんな声とともに抱きつかれる感触があった。
 急いで振り返ると、自分の背中に昨日仲良くなった転校生が抱きついて来ていた。
「……あかりちゃん!? びっくりしたー」
 後ろから気配もなく忍び寄られて抱きつかれる、などというどっきりを仕掛けられ、咲桜は自分の胸に手を当ててほっと安堵の息を吐いた。自分を名前で呼ぶのだから親しくないわけがないのだが、いきなりされると友人でも驚いてしまう。
 ごめんごめん、と顔の前で手を合わせて短く謝罪するあかり。そんな彼女の視線は、咲桜の隣を歩いていた双太へと向けられる。
「えーっと……直接話すのは初めてだよね? 改めまして竹宮あかりですっ!」
「……お、おう……錐崎双太だ。よろしく」
 敬礼をしながら自己紹介をする彼女のテンションの高さに、朝にはいまいち強くない双太は、やや戸惑いながら自己紹介をし返す。
「二人っていつも一緒に登校してるの? やっぱ仲良いんだねー!」
 あかりがそう言うと、双太と咲桜は一瞬だけ顔を見合わせた。すると咲桜が首を左右に振りながら、
「ううん、家が近くて偶然見かけたから、一緒に登校してるだけだよ。一人の時もあるし」
 家を出る時間は大体毎日同じだが、咲桜はともかく双太は二人の妹のこともあるので、たまに時間が遅れてしまう時がある。そういった時は二人が通学路で会うこともなく、別々に学校に着いてしまうのだ。
 妹が中学生になってからは出る時間のズレは少なくなったものの、まだ完全にゼロにはならない。なんでも妹のどちらかが中々起きずに、起こすのに手間取って遅れてしまうらしい。
「ふーん。てっきり学校に来るのも一緒だと思っちゃった。教室でもいつも一緒にいるし」
「いつも一緒、かなあ?」
 咲桜は自分の学校での行動を思い出してみる。たしかに、同性の友達より双太と一緒にいる時が多いような気がする。双太も同じようなことを考えているのか、言われてみれば、みたいな表情を浮かべている。
「あ、そーだ。ねえねえ咲桜ちゃん。今日の放課後って時間ある?」
「え、今日? 特に用事は入ってないよ?」
 強いて言えば双太と一緒に帰ることくらいだが、それも決定ではない。依瑠華のところにも昨日寄ったし、今日はこれといって先に入っていた用事はない。
「だったらさ、放課後ちょっと残ってくれない? 咲桜ちゃんと二人で話したいことがあるの! ダメ?」
 小首を傾げながら、申し訳なさそうな表情も浮かべて問いかけてくるあかり。その問いかけに咲桜が困ったように双太を見上げた。双太は小さく頷くと、咲桜も小さく笑みを浮かべてこくりと頷いた。
「いいよ。だから双太、今日は先に帰っといてね」
 咲桜の言葉に双太は短く返事をした。なるほど、確かにどことなく姉弟のように見える。だが、たまにだが、二人の立場が逆転してしまう時もあるように、あかりは感じていた。
 そんな微妙な、あるいは絶妙と言うべき関係を保っている二人をからかうように、
「んじゃ、放課後彼女さんをちょっと借りるね?」
「なっ!?」
 あかりの言葉に双太と咲桜は同時に声を上げて顔を赤くした。
「な、何言ってんだよ! 俺と咲桜はそういう関係じゃねぇよ!」
「そうだよ! もう、昨日言ったじゃん! 幼馴染だって!」
 予想通りの反応を返してくれる二人を楽しそうに見つめながら、あかりは『じゃあ教室でねー』と言って、下駄箱の方へと向かって駆けて行った。
 慌ただしい嵐のような少女の背中を見送りながら、双太は小さく息を吐いた。
「……お前、本当に仲良くなったんだな」
「まあ……まだ掴みきれてないけどね」
 照れくさそうに笑いながら咲桜は小さくそう言う。
 双太は既に見えなくなってしまったあかりが駆けて行った方向を遠い目で見つめながら、
「お前の周りって変な奴多いよな」
「……それ、自分のことも含んでるの?」
 何気なく呟いた言葉に、意外なツッコミを返されながら自分たちも下駄箱へとゆっくりと歩き出した。

Re: ルミエール・エグゾルシスト ( No.21 )
日時: 2015/07/26 09:32
名前: 凪乃 (ID: 4/G.K5v4)



 2


 思いがけず一人で帰ることになった。
 いつもは特に約束もせず咲桜と一緒に帰っていたから、一人で学校から出るのは本当に不思議な気分だ。
 咲桜が一緒の時は色んな場所を寄り道して帰るため、帰宅時間が夕飯の用意に取り掛かる丁度いい時間になるのだが、買い物して帰っても、かなり余裕がありそうだ。
 二人の妹のために、今日は手間がかかる料理にでも挑戦しようかな、と考えながら靴を履き替えていると、
「錐崎くん!」
 急に男子に名前を呼ばれた。
 自分をくん付けで呼ぶ男子なんていただろうか、と思い振り返るとつい昨日仲良くなったばかりの上沢風鈴が小さく手を振りながら近づいてきていた。
「今から帰るのかい?」
「ああ。お前もか?」
「うん……ってあれ?」
 鞄を持っているからなんとなくそうではないかと思っていた。
 風鈴は双太の質問に答えると不思議そうに辺りを見回す。
「……どうした?」
「……いや、幼馴染の子はいないのかなって。いつも一緒っていう噂があるから」
 そんな噂が流れていたのか、と双太はため息をつく。いや、たしかに否定はしないが安易に肯定も出来ない。
 お互い他に友人がいるわけだし、いつもというのはさすがに語弊があると思うのだが、周りの生徒や教師から見たらそう見えるらしい。
 実際に同性の友人より一緒の時間が長いし、今も帰りが別というだけで、少し先の行動に困ってしまうくらいだ。
「咲桜は友達と約束があるからそっちを優先させたんだよ」
「そっか。じゃあ途中まで一緒に帰らない?」
 予期せぬ風鈴の誘いに一瞬驚く双太だったが、彼と行動するのも楽しそうだと思い快く頷いた。
「いいぜ。家どっち方面だ?」
「駅の方だよ」
「方向真逆じゃねえかよ」
 双太の通う学校は電車通学と徒歩で通学する生徒の割合が半々である。校門を出て西に行けば駅があるのに対し、東に行けば駅からは大分遠ざかってしまう。
 つまり双太は東側、風鈴は西側なのだ。
 校門まで、というのもなんだかあれだし、趣味も違いそうなので、寄り道したとしても別の店に行きそうだし、どうしようか考えていると、双太が思い出したように指を鳴らした。
「そうだ。上沢にも紹介しとくか」
「……紹介って、誰を?」
 双太は明るい笑みを浮かべて、
「俺が知るもう一人の滅凶師。前に話したろ? 俺を滅凶師にした人のところに行こうぜ」
 言われて風鈴はこくりと頷いた。

Re: ルミエール・エグゾルシスト ( No.22 )
日時: 2015/06/01 21:14
名前: 凪乃 (ID: 4/G.K5v4)



 放課後になり、咲桜はあかりとの約束があるため双太と教室で別れた。
 帰れるときはいつも一緒に帰っているためか、教室で別れるのは少し不思議な感じがした。咲桜は教室を見渡してみるがあかりの姿は何処にもない。どこに行ったんだろう、とふと机の上を見てみると小さな紙切れが置いてあった。
 それを拾い上げると手紙のようだった。内容は『校舎裏で待ってるよん♪』というものだった。おそらくあかりが置いて行ったものだろう。同じクラスなのだから一緒に行けばいいのに、と思ったがそれは気にせず紙切れを鞄の中に入れて帰り支度を手早く済ませると教室を出る。
 下駄箱で靴を履き替えて指定された校舎裏に行くと、鞄を下に置き校舎の壁に立ったままもたれているあかりの姿があった。
 あかりがふと視線を咲桜の方へと向けると、笑顔を作ってこっちに来るように手招きをする。咲桜もそれに従ってあかりの方へと駆け寄っていく。
 咲桜が目の前に来ると、あかりは顔の前で手を合わせた。彼女の表情はどこか申し訳なさそうに見える。
「ごめんね、錐崎くんと二人っきりの時間を邪魔しちゃって」
「なっ、だ……だからわたしと双太はそういうのじゃ……!」
 昨日あかりに話してから妙にからかわれてしまっている。
 傍からそう見られてしまい、初対面の人にそう聞かれるのはもう慣れてしまっているので特に気にしないが、あかりには全て話したのだしからかうのは少しやめてほしい。それに、双太はないだろうが、そう言われると咲桜は余計に意識してしまう。
 顔を真っ赤にして反論する咲桜を見ながらあかりはてへへ、と笑って、
「冗談だって。咲桜ちゃん可愛いからついついからかいたくなるのよ」
 可愛くないもん、という反論もごく小さな声になってしまい、余計にあかりをにんまりとさせてしまった。
 これ以上彼女の流れに乗せられてしまったらまずい、と思い咲桜はあかりに呼び出した理由を訊ねてみる。このままじゃいつまでたっても話が前に進まない。
「それで、わたしを呼び出した理由はなんなの?」
 二人で話したいことがある、とあかりは呼び出す際に言っていた。双太や他の人に聞かれたくないものなのかと推測したのだが、あかりの今の様子を見るとそれほど深刻な話でもないような気がする。
 それともこれはそれを気取らせないためのあかりの演技だろうか、と咲桜があれこれ考えていると、あかりはあからさまに視線を泳がせて、
「……ん〜と……その、なんというか……用があるのはあたしじゃないっていうか……なんて言ったらいいんだろ……」
 いつも明るいあかりにしては少し妙な感じがした。
 言葉の歯切れが悪い。今までこんな曖昧な返事はしなかった。少し返答に悩むとしても、必ず受ける側が困ってしまうようなそんな返しはしなかった。
 視線を泳がせることもなかったし、今までになかった曖昧な返事——咲桜は不自然なあかりの行動に一つだけ心当たりがあった。合っている確証はない。だが、試してみる価値はある。
「——あなたは」
 咲桜は目の前にいる、昨日出来たばかりの友人に普通の人なら首を傾げてしまうような質問をぶつける。
「——あなたは、誰ですか——?」
「……え?」
 問われた質問にあかりは目を大きく見開いて硬直した。
 それも当然だろう。いきなり『あなたは誰ですか』なんて聞かれて驚かないはずがない。それも出来たばかりとはいえ友達にだ。驚くな、という方が難しい話だろう。
 あかりは困惑したような表情で、
「な、何言っているのよ咲桜ちゃん……。あたしは……」
 一歩ずつ近づくたび、咲桜もほぼ同じ歩幅と歩数下がっていく。
 それと同時に、咲桜は確信した。
「……あかりちゃんなら、きっと……あんなへんてこなこと言ったわたしを、笑い飛ばすと思う」
 あかりが息を呑むのが分かった。
 咲桜は瞳に強い光を宿しながら、あかりを睨み付けて問いかける。
「もう一回だけ聞くよ。あなたは誰ですか?」
 あかりが顔を俯かせると身体を小刻みに震わせる。もしかして自分の思い過ごしだったかな、と彼女を泣かせてしまったんじゃないか、と心配になって咲桜は駆け寄ろうとするが、それがすぐに違うと分かった。
 俯かせた顔を覆うようにあかりは自分の手を顔に当てると、
「……くっ……ふふふ、あはははははははははは!」
 顔を上げると大きな声で笑い出した。いつもの彼女の明るい笑いとは明らかに違う。どこか悪意に満ちた、そんな聞いていて不気味な感じがする笑い。
 今のあかりはあかりじゃない。
「……くくく。いやあ驚いた。あかりから聞く限り、結構鈍そうな奴だと思ってたんだけど……案外鋭いんだなあ。それに、俺のことも知ってるときた。お前、何者だ?」
 咲桜は逃げなきゃいけない、と思うが自分の物であるはずの脚は上手く動かず、じりじりと後ろに下がるだけだった。視線を逸らすことが出来ずじっと目の前の豹変したあかりに向いている。
 あかりは物怖じせずにつかつかと咲桜に近づき、彼女の肩をがっしりと掴む。振りほどこうと身じろぎする咲桜だが、女子の握力とは思えないほど強い。
「……ふぅん」
 咲桜をじっと見つめていたあかりは、瞳を真紅に変えにやりと笑みを浮かべた。
「たしかに、魔力に似た何かを感じる。——お前、巫女か?」
「……ッ!?」
 自分の不確定な力の正体をあかりは言い当てた。
 咲桜は恐怖で震える唇で必死に言葉を紡いだ。三回目となる言葉を。
「……あなたは……誰、ですか……?」
 その言葉を紡いだ瞬間、あかりは楽しそうな笑みを浮かべた。そして同時に、背中から大きな黒い翼を出現させた。
「……なっ……」
 まるで悪魔のような黒く立派な翼を目にして咲桜は言葉を失った。
 自分の予想が当たってしまったことよりも、友人の変わり果てた姿に言葉が出ない。
「お前は知る必要ねーよ。今からお前の〝巫力〟は俺の物になるんだからな」
 あかりの真紅の瞳が輝く。
 その光を見つめてしまった咲桜は意識が遠のいていくことを自覚する。
 やはり、今のあかりは依瑠華の話していた魔人に憑依されてしまっていた。そして彼の狙いは咲桜の中にあるであろう〝巫力〟。それを狙って、魔人はあかりの姿を利用して咲桜をおびき寄せたのだ。
 薄れゆく意識の中、咲桜は小さな声で呟く。
「……たす、けて……そうた……」
 その声は誰にも届かず、空気に溶けて消えていった。

Re: ルミエール・エグゾルシスト ( No.23 )
日時: 2015/06/07 12:31
名前: 凪乃 (ID: 4/G.K5v4)


 偶然下駄箱で風鈴と会い、一緒に帰ることになった双太は、この際だから風鈴に依瑠華を紹介しておこうと思い、風鈴が帰る方向とは逆の道を歩いていた。
 依瑠華がいる悩み相談室の『いるか屋』は今日も営業されていた。
 目立つパステルカラーが大量に使われた看板が特徴だが、何故か相談料が五十円に変わっている。
 あまりにも人が来ないため料金を半額にしたのだろうが、料金よりも店の胡散臭さ故に誰も来ないことを店主は理解していないらしい。
 双太だって、咲桜のことがなければこんな店には入っていない。
 店の正面に立ち、見慣れた双太とは対照的に初見の風鈴はなんとも表現が難しい微妙な笑みを浮かべていた。
「……よくこの店に入ったね……」
「ああ……自分でもそう思う」
 改めてあの時はそれほど考えていたんだな、と思う双太は、ドアノブに手をかけ今までの中の様子を思い浮かべた。
「……中、汚いと思うから、覚悟しといた方がいいぞ」
「うん……その、如月さんって人は、マトモな人なんだよね……?」
 風鈴の質問に素直に首を縦に振れない。見た目も中身もマトモとは少し違う気がするが、マトモじゃないのは服装だけか、と思い曖昧に頷く。
 双太はドアノブを回し、中にいるであろう依瑠華に挨拶の言葉をかけながら中に入る。
「おっす、依瑠華さん」
 店の中を見た双太は驚いた。
 なんと昨日店を出た時のまま、三人がかりで掃除をした綺麗なままではないか。
 前みたいに本が散乱しているわけでもなく、一冊残らず本棚にしまわれているし、相談を受ける席もちゃんと確保されている。
 しかし当の依瑠華はというと、いつもは奥の部屋からひょっこり顔を出していたが、今日に至っては部屋の中心で背中を向けて立っていた。
 彼女の側には机があり、その上に何かがあるのだろうが、依瑠華が重なっているため何が置かれているかは分からない。
 声に気づき依瑠華が振り返る。ふとした時の表情美人なのに、やはり服装が残念だ。
「おお、双太か。今日は何の用だ? 魔人の説明はもうしないぞ?」
「それはもういいよ。実は学校で会った滅凶師を紹介しとこうと思ってさ」
 なぬ? と首を傾げる依瑠華。
 双太が店の前で待機している風鈴に入るように促す。風鈴は緊張した様子で中に入り、店の中を見渡す。
「……意外と広いんですね。しかし不思議な空間だ……」
 店の外観にそぐわない妙にファンタジーな中に少し驚いていたが、依瑠華の姿を見て風鈴はさらに驚いた。
 見た目は美人なのに、三次元ではお目にかかれない不思議な帽子を被っている人がいる。全身赤で統一された服装も、美しい顔の造形を台無しにしている。
 風鈴が絶句していると、その絶句を見惚れていると捉えた依瑠華は、うんうんと満足そうに頷き、
「よく来たな。私がこの店の店主、如月依瑠華だ。気軽に依瑠華さんと呼ぶがいい」
「は、はあ……」
 差し伸べられた手を、戸惑いながら握り握手を交わす。
 二人のやり取りを見ていた双太は、散乱していない部屋を見渡しながら意外そうに呟いた。
「……今日は散らかってないんだな……」
 それを聞いた依瑠華は、恥ずかしそうに顔を赤くしながら叫ぶように反論してきた。
「わ、私だってなあ! やれば出来るんだぞ! 馬鹿にするなー!」
 少し子供っぽい依瑠華を、不覚にも可愛いと思ってしまった双太は、思わず目を逸らしてしまう。
 拗ねたような表情の依瑠華は周囲を見回し、いつも双太と一緒にいそうな人物がいないことに、気がついた。
「そういえば咲桜はどうした? 今日は一緒じゃないのか」
「ああ。友達と用事があるってさ」
 それを聞いた依瑠華はふふん、と笑って、
「捨てられたな、双太」
 顔を近付け悪戯っぽく笑う依瑠華を、双太は片手で鬱陶しそうに払い、机に置いてある物を指差した。
「ところで、それなんだよ。怪しい物じゃないだろうな?」
 依瑠華はよくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに腰に手を当て胸を張りながら誇らしげに高笑いした。
「はっはっはっ! 怪しい物などではない。お前たちにも便利な物だ!」
 依瑠華は身を翻して両手で机にある物を差した。
 そこにあった物は水晶玉だった。深緑色の苔を彷彿とさせるような台座に置かれた綺麗な透明な水晶玉。触ってしまうのも躊躇ってしまうような、高価な宝石のように見える。
 水晶玉を不思議そうに眺める双太と風鈴。先に口を開いたのは風鈴だった。
「……これは?」
「聞いて驚け! これは半径数十キロに及んで魔力を探索出来る装置……名付けてーー、」
 依瑠華が少し考える素振りをして、
「『魔力探索機』だ!」
「考えた結果そのまんま!?」

Re: ルミエール・エグゾルシスト ( No.24 )
日時: 2015/06/09 17:37
名前: 凪乃 (ID: 4/G.K5v4)



 依瑠華が誇らしげに発表した名前に双太は的確なツッコミを入れながらも、この装置自体には少しの興味を持てた。
 半径数十キロ圏内の魔力を探索できる装置——これがあれば近くに滅凶師や魔人が現れてもすぐに対処できる。しかし見た目ただの水晶玉にしか見えないこの装置で、どう探索するというのだろう。探索出来ても位置などが分からなければ、また対処も難しくなるだろう。
 依瑠華は水晶玉に手をかざし、
「ついさっきまで微調整をしていたんだ。あとはこれに魔力を送り込めば正常に作動する。いくぞ」
 依瑠華が手をかざしたまま魔力を装置に送り込む。すると水晶玉が淡く輝き始め、その光はどんどんと強くなっていく。
「うおっ!? 光ったぞ!?」
 輝きを放ち始めた透明だった水晶玉は水色に色を変えていく。そして水晶玉の中心に三つの色が異なる点が出現した。赤色、緑色、白色の点だ。
 依瑠華が手を離しても水晶玉の光は消えず、点も存在し続けている。満足そうに頷いているのを見ると、これで正常に動いているようだ。
「よし、成功だ。これでいつでも使える」
 腕を組みながらうんうん、と頷く依瑠華。
 双太と風鈴は不思議そうに水晶玉を見つめ、やはり中心の色が異なった三つの点に視線が集中してしまう。満足そうな表情を浮かべている依瑠華に、双太は小さく挙手して質問をする。
「……あの、依瑠華さん」
「どうした?」
「この水晶玉の中心にある三つの点……一体なんなんだ?」
 双太の言葉を聞いて依瑠華は水晶玉に視線を戻す。
 双太の指の先には水晶玉に存在している三つの点がある。
 依瑠華はああ、と思い出したように声を上げて、
「そうだな、説明していなかった。この点は私たちだ」
「……僕たち、ですか……?」
 風鈴の言葉に依瑠華は頷く。
「そういえば双太には説明していなかったかもしれん」
 首を傾げ風鈴へと視線を向ける双太だが、依瑠華とは今日が初対面である風鈴が何かを知っているわけがない。双太よりも難しそうな表情を浮かべて同様に首を傾げた。
「滅凶師には、属性があるのを知っているか?」
「……属性?」
 ゲームなどではお馴染みの言葉だが、滅凶師にもそんなものが存在するのか、ときょとんとしていると、風鈴が口を開いた。
「滅凶師になった時、その人に与えられる力ですよね」
「その通りだ。属性は全部で七つある。炎、風、雷、水、土、氷……そして光だ」
 そこまで聞いて双太は思い当たることがあったのか、思い出したように『あ』と声を上げた。
 そういえば咲桜を攫ったホストもどきの男たちと戦った際、自分は手に光を纏わせて戦っていたが、修行の時や逃げる狼のような魔人を退治する時の依瑠華は炎を使っていたような気がする。もしかしたら、属性とはそのことだろうか。
「この装置は滅凶師を色の違う点で表している。炎は赤、白は光、緑ということは、風鈴は風の滅凶師か」
 依瑠華の言葉に風鈴は返事と同時に頷く。
「それともう一つ教えておいてやろう。詳しいことは省くが、七つの属性で光の属性はちょっと特殊でな」
「……特殊?」
 依瑠華は相談用に設けた机の上に軽く腰掛け、腕を組みながら真っ直ぐに双太を見据えて説明を続ける。
「光は魔人に最も効果的な属性と言われていてな、使いこなせれば魔人に憑依された人間を救うことが出来る。つまり光の属性は魔を滅し、人を救うのに一番向いている属性なんだ」
 ホストもどきの時は、双太がリーダーらしき男を倒したら、自分から憑依を解いて逃げ出していたが、あの時、憑依していた魔人が逃げ出さなかったら、もしかしたら今でもあのホストもどきは憑依されたままかもしれない。
 双太の属性はそれを問答無用に救える、ということだ。だがそれも使いこなせなければ意味がないのだが、それを使う機会も早々訪れないだろう。
「そういえば、この装置に咲桜は表示されないのか?」
「ああ、本来滅凶師でも魔人でもない咲桜は表示されないが、私が表示されるように設定しておいたぞ。桃色の点を見つけたなら、それは咲桜だ」
 言われて双太は水晶玉の学校の方へと視線を向ける。あかりとの話がまだ続いているのならば、咲桜はまだ学校にいるはずだ。『いるか屋』からの学校の方向へ視線を這わせていくと確かに桃色の点を発見した。桃色の点と、それ以外にもう一つの色の点。
 あかりが滅凶師だと思っていなかったので、少し驚いたがもしかしたら協力してくれるかもしれない。しかしここにいる三人の色とは違うので、子の色の点は何属性なのか依瑠華に訊ねる。
「……なあ、依瑠華さん」
「なんだ、次から次へと」
 そろそろ鬱陶しくなってきたのか、依瑠華が鬱陶しそうな表情を隠しもせず双太へと視線を送る。双太は水晶玉から視線を逸らさず、
「……この黒い点って……何属性の滅凶師なんだ……?」
「……黒い点だと……?」
 依瑠華が表情を険しくして、水晶玉に駆け寄った。
 咲桜を現す桃色の点のすぐそばに存在する黒い点。それを見た瞬間、依瑠華はものすごい剣幕で双太に詰め寄る。
「双太! 咲桜は今どこにいる!? この地点はどこだ!?」
「え……学校だけど……」
 依瑠華は舌打ちをして、飛び出すように『いるか屋』の扉へと向かう。珍しく取り乱している依瑠華に双太は動揺しながらも、一体どうしたのか知るために依瑠華を呼び止める。
「依瑠華さん、どうしたんだよ!? この黒い点って……?」
「……黒い点は滅凶師じゃない……」
 双太はその言葉に困惑する。
 この装置は魔力を探索する装置だ。滅凶師はもれなく表示され、依瑠華の設定により本来は表示されない咲桜も表示されるようになっている。滅凶師でも、ましてや咲桜でもないとすれば、この黒い点は一体何を示すのか——とここまで考えて、双太はハッとする。
 これは魔力を探索する装置。
 滅凶師意外に魔力を持つ存在というと——。
「……まさか」
「ああ。黒い点は魔人の表示だ」
 それを聞いた双太と風鈴はほぼ同時に『いるか屋』を飛び出し、依瑠華を先導するように学校へと向かって走り出す。


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